第7話 七日目

ゴゴゴゴゴ…

ガタガタガタガタガタッ!


「地震!?」

俺は飛び起きた!震度4くらいだろうか、かなり揺れているように感じる。

窓の外はまだ薄暗い、外を見ても揺れがわかるようなものは何もないので意味が無いのだが。


ほどなくして揺れは収まった。

家の中を点検するが、本棚は倒れていないし、食器も割れていない。家の中に目立った被害はなさそうだ。

ほっと胸を撫で下ろす。


外で湯を沸かし、一息ついた。

空腹だが、食べるものはない。今日こそ何か食料を得なければ、何日も飲まず食わずでは生き延びることはできないだろう。


槍を手に持ち、水筒と大振りの包丁をリュックに入れて出発した。林に入るのは何回目だろうか、この生活に慣れて来ている自分があった。


気温は暑いくらいだが、林に入ると足元から冷えていく気がする。いつも通り池で水を汲み、例の蛇頭の巣を調べてみる。


(居た!)

あの時の蛇頭だ、右の目が血で真っ黒に固まっている。どうやら傷は癒えてはいない。

座りこみ頭は体の方に折りたたんでいる、眠っているようだ。


左手で槍の鞘を取り、柄の中程を右手で握り抜き身を下に構えた。

起こさないように近づいていく、見えないだろう右目の方からだ。

唇が歪む、人は緊張すると笑みが出るのだろうか。


自分の足音がやけに大きく聞こえる、呼吸音もだ。


槍の射程内に入った。


「ふッ!!」

力一杯押し込んだ刃は、蛇頭の首の付け根にずぶりと吸い込まれていった。

柔らかい感触が手に伝わる、そして刃の部分が見えなくなるが早いか槍を一気に引き抜いた、手応えはあった!


「ギャアア!」

蛇頭が飛び起きて、後ろに跳んだ。

しかし様子がおかしい


ドクッドクッ!

一気に血が流れ出す、赤いというより黒い血だ、心臓の鼓動に合わせて吹き出ている。大きい血管を傷つけることができたのだろうか。

足は痙攣してヨタヨタしている。

もう一度突き刺すべきか?しかし近づくと太い足の爪で引き裂かれる恐れがある、槍を構えたまま一定の距離を保って様子をみる。


「ァァァ!」

声にならない叫び声をあげ、蛇頭がふらつきながらこちらに近づいてくる!

「うわああっ!」

槍で全力で頭をなぎ払った。

ゴンッ!

打撃の衝撃で刃の部分が脱落して飛んでしまった。しかし頭骨に大きな衝撃を与えることができたようだ。蛇頭は倒れこみ、しばらく震えていたが、3分ほどで全く動かなくなった。


やった。

この大きな生き物を仕留めることが出来たのだ!上手くやれたという達成感が体を満たした。


さあこれで肉が食べられる!


喜んだのも束の間

「……どうすればいいんだこれ。」


体は、ほとんどダチョウのような構造をしているが、そもそも鶏もそのままの姿で捌いたことなどない。

このまま家まで運ぶのは重すぎて無理だ、なんとかこの場でここから肉を取って帰るしかないのだが。


とりあえずやってみようと思う。

今の気持ちは言葉にはできなかったが、自然と手を合わせていた。


さあ解体だ!

完成形に丸鶏をイメージして動き始めた。道具は大振りの包丁と槍の先にしていたペティナイフだ!


首を落とし、内臓は取り出して全て破棄した。(やり方が悪かったのか途中で謎の緑の汁が出てきてしまった。)


「うーん…」

すごい労力がいる作業だ、しかもできたのは羽毛がついたままの巨大な丸鶏のようなものだった。

どうしようもない、しかしどうにか後ろ脚を1つ分離させて取ることが出来たのでリュックに詰めた。


残りの部位をどうやって持って帰ろうか、と考えながら作業をしていると視線を感じた、どうやら血の匂いに誘われて、招かれざる客が来たようだ。


藪からでてきたそれは、ツノが生えた狼だった、口が耳の下まで裂けている。

狙っているのはどうやら新鮮な蛇頭のお刺身のようなので、作業を中断して視線を外さないでゆっくり後退し、その場を離れた。


上手く逃げることができた、遠くの方で角狼が蛇頭の肉を貪っている。

折角手に入れた獲物に後ろ髪を引かれる思いだが、角狼と戦うことはできない。



自宅に帰り着き早速持ち帰った肉を食べてみることにした。

羽毛は手でむしって、産毛は焚き火で少し焼いた。羽毛が無いと一気に食肉感が強くなった。

肉を手頃なサイズに切り分け塩胡椒をし、油をひいたフライパンで焼いた。

蛇頭鳥のステーキだ。


「美味い。」

少し硬いが味は鶏肉に近い、少し独特のにおいがあるが嫌いではない。野生の肉という感じがする。


まだかなり残っているが、冷蔵庫が動かない。生肉のままだと長くは持たないだろう。

残った肉の半分は醤油と砂糖とみりんで煮ることにして、もう半分は干し肉にしてみよう。


干し肉は作ったことはない、イメージだが塩をして干しておくのだろう。やってみるしかない。

塩と胡椒を擦り込んでから日の当たらない風通しの良いところに吊るして置いた。


煮物は鍋のまま保管しておくことにする。明日食べよう。


今日は長い一日だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る