Stage2-9 幸せな時間というのは短い

「それではオウガ君の生徒会入りも決まりましたし、早速大まかな業務内容について説明を」


 レイナの発言を遮るようにカランカランと金属音が鳴り響く。


「……しましょうかと言おうとしたんですけど、残念ながら予鈴が鳴ってしまいましたね」


「俺はこのまま始めても構わないが?」


「オウガ君にとって授業はつまらないでしょうが、生徒としてきちんと授業を受けてくださいね」


「この間は目をつぶってくれたじゃないか」


「生徒会役員になる人が校則を破っていては面目丸つぶれですから」


 クッ……! 早速生徒会に入ってデメリットが……。


 しかし、自ら生徒会に入ると言ったばかり。いきなり翻意を返してはあまりに格好悪い。


 悪役としての格を落とすのは俺の信念に反する。


 それにレイナを取り込むためにも好感度はある程度稼いでおく必要があった。


「わかった。なら、レイナの紅茶を希望する。あれは本当に美味しかった」


「…………」


 なぜか呆けた顔をして、こちらを見つめるレイナ。


 ……あぁ、なるほど。


「お茶菓子なら俺が用意するから要望があるなら聞こう」


「……フフッ、それじゃあとびきり美味しいのをお願いしますね?」


「ああ。レイナの紅茶があるだけで楽しみが増えるからな」


「……オウガ君は嬉しいことを言ってくれますね」


「俺は当たり前のことを当たり前に言っただけだ」


 クスクスと微笑むレイナの表情は今までに無かった優しさが見受けられた。


「むー。なんだか二人とも雰囲気良さそうだね」


「オ、オウガ! 浮気はダメだぞ! ちゃんと話を通してくれないと……!」


「あらあら。二人に怒られてしまいそうですし、雑談もここまでですね」


「みたいだな。じゃあ、また放課後」


「はい。生徒会室で会いましょう」


 そう言って俺たちはそれぞれの教室へと向かって分かれる。


「それにしても急な話だったね。まさかオウガが生徒会に入るだなんて」


「そうだよっ。前まで入りたくないって言ってたのに! ボク、ビックリしたんだから」


 プクリと頬を膨らませておかんむりの様子のマシロ。


 どうやら本人に内緒だったのが気に食わなかったらしい。


 だが、こればかりは許してくれ。俺も寝ている間に勝手に就任させられていただけだから。


「悪かった。少々俺にも考えがあってな」


「へぇ~……生徒会長さんを新しい婚約者にしょうとかじゃないよね?」


 ……おかしいな? 近頃はだんだんと陽気な気候になってきたのに急に冷え込んできたような……。


 ツーっと冷や汗が一筋、背中を伝っていく。


 マ、マシロさん? 魔力が漏れてませんか?


「さっきも仲よさげな雰囲気だったし……これは気をつける必要がありますなぁ。ね、カレンさん!」


「そ、そうだね。私たちともたくさん思い出を作ってからにしてもらわないと困る」


「はい! 手始めにオウガくんをボクたちにメロメロにさせる必要があると思います!」


「いいね。そうだ、副会長就任のお祝いをしようよ。」


「じゃあ、気合いを入れなくちゃですね! アリスさんもお手伝いしてくれませんか?」


「もちろんです。ぜひお手伝いさせてください」


 両腕をそれぞれがっちりと絡ませている二人は俺を挟んでキャッキャと会話を弾ませている。


 それも俺のための企画を考えてくれているのだから、内心ではニヤつきが止まらなかった。


 クックック……ずいぶんと楽しいハーレムライフっぽくなってきたじゃないか。


 同級生と幼なじみの手作りご飯……前世ならばどれだけの価値があるか。


 どんなに徳を積んでも味わえない体験だ。


「オウガくん、楽しみにしておいてねっ」


「他に予定を入れたら許さないから」


「ああ、もちろん。たとえ10000人の女に口説かれたとしてもお前たちを優先させるさ」


 そう答えると二人は満面の笑みで抱きついて、さらに密着度が増す。


 形を歪ませる柔らかなマシュマロが2つ×2。


 断言しよう。


 世界中で、ここが一番幸せにあふれている場所だと。


 クックック……アーッハッハ――


「……ところで、さっきのボクの質問には答えてくれてないけど……本当に違うよね?」


 ――さて、なんと言い逃れしようか。


 目当ては事務の処理能力だが、手に入れることには変わりない。


 当然、バカ正直に言っては後ろの脳筋正義女騎士アリスが黙っていない。


 考えろ、俺……! つかの間の平穏を得るために……! 


 俺は天才として褒め称えられる頭脳を修羅場から逃れる言い訳のためにフル回転させるのであった。




◇タイトルを書籍版に揃えました◇

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