第31話 炎の勇者
「ゲイルのアニキ待ってください!なんか足が前に進まないでやんす」
「ん?てかなんだ、お前。顔真っ赤じゃねーか。風邪でも引いたのか?」
「いや、あっしはバカなんで風邪を引いたことは一度もないっす」
「迷信じゃねーのかよ。じゃあただ疲れただけか?」
「いや、あっしはこれでもシノビでやんす。このぐらいで疲れるなんてことは、、、」
サスケはその場に倒れ込みそうになるがゲイルが受け止める。
「じゃあ、何かしらの攻撃を受けてるってことか」
「え!?」
抱きかかえられながらサスケは驚いたようにゲイルの顔を見る。
「めんどくせぇな。姿を表せよ。まあ出てこなくてもいいけどな。その時はこの山ごと燃やし尽くすだけだ」
ためらいもなく山を燃やそうと燃え上がるゲイルの前にシノビ装束を着た男が姿を現す。
「じ、ジライヤ、、、」
サスケは男の顔を見て震えだす。サスケにとっては頭に焼き付いて離れない顔だ。そんなサスケを見てゲイルはジライヤを睨みつける。
「なるほどお前がジライヤか。お前から出向いてくれるなんて手間が省けた。焼き殺してやるよ」
「物騒な男だな。話し合いとかいう選択肢はないのか?」
「先に仕掛けてきたのはお前だろ。その時点でねーよ。逆になんでお前はいきなり現れた?」
「そこの娘が必要だからだ」
「奪えると思ってるのか?」
「奪う必要なんかないさ。その娘は自分で俺の元に来る」
「なんだお前?頭沸いてんのか?」
「あ、アニキ、、、」
グサッ
サスケは懐に入っていた小刀でゲイルを刺す。
「あっし、、、は、、、」
ゲイルの腕から離れたサスケはそのままジライヤの元へと走っていく。ジライヤの横に立ったサスケの目からは光が消えていた。
「はぁ、精神干渉系か」
その光景を見て納得したようにゲイルは呟く。
「なんか落ち着いてるようだが、シノビの小刀には毒が塗られているぞ?」
「確かにこれは致死毒だな」
刺された腹に触れながらゲイルが答える。
「自分が守った子供に殺される気分はどうだ?」
「さあな。殺されたことがね―からわからねーわ」
「じゃあ今から味わうがいい!」
「ふっ」
ゲイルは我慢できずに笑う。
「何がおかしい!?」
「おい、お前マジかよ。俺を毒ごときで殺せると思ってんのか?」
ゲイルがニヤリと笑った瞬間、ゲイルから天を貫くような火柱が上がる。
「なに!?」
「毒だろうが何だろうが焼いちまえば同じだ。灰も残さねーよ」
「ちっ!だが毒を回避したくらいで勝ったと―
「うるせぇよ。さっさと死ね」
次の瞬間ゲイルはジライヤの目の前で刀を振り下ろしていた。
「ちっ!」
ジライヤはギリギリで刀で受け止める。
「受け止めちゃあダメだな」
ジライヤの刀は一瞬でバターのように溶ける。止まることなく振り下ろされるゲイルの一太刀をジライヤは間一髪で交わし、距離をとる。
「出鱈目な炎だ」
「まだ燃えだしたばかりだ。出鱈目になっていくのはこれからだぜ」
―来い、蝦蟇―
サスケを確実に持ち帰るためにジライヤは洗脳した精霊を呼び寄せる。
「クソが!精霊なんて呼んでじゃねーよ!」
巨大なカエルの姿をした精霊は、辺りの空間を歪めていき、ジライヤとサスケを包む。
「あ、アニキ。ごめんでやんす」
サスケは涙を流しながら声を振り絞る。
「うるせぇ!ガキのくせに俺に謝るなんて100年はえーんだよ!」
いつものようにゲイルはサスケを怒鳴りつけるが、ジライヤとサスケはその場から消えていく。
「俺の勝ちだ。炎の勇者」
ジライヤのその言葉を最後に二人はその場から完全に消える。
「、、、勝ちだと?ふざけるなよ。俺がロイド以外に負けるわけねーだろーが!」
ドゴン!
ゲイルは火の玉となってヒノモトへと飛んでいく。
*
「はぁはぁはぁ」
身体から蒸気を上げながら疲れ切っているロイドの前には細切れにされたアオシの肉片が散らばっていた。
「で、ここはどこだ?ニニカ!ニニカ!ニニカ!ちっ!やっぱり繋がらないか。ここ自体に魔法を妨害する結界が張られてるのかもしれないな。クソめんどくせぇな」
すぅー、ふぅー。ロイドはゆっくりと深呼吸をする。
「空気が薄いな。標高3000メートル前後ってところか。だいぶ離されたな」
ロイドは急いでヒノモトを目指そうとするが―
―契約魔法 炎縛―
突如足元から現れた炎の鎖がロイドをその場に縛り付ける。
「くそ!自分が動けなくなった時に発動するようになってたのか。うぜーな!」
ロイドは倒れているアオシを睨みつける。
契約魔法は呪いに近い。魔力がないロイドにとってはこういった縛りのような魔法が一番効く。オドを使ったところでそれは力でしかない。属性によって様々な特性をみせる魔法とは違う。
だからロイドはひたすら力でこの呪縛を引き剥がさないといけない。魔法であれば近道を探すことができるがロイドにはそれができない。馬鹿正直に力ずくで解くしかないのだ。
「くそがぁぁぁ!」
*
夜が明けヒノモト国では朝からお祭り騒ぎだった。ミユキとニニカが辿り着いた時にはロイドの姿はなかった。
ニニカはマンダの肉片からかすかに残った残留思念を読み取る。
そうしてわかったことはおおまかにこの4点。
・死んだはずだった逆賊ジライヤが実は生きていて、イガの里を襲った。
・ジライヤの魔法属性は闇で人を洗脳することに特化していた。
・更にジライヤは身体能力、オド、魔力が規格外。闇魔法を使わなくても相当の強さ。
・ジライヤの狙いは八岐大蛇の封印を解くこと。
「そして八岐大蛇の封印を解くには三つの物が必要。シノビの姫の血、シノビの里に隠されていた神器天叢雲剣、そしてサムライの姫」
「どういうことなの?」
「遥か昔、シノビとサムライは多大な被害を出しながらも厄災八岐大蛇を封印した。八岐大蛇は生き物というより災害に近い。だから殺すことはできず、封印という選択をとるしかなかった。だが八岐大蛇の膨大な力を受け止められるものはなかった。唯一受け入れられたのがその時のサムライ大将の妃。その時封印に協力したのが妃の親友でもあったシノビの姫。そして八岐大蛇の血から作った天叢雲剣を鍵として封印した。それから代が変わるごとにサムライの姫に封印されてきた。そしてシノビはシノビの姫の血と天叢雲剣を守り続けた。てな感じみたい」
「じゃあ今回ジロウと婚約するサスケって言うのは?」
「それは偽物で、サスケはこのおじいさん孫。そして王子じゃなくて姫。でも男として育てられてきたらしくて、シノビの姫とバレれば血を狙う奴が現れるかもしれない。サムライたちも同じ。女子が生まれると男として育てる。周りに目を付けられないように。昔はシノビとサムライの間でもその情報を共有してたみたいだけど、ジライヤが将軍暗殺を企てた後は互いに姫の存在を隠すことになったらしい。そして天叢雲剣はすでにジライヤに奪われたみたい」
「それでジライヤはそんな化物を復活させて何がしたいの?」
「ジライヤは八岐大蛇を洗脳して自分の手駒にするみたい」
「じゃあ結婚式ってヤバいんじゃないの!?」
「うん、結婚式でその八岐大蛇を復活させようとするだろうね。つまり今めっちゃヤバい状況!」
ニニカとミユキは焦りだす。八岐大蛇が封じられているのが今回連れ戻しに来たジロウなのだから。
―風魔法 神風―
突如魔法陣が展開され、金色の風が吹き荒れた。マンダの肉片たちはその金色の風の一部になっていく。
「何事!?」
「なんかたぶん契約魔法じゃないかな。めちゃめちゃめんどくさいパターンだよ、これ!」
金色の風がニニカとミユキにまとわりつく。
「やば!動けないよ!ミユキちゃん!」
「ちっ!早くヒノモト国の王城に向かわないといけないのに!」
荒ぶる金色の風はミユキとニニカを締め上げていく。
「「あああ!!!」」
今にも絞殺されそうになっていたニニカとミユキの元に空から火の玉が一つ降ってくる。
ドゴン!
ニニカとミユキを縛っていた金色の風は空から降って来た火の玉によって一瞬で消し炭にされた。
ちなみにニニカとミユキもしっかり燃やされた。
もちろん降って来た火の玉はゲイルだ。
一緒に焼かれたニニカとミユキが不満そうな顔でゲイルの元へと歩いてくる。
「助けてくれてありがとう!ただボクたちもちゃんと燃やされたけ・ど・ね!!!」
「やっぱりゲイルが来てたのね。助かったわ!ただすごい燃えたけど!!!」
「ん?いたのか?」
めんどくさそうにゲイルが振り返る。
「人を燃やしといてその態度はどうかと思うよ!」
「うるせぇ、魔力女。俺は急いでんだよ!」
ゲイルの口から急いでいるという言葉が出たことにミユキは驚いた。
「ゲイル、あなたがそんなに必死になってるのは珍しいわね。何かあったの?」
「いっちょ前に俺に謝りやがったガキがいてな。そいつにゲンコツをくれてやらないといけない」
「何その理由!よくわかんないんだけど!燃えた服とか絶対弁償してもらうから!急に燃やされたことによる精神的苦痛に対する慰謝料とかだって請求してやるんだから!」
水を得た魚のようにニニカがゲイルに一気に詰め寄る。
「、、、急いで。ゲイル」
ニニカはプンプンしながら騒いでいたが、ミユキは少し嬉しそうな笑顔を浮かべてゲイルに言った。
「ミユキちゃん!なんでこの男を許すのさ!ボクたち丸焦げだよ」
ニニカの怒りはまだ収まっていない。
「ゲイルがロイド以外でこんなに本気になってるのは初めてなのよ。だから許してあげて」
「ぷぅー、失礼男は許せないけどミユキちゃんがそういうなら貸しにしておく」
「ありがとう、ニニカ」
「、、、ちなみにお前らが浴びてた金色の風は若干体に入ってるみたいだからしばらく動けねーぞ」
いい感じになっている女子二人の空気なんてどうでもいいかのようにゲイルがぶっきらぼうに言う。
「「え?」」
「まあ、しばらく寝てたら治るだろう」
―火魔法 炎上網―
ゲイルはニニカとミユキの周りに炎の壁を作る。
「じゃあな」
再びゲイルは弾丸のように飛んでいく。
「暑い暑い暑い!こんなところじゃ眠れないよ!」
「この炎の壁で誰も入ってこれないけど、さすがにこの暑さじゃ寝れないわね」
「ミユキちゃんもちゃんと怒ったほうがいいよ!」
「そうね。でもなんかもう安心しちゃった」
「なんで?」
「だってロイドは絶対に戻ってくるし、そこにゲイルまでいるなんて。しかも本気のゲイルよ。どう転んだってあとはもう大丈夫よ」
「、、、まあ確かに。あの人はロイド君の唯一のライバルだもんね。ロイド君が言ってた。『振り向かずに背中を預けられる唯一の男だ』って」
「そっか。ちょっと悔しいけどね」
「うん、そうだね。ちっくしょー!もってけ、この野郎!」
―闇魔法 焦熱地獄―
飛び去って行ったゲイルにニニカはバフをかける。
「ニニカ、今の魔法って?」
「火属性の魔法を強化する魔法だよ。どうせあとは寝てるしかないみたいだしね。ムカつくけどあの人には勝ってもらわないと困るもん」
「ありがとうね、ニニカ」
「礼なんていらないよ。てかあっつーい!!!」
飛んでいたゲイルは自分の炎が強化されたことに気付く。
「ちっ!あの魔力女!余計なことしやがって!、、、だが悪くねぇ」
ゲイルは更にスピードを上げて飛んでいく。
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