第20話 眠りの庭
騎士がぶっきらぼうに「ついだぞ」と告げた。
「ここがあんたたちの幽閉所だよ」
そう告げた場所は思ったよりも立派な建物だった。
幽閉されると聞いた時はてっきり地下牢かと思っていたが、立派な石造りの2階建ての建物だった。
「元貴族の隠れ家ってだけあって案外ちゃんとした建物ですね」
「そうね」
建物はいくつかあるが、手付かずの森の中にぽつんぽつんと立てられていて、他の建物の様子は伺い知れなかった。
「さて、わかっていると思うがこの建物から出ることは禁じられている。食料は三日に一度持ってくる。水はそこの井戸を使え」
それだけ言うとくるりと背を向けて別の騎士と共に去っていった。
ぎぃーという軋む音をたてて扉が開く。音の重みがしばらくの間誰も訪れていなかったことを告げているようだった。
建物の一階は大広間、炊事場、小さな物置部屋、そして大きな窓のある居間。
2階は寝室が二部屋と小さな小部屋。
「何もない家ですね」
豪華な外見に反して、一通り家の中を巡っていたが、金目の物と思われる高価な家具調度品は全て持ち去られていた。壁には大きな絵画を飾ってあった跡が日焼けによって壁に描かれている。
昔の持ち主が手放す時に持って行ったのか、それとも盗人が持っていったのか。
まあ幸いにもベットはあるし、炊事場には椅子と机があった。
2階の寝室の窓を開ける。
周囲の木も枝も伸び放題であまり日当たりも良くなさそうだ。
とはいえ、想像していたよりもマシである。もちろんこれからの生活はどうなるかわからぬが。
「それにしてもすごい埃、蜘蛛の巣もいたるところに・・・」
「とりあえず、掃除しないと」
手分けして掃除をしていると、今朝ここに案内してくれた若い騎士が食料を運んでくれた。
俺はてんで料理はできなかったので、ラベンダーにお願いした。
聖女であるオーロラは身の回りの事は面倒見てもらっていたので、全く料理のやり方は知らなかったのだ。
まさにお姫様。
掃除が終わると、ラベンダーが俺を呼ぶ。
ちょうど、腹の虫が騒ぎ立てるところだった。ありがたや、ありがたや。
食事は宮殿と違い質素ではあったが、暖かい。疲れた身体にゆっくりと染み渡る。
食事が終わるとラベンダーは眠そうだ。
無理もない。
不安な夜を過ごして、早朝に移動。大掃除。俺とて昨日の夜からずっと意識がピンと張り詰めていた。
侍女であるが故に巻き添いを食らったラベンダーの心労を想像すると、胸が痛む。
暖かい食事が身体の緊張を解いたようだな。
「寝ましょうか」と声をかけた。
寝巻に着替えたラベンダーがお休みの挨拶をと部屋にきた。
どどーん!
すけてる。
宮殿の寝巻とは違い、湯葉のように薄いぺらぺらの寝巻からラベンダーの大きな胸がすけていた。
目のやり場に困るではないか。
「オーロラ様、お休みなさいませ」
「待って」
「なんでしょう」
「ねえ、スパイダーエイプルだけど、本当に私たちが植えたのではないのよね?」
「まさか、あれは二人で植えたエイプルです。一体なぜスパイダーエイプルが混ざったのかは私にはわかりません。それにオーロラ様は媚薬を飲まなくても王子様から寵愛を受けていました・・・・」
「わかったわ、ゆっくり休んで。おやすみ」
「お休みなさいませ」
それぞれ別の部屋に戻る。
ベットの上で片膝をつき、静かに息を吐く。宮殿と違って、明かりはわずかな蝋燭だけ。
窓の外は赤く大きな月が登っていた。エルダットにきてしばらくは俺はここが異国のどこかの国かと思っていた。
でもこの月を見て確信した。ここは奈良とは違う異世界だと。
蝋燭もわずかな数が配給されただけ。
あんまり無駄遣いができないな。
ふっと息を吹き消すと、全てが消え闇となった。
それと同時に俺もまた眠った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます