第17話 ハーブ園
そう思ったはずだった。
だが、全ては突然で、一度無常の風が吹けば、全てを吹き消すのだ。
俺はこの後に待ち受ける出来事など知らずに、ラベンダーとオーロラのハーブ園にきていた。
ここは草花を愛するオーロラに王子が与えたのだった。
といっても、広さ5,6畳程度の小さな花壇。
その中央に三尺程度のクチナシの木が植えられている。
この国の季節は春のようで、花はもう少しといった様子。だが、葉は青々として強い生命力を感じる。
2日前、初めてここを訪れた際に王子から贈られた花だと教えてもらった。
まっすぐで若々しく、甘い香りを放つリース王子のようだな。
「オーロラ様、エイプルも見事に花をつけてますね」
ラベンダーが花に顔を近づけて、香りを楽しんでいた。
数種類の花や薬草が植えられている中で、一番左端にエイプルは植えられていた。
鈴蘭のような小さな花で、淡い桃色をしている。香りは甘く濃厚な中にもどこか清楚な香りを放ち、どこか若い娘を連想させた。
ハーブとしても眼精疲労や心身の安定にも効能が高い花だ。
「さ、摘んでしまいましょう。そろそろリース王子が午後の重臣との謁見も終わるころですわ」
今日の午後、リース王子とお茶の約束がある。
王子の従者よりラベンダーに王子からのお茶の誘いの連絡があった。
外遊から戻っても政務に忙しくお疲れの王子に、エイプルをハーブティーにしてお出ししようと摘みにきていた。
あの日のお茶の約束を王子は忘れてはいなかった。
そんなささいな出来事なのに、心が弾んでならない。エイプルにも似た甘い香りが胸に広がる。
あれ。
手が止まっていると「オーロラ様、早く摘んでしまわないと王子様がいらしてしまいますよ」
「あ、すまない」
俺は目の前のエイプルに手を伸ばした。
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