第14話 王子
眩いばかりの美丈夫だった。それもかなりの。
阿難陀。(あなんだ)
お釈迦様の弟子であり甥の絶世の美男子。その容姿と王族の気品ある佇まいに出会う女性が皆恋に落ちたという男だった。
生きた阿難陀、その人だった。
誰だ、このとんでもない美男は・・・。
透けるような銀色の髪に、涼やかな薄い緑色の瞳。スッとした鼻筋。
にこりと優しく微笑む。。
ぐう・・・。眩しい。
これが阿難陀か!男がこんなに輝いて見えるとは。
女子からしたら抗い難い程、魅力的に見えるだろう。
「何を急いでいるんだオーロラ」
親しげな口調、俺を知っているか。
「リ、リース様」
ラベンダーがサッと膝を着く。
リース?
リースとはあの次期国王の?
「あなたがリース?」
男は困ったような顔をした後、つっけんどんに言う。
「おいおい、私の事も忘れてしまったのか、オーロラよ」
だが、怒っているわけではなくオーロラを揶揄っているだけのようだ。
「それにしても病み上がりの身体で急いで走るとは何事だ?」
「申し訳ございません。聖女様は蜂に襲われそうになり逃げていたのでございます。」
王子は俺の両肩を優しく支えながら、後方にいる3人の男にチラリと視線を送る。
「ほう、蜂か・・・。美しい花に多くの蜂が群がるものがだな」
「リース王子」
3人の男はサッと膝をついた。
「聖女は病み上がりだ。あまり困らせるな」
「はっ。申し訳ございません」
「もう良い、下がれ」
助けてくれたのか。
リース王子は俺に向き直る。
「さて、オーロラ体調はどうだ?先ほどは私を忘れていた様だったが」
悪戯っぽく笑う。
「申し訳ございません。まだ記憶の混乱が時々生じておりまして」
「私を忘れてしまったのかと思って、寂しかったぞ」
真っ直ぐ目を見ていた。
ドキンと胸が高鳴る。
咄嗟に目を逸らす。
なんだ、この胸の感じは。
「まあ無事なら良い」
そう言って、そっと俺を抱き寄せた。王子は俺より頭一つ高い。触れている胸元から王子の温もりが伝わってくる。
ドキドキドキドキ・・・・・
スッと体を離すとリース王子は政務が残っているからと従者と供にその場を後にする。別の従者が用意した馬に軽やかに跨る。
「リース王子、お見送りいたします」
俺もラベンダーもその場にいる皆が、膝をついた。
王子が去り、ラベンダーと宮殿へと向かう。その背に「オーロラ!!!」と声がした。
リース王子だった。
「近々またハーブティーを飲もう」
優しく微笑んでいる。その言葉に王子の誠実な真心を感じた。
俺も釣られて笑顔になる。
「はい、ではお待ちしております」
距離はあったが、互いの視線が絡み合う。
「うむっ」
威勢よく頷くと、王子は上機嫌で馬を走らせた。
「よかったですね、オーロラ様。殿下からのお誘いですわ」
ラベンダーは嬉しそうに俺に話しかけていたが、俺は全然頭に入ってこなかった。
一体、なんだったんだ。
あのときめきは。
胸の奥がキュンと切なくなるような感覚。
ラベンダーに触れられた時よりもずっと強い感情。
男の俺が、若い女性に触れられるよりも男に優しくされてときめく様なことがあるのか。
俺は動揺していて、ラベンダーは主が次期国王に気に掛けらているのが嬉しいようで気が付かなかった。
俺とラベンダーを苦々し気に見ている二人の女の視線を。
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