第3話 使用人レナシス



 レナシスは、とある大きな屋敷、地元の人達から水晶屋敷と呼ばれる場所で働いている。


 その屋敷の主人は、鉱石収集が趣味である。そのため、集めている鉱石がところせましとおかれていた。


 だから、来客はその様子をみて、水晶屋敷と名付けたのだった。


 屋敷の主人は良くもなく悪くもない。


 石の収集癖を除けば、普通の主人だった。


 しかしレナシスは一つだけ不満があった。


 それは、主人ボードウィンが魔人を差別する人間だと言う事だ。





 レナシスはレンと言う偽名を使って、働いている。


 それは、魔人である自分の種族を隠すためだった。


 この世界では魔人は迫害されている。


 正体を知られたら、奴隷にされたり、殺されたりしてしまうのが普通。


 だから、レナシスは気心の知れた人間以外には、自分の正体を話す事はなかった。






 しかしレナシスは、とあるミスをしてしまう。


 屋敷の主人であるボードウィンに正体がばれてしまったのだ。


 屋敷を追い出されるか、奴隷にされるか、最悪殺される。


 そう思ったが、ボードウィンは特にレナシスを罰する事はなかった。


 魔人に厳しいのは嘘であったのかとレナシスは一時期そう思っていた。


 だが、それは思い違いだった。


 ボードウィンは、レナシスを利用するつもりだった。


「屋敷の客人を全員チェックしろ、怪しい人間がいたらすべて包み隠さず報告するのだ」


 そう命令されたからだ。


大半の人間は、後ろ暗い事のない人間だったが、中にはそうでない人間もいた。


ボードウィンに復讐しようとする輩もいた。


それを伝えたレナシスは、ボードウィンの正体をいぶかしんだ。


恨みを募らせた人間達は隠しきれないほどの殺気をまとっていた。


そのように思われているボードウィンは一体、何者だというのか。






使用人としての仕事をすると同時に、屋敷へ訪れる人間の素性も調査するレナシス。


そんなレナシスは、とある使用人が気になった。


それは記憶のない少女、レミィだった。


レミィは、使用人として水晶屋敷に働く少女だ。


レナシスが勤めた後に入って来た後輩である。


そんなレミィは、レナシスと同じ魔人であり、特別な特徴を持っていた。


それは、魔力を高めるというものだった。


魔人と人間の違いは、魔力を持っているかそうでないか。


魔人であるレミィも、魔力を持っているようだったが、普通の魔人にはできない事ができた。


 レミィが他の魔人の魔力を高めている現場を目撃したレナシスは、それをボードウィンに報告していた。


 レナシスはその時は思わなかった、それがとんでもない事の引き金になろうとは。






 しばらくしてから、屋敷に野盗が入って多くの者達が殺された。


 使用人たちの死体は見つかったが、ボードウィンとレミィの死体だけは見つからなかった。


 レナシスは幸運な事に無事だった。


 野盗から負った怪我が致命的な部分をそれていたのもあったし、通りすがりの薬師が手当をしてくれたという幸運もあっただろう。


 その後レナシスは、各地を点々としながら生活していた。


 水晶屋敷で得ていた給料けは申し分ない額だったため、当面の生活に苦労しないのが良い事だった。


 しかし、レナシスは心はぽっかりと穴があいていた。


 ボードウィンの事は好きではなかったが、コニーやレミィなどの後輩の使用人。


 同僚の使用人たちとの日々は決して悪いものではなかったからだ。






 気力なく各地をさまようレナシスは、帝都にたどり着いた。


 自分が住んでいる国の都だが、これまでに一度も言った事がなかったので、この機会に足を向けてみたのだ。


 帝都は人々が多く、活気に満ちていた。


 人の熱にふれたレナシスに、少しだけ何かに前向きになるような活力が戻りつつあった。


 けれど、帝都は滅びた。


 見たこともない巨大生物が暴れまわって、都を蹂躙したからだ。


 崩れ落ちてきたがれきの下敷きになったレナシスは、命を落とす。


 かすむ視界の中には、慈悲もなく、人々を死にやる危険な生き物。


 しかしなぜか、その巨大生物がレミィに見えたのだった。


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