第471話 日本vsブラジル その9
レイマールダンスで俺達を威嚇するレイマール。
一瞬でも先に体を動かそうものなら、即座にその逆を突いて来る。
レイマールはその誘いに乗ってこないと知ると、一連の動きの中でボールを前に持ち出す。
互いの間合いが重なり合う日本のペナルティーエリア左ゴールライン際。
ある意味、ここは、レイマールが最も得意とするエリアだ。
レイマールの狙いは俺と槇原さんの間。
一瞬でも反応が遅れればすぐさまPKの笛が鳴る。
ドリブルを開始したレイマールは直後に十八番のシザースマシューズを発動させる。
これは一旦シザースでボールを跨いだ後に、インからアウトに足を振る際にボールを足の甲に乗せて前方にふわりと浮かせるフェイントだ。
レイマールは俺と槇原さんの間にボールを浮かせそれと同時に飛び込んで来た。
うん、大丈夫。このフェイントは何度も見た。
俺はボールが浮くと同時に体を反転させてレイマールの動きに体をシンクロさせる。
ボールとレイマールの間に一瞬でも先に肩を入れれば俺の勝ちだ。
レイマールと今まで三度も戦い、俺よりも実際のレイマールを知るであろう槇原さんも当然同じ動きをしてくると思ってた。
だが、なんと、槇原さんは迂闊にも足を上げてボールをカットしようとしたのだ。
マッキー!!それっ、絶対にアカン奴ー!!
案の定、レイマールは餌に食いついた獲物を見つけたかのような狡猾な笑みを一瞬浮かべると、槇原さんの出した足に自らの足をこれ以上ないくらい自然な感じで引っ掛けた。
オワター!!
心の中でリトル神児がそう叫ぶと、脳裏には司が昨日言った「ダイバー」の声が蘇って来た。
直後、レイマールはまるでアカデミー主演男優賞のような華麗な演技でふわりと飛ぶと、まるで宇宙遊泳でもしているかのように両腕を彷徨(さまよ)わせる。
まるで「アポロ13」でのトム・ハンクスのようだ。
「アカデミー賞一本!!」、もとい「PK一本!!」の声が聞こえてきそうだ。
だが、悲劇はここで終わりではなかった。
直後、ドンッと俺の背中押す手が……なぜに、マッキーは僕の背中を押すの?
スローモーションのように風景が流れていく中、俺はそんな疑問を頭の中で投げかける。
背中を押された俺は、宙を彷徨うレイマールの体にドンッとぶつかると、今度はそれに合わせてマッキーが絡まるように一緒に倒れ込んで来た。
その直後、ドンガラガッシャーンと、まるで将棋倒しのようにレイマールの上に重なり倒れる俺とマッキー。
それと同時に、「ギュエェー」とまるでヒキガエルを曳き潰したかのような不快な声が聞こえてきた。
声のする方向を見て見ると、マッキーの膝がレイマールの股間に深々と突き刺さっている。
タマがヒュンとなった。
神児、今、自分のタマがヒュンとなった。
直後、「ノオォォォォォォー」と叫びながらレイマールは股間を押さえて七転八倒。
それと同時に、「ピーッ!!」と耳をつんざく審判の笛。
笛の鳴る方を振り返ると、ペナルティースポットを指す審判。
「どわぁぁー!!」と一気に盛り上がる、エスタディオ・セーハ・ドウラーダ。
何が何だかてんやわんやの日本のゴール前。
後もうちょっとで前半終了だったのに、とガックリ落ち込んでいると……「PK1本でレイマールのタマ取ったとなりゃ、安いもんだろ」と耳元で槇原さんの声が……
えっ、マッキー何言ってんの?
すると、遅れてやってきた優斗が「あー、これ、マジの奴やでー、アカンで神児君、こういうことやっちゃ」と。
あいかわらずレイマールは股間を抑えて悶絶している。あらやだ、ちょっと泡吹いてませんか?
「えっ、何言ってんだよ、優斗」って言おうとしたら、なぜか審判は俺にイエローカードを提示している。
「ちがう、ちがう、ちがう、ちがう、こっちだってー」と俺はマッキーを必死に指さすも俺の言う事なんか聞いちゃくれない。
マッキーはマッキーで「赤じゃねーんだから、黙ってもらっとけ」とか言う始末。
ブラジル代表のみんなは、今の時の状況をよく理解してないのか「レイマール兄さん、また、いつものっすか?」となんかヘラヘラしている。
大方、PK一本取れてラッキーくらいにしか思ってねーんじゃねーのか、こいつ等。
あんまし、人望ないっすね、レイマール兄さん……
だが、レイマール自ら、頭の上にバッテン掲げて悶絶しているのを見て、どうやらこれは本当にヤバいらしいと悟ったブラジル代表の仲間たち。
今日は大忙しのブラジルのトレーナーさんはえっちらおっちら走ってくるとレイマールの腰をトントントンと叩いている。
あー、それ、タマ打った時、結構効くんですよねって……その治療法、万国共通なんだ。と思わぬところで目から鱗。
もしかして、体の中までめり込んじゃってますか……おー痛そう。
ってか、槇原さん。もしかして、レイマールに膝突き立てたのってあれワザと?
レイマールはトレーナーに立ってピッチの外に出るように促されるも断固拒否。
担架を呼んで重病人よろしくベンチの奥に引っ込んで行ってしまった。
結局このやり取りで5分以上経過。
なんやかんやでこの前半、60分以上が経過している。
すると、ようやく落ち着きを取り戻したエスタディオ・セーハ・ドウラーダ。
PKのキッカーはジェジェスになり、それを当たり前のように決めて、そこで前半終了の笛。
オリンピック日本代表vsオリンピックブラジル代表の国際親善試合は前半53分、ジェジェスのPKにより1-1の同点となった。
https://kakuyomu.jp/users/t-aizawa1971/news/16817330669661119524
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