第176話 閉幕、U-15東アジア選手権 その2
試合が終わるとすぐに俺達もピッチに降りて表彰式が始まった。
BGMはFIFAのANTHEM。代表戦の時によくかかっているやつですよ。
表彰台に呼ばれて協会の人が胸に金メダルを掛けてくれる。
何回やってもこの瞬間はたまらない達成感がある。
えっ、お前、そんな何回も金メダルもらったことがあるのか?だって。
失敬な、俺だってそのくらいありますよ。
八王子市市民大会とか、八王子信金カップとか、学校の球技大会とか……
俺も司もお互いの胸に掛かった金メダルを見せ合うと思わずニマニマしてしまう。
さあ、家に帰ったら優斗達に会っていっぱい自慢してやろう。
表彰式が終わった後は、応援に来てくれた遥や弥生や莉子や俺たちの家族に優勝の報告をしに行く。
まさか親父がわんわん泣くとは予想外だった。
あれっ、オヤジってこんなに感動屋だったっけ?
「自分の息子が日の丸背負って国際大会で優勝したんだから、そりゃこのくらい感動するだろ」と司。
そりゃ、まあ、そうですよね。
もっとも、司のおじさんはメダルやトロフィーを司に持たせての写真撮影に余念がありませんが…………
というわけで、その時に監督に、「実は俺の学校の部活が、明日から山中湖で開催される関東大会に出場するんです」と相談したら、
「おお、じゃあ、応援に行ってやれよ」とあっさりオッケーをもらい、今夜のうちに家族と車で帰ることを了承してくれた。
「ところで、お前ら、今夜ホテルでやるレセプションパーティー出る?」と監督。
「レセプションパーティー?」
「ああ、日本、韓国、中国、香港の選手やスタッフさん達との歓迎会だよ。うまいもんたくさん出るぞ」と監督。
「もちろん出ます」と俺達。
パーティーが始まる前に、俺達だけ先に帰ることをチームのみんなに告げる。
「なんだよ、寂しいじゃねーか」と岩山さん。
「まあ、どうせ、再来週には北海道でやるクラブユース選手権で会うんだろ」と悠磨君。
「関東大会ってこの時期にやるんだ、へー」と感心しきりの森田さん。
「司君も神児君も大忙しだね」と三苫君。
「向こう言ったらまた遊びに行くよ」と和馬君。
「今度は何食べさせてくれるの?」と翔馬君。
「えー、明日、山中湖にみんなの応援行くの?……それ、僕も一緒に帰っていいかな?」と翔太。
……ちょっと監督に聞いてくるね。
ホテルの一番でっかい宴会場で交歓会が開かれる。
どんな感じかなと思ったら、なるほど立食パーティーなんですね。こういうの僕大好きですよ。
協会のお偉いさんのお話が終わると、あとは飲めや歌えやのどんちゃん騒ぎ。
まあ、言うても、俺達が飲むと言ってもポカリかアクエリ、いいとこコーラくらいなんですけれどね。
料理を見ると、福島だけに三陸沖の幸がこれでもかと…………なるほど、フカヒレも名物なんですね。
周りのみんなは若いだけあって、ローストビーフやハンバーグなんかに行列が出来ているのだけれど、俺と司はコスト重視でとりあえず食材の高いものから食べ始める。
こういう時司の母ちゃんに鍛えられていたのが役に立つ。
俺と司がフカヒレの姿煮を取りに行くと、なんとそこには中国の巨人のヤン・ミン君が。
とりあえず、「ニーハオ」と挨拶をする俺と司。
ヤン・ミン君は「コンバンワ」と挨拶をしてくれた。
「これ好き?」と俺はフカヒレを指で指すと、おっきな指でオッケーマークをしてくれた。
「ままどおる買った?」と聞いたら、ポケットからままどおるを取り出すヤン・ミン君。
国に帰る前に食べっ切っちゃわないだろうかと心配だ。
俺と司は次に高いものを探しに回ると、その場で握ってくれるお寿司コーナーが目に入った。
見るとネタにはアワビにいくらにウニにエンガワに大トロと、高級ネタのあいうえおが揃っている。
これ、回らないお寿司屋で注文すると結構覚悟がいるんだぜ。
俺は大好物のウニを頬張りおもわず「じぇじぇじぇ」と大感激。
「なに言ってんの神児君?」とたまたま近くにいた翔太は首をかしげている。
そうか、コレもまだ数年先の話なんだな。
すると大トロを頬張り先ほどとは別の涙を流しているファン君に出くわした。結構感激屋さんなんですね。
とりあえず、お約束として、「アニョハセヨ」と俺と司。
すると「こんばんわ」とファン君。
「寿司、好き?」と持っているお寿司を指さすと。
「お寿司大好き」と親指を立てる。
「ウニ食べる?」と俺はお皿に盛ったウニの軍艦巻きを差し出すと、首をかしげて微妙顔。
あれ、もしかして、ウニのおいしさをまだご存じでない?
俺はファン君の目の前でウニをおいしそうに食べて見ると、「レッツ チャレンジ!」と再びウニを差し出す。
ファン君は目を瞑って、ええいままよと言った感じでウニの軍艦巻きを食べると、口に入れて二噛み三噛みしたあたりでほっぺたを押さえた。
大丈夫ですよ、まだほっぺは落っこちてないから。
するとファン君は今食べたウニのお寿司について何か言っている。
どうやら名前を知りたいらしい。
俺はファン君をお寿司の屋台の前に連れて行くと、
「板さん、ウニとイクラの軍艦を2つづつ頂戴」と一つのお皿にウニとイクラの軍艦を置く。そしてウニとイクラ二巻同時に口に入れる。
自腹だったらおっかなくて出来ない行為だ。
俺はファン君にも俺と同じようにするようにジェスチャー。
すると、恐る恐ると言った感じで真似ると、先ほどと同じ頬っぺたを押さえるファン君。
ファン君は今度は一人で今と同じものを握ってほしいと板さんにお願いする。
ねぇ、ファン君、ほっぺは落ちないかもしれないけれど、痛風にはなるかもしれないから気を付けてね。
未来のプレミアの得点王の健康面にいくらか暗雲を立ち込めさせて俺はその場を後にする。
すると、「なに、ファン君にやばい食べ方教えてんだよ、お前」とどうやら一部始終を見ていた司。
おおっふ、スキが無いですね、上司。
その後も、松坂牛のすき焼きコーナーや、米沢牛のしゃぶしゃぶコーナーでファン君やヤン君と遭遇する。
やはり、一流は一流を知るのですね。
大会も全て終わり、タガが外れたように美味しいものばっか食べている俺を見て、「おい、神児、あんまり食べ過ぎるなよ」と司。
ええっ!!お前がそれいっちゃうの?
他人のふり見て我がふり直せって知ってる?
まあ、言葉にしては言わないが……
だっておっかないじゃないですか。
そんな感じで交歓会いう名の高級バイキングパーティーは続いていく。
日本サッカー協会ってお金一杯持ってるんだなーと思いました。
そういや、バイキングって日本だけの呼び名なんですってね。
パーティーが終わり、みんなに挨拶して一足先にホテルを出る俺と司と翔太。
みんなもいるのでせっかくだからという事で、俺も家の車には乗らず司の家のアルファードに乗る。
最初のうちはみんなで試合の事とか夏休みの予定とかを話していたが、翔太がさっさと落ちてしまうと、莉子に遥に弥生にと次々と眠りに落ちてしまった。
夜の常磐道を西にひた走る。気が付くと車内は俺と司と運転をしているおじさんだけが起きていた。
アルファードの後部座席で、
「なあ、司、まだ起きてるか?」
「ああ、まだ起きてる」
「優勝出来たな」
「ああ、優勝できた」
「ありがとうな」
「何言ってんだよ」
「お前がいなけりゃ優勝できなかった」
「それは俺のセリフだよ」
「俺、約束守ったぞ」
「ああ、ありがとな」
「最後まで走ったぞ」
「ああ、ありがとうな」
「これからもずーっと走り続けるぞ」
「ありがとうな」
「ずーっとだ」
「ああ、」
「ずーっとだ…………」
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