第36話 限りなく透明に近いSUMURAIブルー その4
https://kakuyomu.jp/users/t-aizawa1971/news/16817330663827770779
…………………………45分後、
お通夜状態の監督室。DVDが終わったのにため息しか聞こえない。
「どうすんだよ、コレ」と順平。
「こわいこわいこわいこわい」と陸。
「ボッコボコジャン、ボッコボコ」と拓郎。
「無理、無理、絶対むり」と大輔。
後のみんなは黙って語らず。
遥だけが、「翔太がんばってたねー、今度褒めてあげなくっちゃ」と……
あらためて見てみると、唯一、翔太だけが最後までこの川崎フリッパーズと闘っていたのだ。
さすがは八王子が、いや、日本が誇るサッカー小僧。
お前と闘うことが出来て、俺は今、誇りに思ってるぞ。
と、そこで司を見ると、あー、逆効果だったかなーと浮かない表情。
「とりあえず、一回、練習に戻って、最後のミーティングの時にやるかやらないか決を採りたいと思う」と横森監督。
「うーん……」と言った感じで、とりあえず、みんなグラウンドに戻っていった。
「逆効果だったですかねー」と司。
「いやー、でも、やらないとしても、もし後で知っちゃったら、傷つくでしょ、あの子達」とその一部始終を見ていた事務の山田さん。ちなみに山田さんは今も八王子SCにいらっしゃいます。
「うん、司のやり方は間違ってないと私は思う。どうですか?クライマーさん」
「ウン アノコタチ シンケンニカンガエテタ ソウイウノ トテモイイトオモイマス サイキン ダラケテタシ」とクライマーさん。
良くも悪くも、いいタイミングでのオファーだったのではと、俺も思ってきた。
もっとも、その後の練習はみな、心ここにあらずと言った感じ、監督も、怪我が一番怖いと思い、その後はクールダウンのようなメニューに変更した。
そして、みんなが集合してのミーティング。すると、監督が、
「この決定に関しては、ここで決を採ったら、もうそれで終わりにする。あとで手を上げたとか上げなかったとかであれこれ言うのは一切なし。わかった、みんな」
「……はい」
「では、川崎フリッパーズと試合をしたいもの、手を上げてください」
「…………1,2,3,4,5」と監督がカウントする。
すると、見事に、手を上げている人数が、半数の8人。
賛成派としては、武ちゃんが「やっぱ、サッカーやってるなら日本一のチームと一回は戦いたい」との事。
また、順平も、「プロだって6-0で負けることがあるんだから、負けるの心配して戦ってもしょーがない、逆にビクトリーズよりもいいスコアで負けてやる」とポジティブなんだか、ネガティブなんだかわからない発言。
あと、遥も「翔太がハットトリックできたんだから、神児、あんたも2点くらいとれるでしょ」とノー天気な考え方の人もいた。
一方でやはり、手を上げなかったのはDF陣が多かった。
「ムリ、ムリ、あの三苫とかいう子、ぜったいとめらんないよー」と涙目の大輔。
「あー、こりゃ、試合になりませんわー、フォワードどっちも捕まえられません!!」と宣言をする真人。
「どこ守りゃ、いいってんのよ、穴がまったく無いのねー……」と目が点になったままの拓郎。
皆さん、言ってること、それなりに、分かります。
ちなみに、俺と司は試合やってみたい派です。
そりゃ、そうだろ、未来の日本代表が4人もいるチーム、戦わなかったらもったいない。
ちなみに、自慢じゃないけれど、大学の時、練習試合でチーム全員が日本代表って言うチームと戦ったんだけれど、意外と殺されなかったぞ。
まあ、日本代表と練習試合しただけなんだけれどね。
本番前なので、本気出してこなかったという可能性も無きにしも非ず。
そこで、司が監督に、
「うーん、ここにいる試合やりたい8人だけでどうにかできそうですけれどねー」と……
「確かに、やりたい人だけやってもらってもいいんだけれどなー」
すると、やりたい派も、やりたくない派も、「うんうんうん」と頷いている。
あれ、これ、意外といい案かも……と思ったら、
「いやー、実は、川崎さん、今回の練習試合11人制で是非やりたいといってきてるんだよなー」と頭を抱えた。
ありゃりゃ。
「いや、冬の大会のレギュレーションが11人制にきまったんだよ。今回は」
なるほどねー。
チームの意見としては真っ二つ、でも、賛成派だけでは試合が成り立たない。
やりたくない選手無理矢理試合に出しても、意味ないしなー……と思っていたら、
司が、「あの、すみません、コレって練習試合だから、助っ人頼んじゃってもいいんですか?」と監督に聞いた。
「うーん……多分大丈夫だと思うけれど、ちょっと、向こうの監督さんに聞いてみるよ」と横森監督。
「それじゃあ、試合するしないは、2,3日待ってもらっても大丈夫ですか?」
「ああ、向こうはとにかく、試合相手がいなくて困ってるから、少しくらいは待ってくれるだろ」
「分かりました」
「なんだ、お前、助っ人の心当たりがあるのか」
「はぁ、いや、ちょっと……」
そう言いながら、司はどす黒い笑いを浮かべた。
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