第2話 爆乳お嬢様との出会いと才能

 それは1カ月前のことだ。

 

 俺はとある大手企業でバリバリに営業をこなしており、若手のホープと呼ばれていた。だが、それを妬んだ同じ部署の上司や同僚たちに経費を横領したという濡れ衣を被せられたのだ。

 

「俺は横領なんてやってません!」


 どれだけ説明しても誰も信じてくれなかった。そりゃそうだ、俺は営業を通して会社の外での信頼関係は築いていたが、社内政治は面倒で飲み会やら社内イベントなんてものには最小限しか参加してこなかったのだ。仲間なんてほとんどいなかった。


 そして俺は嘘の横領の証拠を握られて会社をクビになった。

 

「ああ、人生終わった……」

 

 会社を追い出され、俺は真昼間の代々木公園のベンチでひとりうなだれていた。その時だった。


「はぁっはぁっはぁっ」


 荒い呼吸が聞こえてきて、俺は顔を上げる。


「うわっ、すっご」


 思わず声が出てしまった。

 

 縦ロールのお嬢様風の髪形をした美少女が、爆乳を上下にゆっさゆっさと揺らしながらジョギングをしているのだ。

 

「はぁっはぁっはぁっ」


 その美少女は懸命に前を見て走っている。やはり美しさを保つためには日々自分を磨く努力は怠れないものなのだろう。


「はぁっはぁっはぁっ」


 美少女が俺の前に差し掛かったときだった。

 

「あっ⁉」


 突如、その体勢が前のめりに崩れた。たまたま落ちていたバナナの皮を踏んでしまったのだ。


「危ないっ!」


 俺はとっさに立ち上がり、美少女を支えるために動き出す。無意識のうちに俺の両手は彼女の中で最も大きな体の部位へと伸びていた。


 ──ポヨン。うっわ、柔らけぇ……!


 気付けば俺は美少女の正面に回り込み、その爆乳の下乳をわし掴みにして持ち上げるように支えていた。


 胸の重量を俺が受け止めたことで、美少女は体勢を立て直すことができていた。目が合う。


「……貴方あなた!」


 ガッと。美少女が爆乳を持ち上げる俺の手首をつかむ。


「あっ、す、すみません!」


 遅れて俺は今の状況に気が付いた。俺としてはバランスを崩した美少女を助けようと動いただけだが、はたから見たら突然美少女のおっぱいをわし掴みにした変態でしかない。

 

 ……マズい、通報されるんじゃっ⁉


 血の気が引きそうになっていた俺に、しかしその美少女は優しく微笑んだ。


貴方あなた、もしや『乳持ち』の経験があってっ?」

「……は、はい? チチモチ?」

「乳持ち。つまり女性の胸を持つ仕事のことですわ」

「いえ、ありませんけど」


 俺が答えると、美少女は「なんてこと……!」と手で口を押えて大仰に驚いた。


「この繊細な手つき、乳の重みを感じさせない的確な持ち上げ方、どれを取っても一流のソレと遜色そんしょくありませんのに、これが初めてと仰いますのっ⁉」

「えっと、はい……。そんな職業があるなんていま初めて知りました」

「さ、才能が……泣いておりますわっ!」


 その美少女は乳を持ち上げていた俺の両手を取る。


「貴方には『乳持ち』の天賦てんぷの才能がありますわ。私のところで働きなさいな!」

「えっ?」

「私はとある財閥令嬢、いわゆるお嬢様ですわ。貴方を私の家の乳持ち係の使用人として雇わせていただきたいんですの。貴方、いまのご職業は?」

「えっと、たったいま無職になったところです……」

「なんと。これは運命ですわ。英語で言うとデスティニーですわ!」


 お嬢様はオーホッホッホ! と高笑いをする。


「雇用条件は貴方がこれまでいた会社よりも良いものを提示しますわ」

「え、でも俺、いままでそれなりに大手の企業でしたし、難しいんじゃ……」

「まず月給は100万円ですわ」

「たっかっ⁉」


 あまりの高給に叫んだが、それは序の口だった。


「もちろん年2回のボーナスあり。月給の6カ月分ですわ」

「えっ……6っ⁉︎ 1年に2回も600万円もらえちゃうんですかっ⁉」

「1日6時間勤務&フレックス制度もあり、土日祝は休みで有給休暇は年40日付与。有給は全消化を義務付けていますわ」

「めちゃくちゃホワイト!」

「住み込みで働いていただきますので衣食住にお金はかかりませんわ。各種保険も完備の他、退職時には退職金と180日間の世界一周旅行の旅ペアチケットを贈呈ですの」

「退職後の楽しみまでっ⁉」


 お嬢様はキラキラとした瞳で俺の顔を覗き込んだ。


「どうかしら? 私の乳持ちとして、貴方の手腕を発揮していただけないかしら?」

「……えっと、本当に俺なんかでいいんですか?」

「いいえ、『貴方でいい』のではありません。『貴方だからこそ』、私はスカウトしています。その乳持ちとしての資質を見込んでいるのですわ」

「乳持ちとしての、資質……」


 本当に俺にそんなものがあるのか、正直なところ実感は湧かなかった。しかし、目の前のその美少女のまなざしは真剣そのものだ。


 ……俺のことを本当に必要としてくれてるんだ。なら、断る理由なんてどこにもないよな?


「ぜひ、よろしくお願いいたします。お嬢様」

「よろしい。それではさっそく本日から働いてもらいますわ」

「はい!」

「では車に戻りますの。ついてきてくださる?」

「承知いたしました」


 歩き出すお嬢様のその姿に、またしても無意識のうちに俺の体は動き、お嬢様の背後へと回る。そして、背中側からその爆乳をわし掴みにして左右へと分けるように持ち上げた。


「なんとっ!」


 お嬢様は感嘆の声を上げた。


「……素晴らしいマーベラス! これまで乳に隠れて見えなかった地面が良く見えてとても歩きやすいですわ。これならもうバナナの皮も踏まずに済むでしょう」

「なんででしょう、いま、考えるより先に体が勝手に動いたんです……!」

「ふふっ、それこそが乳持ちとしての資質なのでしょう。やはり私の目に狂いはありませんでしたわね!」


 お嬢様は不敵に微笑んだ。


「帰ったら乳持ちとしての基礎やマナーをみっちりとレクチャーして差し上げますわ! 地獄の特訓に果たしてついてこれるかしら?」

「……全力でモノにしてみせます。よろしくお願いいたします!」


 そうして、俺の『乳持ち係の使用人』としての第二の人生はスタートしたのだった。

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