第17話 高天ケ原炎上(その5)
◇
怪我をして倒れた黒ウサは、猫娘に向かう九尾の妖狐を目で追い
「結界があったのでは……」
そこに、銭亀が駆けつけ、黒ウサを手当てしながら。
「どうやら、九尾の妖狐は近づけないフリをしていたようだ……」
銭亀は気づかなかった自分自身に、歯噛みしている。
黒ウサは呆然として
「猫は、奴の罠にはまったのか……」
見ると九尾の妖狐が猫娘に襲いかかろうとしている、しかも社に向かう階段は一本道、逃げ場所はない。
黒ウサは何もできない自分を呪った
「猫ーー! 逃げろ! 」
半泣きで叫ぶことしかできない。
猫娘は、九尾の妖狐が襲いかかる直前に、なんとか大神殿の頂上に駆け上がり、社に飛び込んだ。
九尾の妖狐は、容赦なく社を破壊する。屋根が壊され、壁面も吹き飛んでいく。
猫娘は、丸裸状態の高台の上に一人うずくまっていた。
最後のあがきともいえる、猫娘はリュックの中から、大きな花火の筒を取り出すと脇に抱え、震えながら九尾の妖狐に向けた。
しかし、九尾の妖狐は余裕だ
「残念だったな、そんな打ち上げ花火など、痛くもかゆくもない。多少知恵がまわるかと思ったが、その程度か」
蒼白な表情の猫娘は、
「やってみないと、わからないニャ! このーーー! 」
光筒を発火させると、爆音とともに花火玉が発射され、猫娘はその反動で後ろに転がり、体の至る所を打ちつけて倒れた。
花火玉は妖狐に命中して、目も開けられない閃光が、一瞬周囲を覆う!
一瞬光が周囲を覆ったあと、その光の残光のなか九尾の妖狐は健在だ。妖狐は勝ち誇ったように
「全く効かぬわ。ハハハ! 」
高笑いする九尾の妖狐
しかし、猫娘は倒れたまま、不敵な笑みを浮かべていた。
「なぜ、笑っている……」
妖狐はこんな状況で笑っている猫娘を訝っている。
その時、猫娘が虚空に叫ぶ!
「今です、アマテラス様!」
◇
遥か雲州の国、出雲大社、その大神殿の最上段
アマテラスは、天の羽衣を風になびかせ、南の闇空を睨んで昂然と立っている。
背後には八百万の神を従え、手には呂尚の宝剣を握りしめていた。
闇の空に光を見つけると、狙いをさだめ
「猫娘、見事です! 」
アマテラスは叫ぶと、手に持った呂尚の宝剣を、光の方向にめがけて投げ放つ!
光の矢となった剣は、中の国の峰々を跨ぎ、瀬戸の海原を越え、天空を切り裂く光の弾道となり、流星の軌跡を描く。
◇
九尾の妖狐の目に闇の彼方から光の点が映ると、突然体が金縛りにあう
「まさか! 猫娘、図ったな! 」
鬼の形相で、猫娘を睨みつけ、迫りくる光に慌てたが、体が動かない。猫娘は、してやったりと不敵な笑みを浮かべている。
九尾の妖狐は必死でもがくが呪縛を逃れられない。
次の瞬間、宝剣が命中し炸裂する!
光の粒子が、あたり一面に飛散して紙吹雪のように宙を舞い、その後ゆっくりと静かに地面に落ちていく。
九尾の妖狐の姿は消えた。
周囲の管狐達も動かなくなり、持ちだされた武器が周囲に散乱している。
さらに、九尾の妖狐が霧散した場所には、小さな子ぎつねが倒れていた。
◇
数日後……
がれきの中を、猫娘を始め、帰ってきた巫女や町の人々、八百万の神々も片付けや町の修復を行っている。
子狐となった九尾の妖狐は繋がれ、アメノウズメが飼うことになった。
猫娘と黒ウサは、あのコーン氏とは想像できない子狐を見ながら
「この九尾の妖狐は、ごんぎつねの子孫みたいだニャ。鉄砲に撃たれて死んだ、ごんぎつねの敵を討とうとしたみたい」
「でも、ごんぎつねは、人間を恨んでいないのでは」
黒うさの疑問に、竜宮から戻って婆さんと掃除をしている銭亀が
「同じものも、見る方向によっては、ずいぶん変わることもある。何者かが、この子狐にあらぬ事を吹き込んだのかもしれないな」
なにかスッキリしない黒ウサだった。黒ウサはさらに腑に落ちないことがある
「ところで猫、どうやってアマテラス様に呂尚の剣を撃ち込むように仕向けたんだ」
猫娘は笑いながら
「アマテラス様が出雲に出立されとき渡した折り紙の中に書いておいたニャ。 アマテラス様には、新作の折り紙は、いつもばらして、折り方を確認されることになっているので、折り紙の中に作戦を書いておいたニャ。もし、高天ケ原で異常事態がおきて、光筒が発光したとき、その場所に剣を撃ち込んでもらうようにと」
納得した黒ウサ、横で聞いていた銭亀も感心している。
しばらくして、片付けている行商人達のところに、アマテラスが出向いてきた。
皆を集めると
「皆さんごめんなさい。売り上げが気になって、つい、あの狐男の言葉を聞いてしまいました。これは、私の責任です。今後は細々とでも、欲を出さず、ひもろぎの店を続けて行きたいと思います。蔵は必ず修復しますから、しばらく待ってください」
申し訳なさそうに、頭をさげるアマテラスに
「しばらくは、おやすみですニャ」
「それじゃあ、みんなで遊びにいこうぜ! 」
黒ウサが言うと、猫娘はあきれた表情で
「黒ウサは、いつも遊んでるじゃない。でも、猫耳喫茶の制服可愛いかったし、男の人が沢山来るらしいし、やってみたい気もするニャ」
それを聞いた黒ウサはあわてて
「ええーー! それなら、ウサ耳でおれもいく! 」
そんな黒ウサを、猫娘は笑いながら
「まあ、猫耳喫茶より、鯛でも釣ってきたら腕を振るってやるニャ」
すると黒ウサは満面の笑顔で
「ほんとか! よーし、釣りにいくぞー、今から行くぞー、すぐ行くぞー」
黒ウサはこぶしを握りしめ、海釣り公園に向かって行った。
猫娘は黒ウサを見送りながら
「私もなつかしの骨董市、絶対に再開するニャ」
心に誓う猫娘だった。
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