第12話 生き残れました

「……知ってる天井だ」


 こう言う時は知らない天井ってのがベターだろうに。ここは俺の部屋か……幾度となく見上げた天井だ。


 目を覚ますと左手が包まれているような感覚がした。


「母さん……」


 見ると母さんが俺の左手を握ったまま寝ていた。


 外を見るとちょうど陽が登り始めていた。……俺がここで寝ているって事はスタンピードを乗り越えたってことでいいんだよな?


 俺が体を起こすと青い光が俺の周りをくるくる回り始めた。タクヤだ。


『やっと起きたのか!? 俺はお前が一生起きないんじゃないかって心配したんだぞ!』


(一生起きないって俺どんだけ寝てたんだよ……)


「んっん……アレクちゃん!? やっと起きたのね! 本当によかった!」


 そう言うと母さんは俺のことを抱きしめた。


「母さん、落ち着いて……」


 俺は母さんを引き離すか考えたが実行はしなかった。


「もう、本当に心配だったのよ……1週間も目を覚ましてなかったんだからね!」


 は? へ!? 1週間!?


「俺そんなに寝てたのかよ!」


「そうよ! その間にお父さんも帰ってきたのよ! それなのにアレクちゃんは起きないし……もう一生起きないのかと……起きないのかと思ってぇ……」


 そう言って母さんは泣き始めた。

 しかし、父さんも帰ってきたのか。そりゃそうか。……領民達を戦闘に使ったり、勝手に金使ったりしたけどどうすっかなぁ。


「大丈夫、大丈夫だから落ち着いて」


 俺はそう言って母さんが落ち着くのを待つのだった。


 しばらくして母さんが泣き止んだ後、フランとセラが俺の部屋へやってきた。

 母さんは父さんに伝えてくる! と言って嬉しそうに出ていった。


「ご主人様!」


 セラは俺の元へ直ぐに駆け寄ってきた。でもなんでセラがいるんだ?


「……あれ? なんでセラがいるの?」


「オーナーにお願いして目を覚ますまでの間ここにいさせてもらうことになったんです」


 ……あの奴隷商がよく許可したなぁ。絶対ダメって言いそうなのに。


「そうなのか。なんか悪いな」


 俺がそう謝まるとセラは首を横にふりいえと答えた。


「その様子だと元気そうですね」


 フランは無表情だ。でも多分心配してくれていたんだろうなーと思う。

 石を当てられた時にあれだけ慌てていたんだしな。これでなんとも思われていなければ少しというかだいぶショックだ。


「まあな。寝てただけだし……ん? 寝ている間の世話とかって誰がしたんだ?」


「私ですが?」


 フランはそう答えた。って事は待て待て! 俺の体を拭いたってことか!?


「もしかして俺の裸とかって見たりした?」


「当然です。見ないと体を吹けないでしょう?」


 俺が股間を隠すとフランは鼻で笑った。


「ふっ、安心してください。アレク様レベルの粗末の物でしたらなんとも思いませんので……」


「お前俺への対応雑になってるよな!? そんなに牢屋に行きたいか!?」


 俺がそう言うとフランは笑った。


「アレク様がそう望まれるのであれば……」


「うっ」


 その言い方は少しせこい。今までの俺だったら有無をいわせず牢屋行きだったが、あのジジイと出会って他人の良さが少しだけ分かるようになっていた。

 というか人を人として見ることを忘れていたのを思い出したのだ。

 今まで所詮この世界はゲームの世界で、俺は世界に愛された存在だと勝手に思っていた。

 だが、それは違ったのだ。この世界の人はみんな生きていて俺も生きている。そして俺を中心になんて世界は回っていない。

 それがこの歳になってようやく分かったのだ。


「はぁ、もういい。腹減ったからご飯の用意をしてくれないか?」


 俺がそう言うとフランは頷いた。


「領主様とマリア様。そしてアレク様の食事を用意します。少し待っていてください。直ぐに用意しますので……」


 そう言ってフランは部屋を出ていった。


「………」


「………」


 セラと無言の時間が続く。


「……私が成果を上げると言っていたのに、結果としてアレク様が倒れる事態になってしまいすみませんでした」


 どうやらセラは俺が倒れた事を気にしていたようだ。


「いや、セラは良くやってくれた。モンスターと対峙した最初に俺の想定以上の力を見せてくれた」


 あの魔法のお陰で士気はかなり高まっただろう。


「……ですがそれだけです」


 セラは落ち込んでいる。


「……死者と負傷者は何人ほどいたんだ?」


「死者はゼロでした。負傷者は100人ほどです」


 マジか! 死者ゼロ人か! 俺の見立てでは100は死ぬかもしれないと思っていたのに……

 ならやっぱりセラの仕事はでかかったってことなるな。


「セラ。胸を張れ、お前はやれる事を全力でやってくれたよ」


「……ありがとうございます」


 そう言うが顔は明るくない。


「はぁ、じゃあ最後に1つ命令だ。この戦いで中心にいた人物を呼んできてくれ。後、奴隷商もなアイツには借りかもあるしな」


 俺がこうやってセラに命令できるの最後になるのだろう。


「はい、畏まりました」


 そう言うとセラは部屋を出ていった。それと入れ替わるようにフランが部屋へ入ってきた。


「お食事の用意ができました。領主様とマリア様もすでに食堂にいらっしゃいます」


 俺は立ちあがろうとするがうまく力が入らず倒れそうになってしまった。

 だがフランが俺を支えてくれた。


「大丈夫ですか?」


「悪い、ちょっと力が入らなくて……悪いついでに食堂までこのままでもいいか?」


「……長い間食事を摂っていないんです。無理もありません。もう少し私に体重を預けても大丈夫ですよ」


「悪いな」


 俺はフランの指示に従い体重をフラン側に預けて食堂まで連れていかれるのだった。



「アレク! よくぞ目を覚ましてくれた!!」


 部屋に入ると直ぐに父さんに抱きしめられた。少し髭が当たってこそばゆい。


「父さん……領民から文句言われなかった?」


 俺は気になっていた事を聞いた。


「文句なんてとんでもない! お前を英雄だと言う声が多かったぞ!」


 そう言ってさらに力が強くなる。にしても領民がそんな事を言っていたとは……


「父さん力強すぎ、痛いって」


「ああ、済まない! つい嬉しくてな……それじゃあ家族3人で食事をいただくとしよう!」


 それから俺達は他愛もない会話をしながら食事をとった。

 なんか久々に家族3人で食事をとった気がした。




「あー、みんな今日はよく集まってくれたな」


 その日の午後俺は会議室に集まってくれたみんなに挨拶をした。

 集めたのはソレイユ、ガルス、セラ、奴隷商、クレア、バレッタ、ニーナだ。

 俺の横には母さんと父さんが座っている。

 そして俺達と向かい合うように他のみんなは立っている。


「目が覚めたんだね! よかったね!」


 クレアがサムズアップをしながらそんな事を言ってくれた。


「ああ、ありがとう。それでみんなに集まってもらった理由なんだが、褒賞の話だ」


「はっ、それは大変ありがたいのですが、ガルスと私は仕事として当然の勤めを果たしただけなのですが……」


「ソレイユは領民を率いてくれたんだろ? 俺への不満も多かったのに良くやってくれた。ガルスもモンスター討伐数で言えば1番多かっただろ?」


「それはそうですが……」


「まあまあ副団長。貰えるもんは貰っときましょうよ」


「ガルス! お前はなんて言う事を言っているんだ!」


 ソレイユはガルスを怒っている。


「落ち着け。これに関してはガルスの言う通りだ。貰える物は貰っておけ。……ではまずソレイユとガルス。2人には給料とは別に200万ゴールドのボーナスを与える」


「ありがとうございます!」


「ラッキー、ありがとうございます」


 ラッキーは余計だガルス。


「それとガルスお前には昇進の話もあるがどうする?」


「……俺はこのままでいいですよ。上に立つとか柄じゃないし……」


 ガルスはそう言った。まあガルスならそう言うだろうな。

 ソレイユも不満そうな顔をしているがガルスを怒りはしない。ガルスの事をわかっているからだろう。


「分かった。ならば次にバレッタ。約束通り犯罪歴の抹消と死刑囚を用意しよう」


「はん! 死刑囚なんて要らないよ。そんなもん貰ってもアタイらも始末に困る。犯罪歴の抹消。これだけでいいさ」


 まさかこんなことを言われるとは思わなかった。


「本当にいいのか?」


「くどいと女にモテないよ?」


 どうやら本当に要らないらしい。


「分かった、なら次にニーナ。何か欲しいものはあるか?」


 セラと約束したしなぁ。ニーナが欲しいものも聞かないとな。


「うーん。うーん。欲しいものも……ママとおじちゃん達と一緒に暮らしたい!!」


 ママというのはバレッタでおじちゃん達ってのは山賊の一味だろう。


「だ、そうだがどうする?」


 俺がバレッタにそう聞くと困った顔をしている。


「……ニーナ前にも言っただろう? アタイ達と一緒に居ると危険だって」


「でも! ママと一緒がいいよぉ!」


 ニーナの顔は泣きそうだ。


「バレッタお前が望むなら兵士として雇ってやってもいいぞ」


 バレッタの実力は確かだ。それが領地の防衛に役立てれたならどれだけいいことだろうか。


「誰があんたみたいな腐れ貴族の下につくかい。アタイはそう言う貴族が嫌いで山賊になったんだよ!」


 そう言われてしまった。……よし、じゃあ無理だな。そう思って目線を逸らすとセラに睨まれている。

 ……なんとしてもニーナの願いを叶えてやれと言うことだろうか。

 ……まあ約束しちゃったしなぁ。


「ならば傭兵ならばどうだ? こっちが依頼してそれをこなしてくれたなら報酬をだそう」


「ママ! そうしようよ!」



「………ッチ。分かったよ。アタイの負けだ。それで頼むよ」


「なら決定だな。さっきの囚人の代わりに報酬として100万ゴールド出そう。それでいいな?」


「ありがとよ。そう言ってくれるとアタイも助かるよ」


 あの人数を傭兵の仕事が始まるまで面倒を見ようと思えばかなり金が入り用になるだろう。

 まあこれくらいなら必要経費として捉えれるか。


「あぁ。そして奴隷商。お前に話がある」


「はい? なんでしょうか? 契約のことでしたら追加の金額は発生しませんが……もしかしてセラのことを買いたくなりましたか?

 セラは私に貴方様が目を覚ますまで一緒に居させてくれと言いましたからな。ここまで献身的な奴隷はそうはいませんよ」


 ……あーなるほどこれが狙いか。俺にセラを買わそうとしていたのか。


「その話じゃない。……奴隷を解放しろ」


「は? 今なんと?」


 俺の言葉に奴隷商は顔をポカンとさせた。セラもびっくりしたような顔をしている。


「だから奴隷を解放しろと言った。今日からロック・ド・ヒルでは奴隷の所持又は売買は違法になった」


「ふ、ふざけないでください! 奴隷は国王様もお認めになっているのですよ!」


 それは知ってる。だからご飯を食べた後父さんに確認した。奴隷を解放してもいいかと。

 そしたら帰ってきたのは了承だった。私も奴隷制度はいかがなものかと思っていた国王様には私から話をつけようと言ってくれた。


「国王はな。だからといってロック・ド・ヒルでも認めると言うのはおかしいと思ったからな。今日から奴隷は廃止だ」


 すると奴隷商は崩れ落ちた。

 流石に可哀想になってきたな。


「ただし奴隷商、もしもお前がこの町で新たな商売を始めると言うのなら支援金を渡し税金は3年間の間なしとする」


 俺の言葉に奴隷商は食いついてきた。


「本当ですか!?」


「ああ。さらにここらで有名な商人を何人か紹介しよう。それならお前も少しは納得できるだろう」


「わかりました。ではそのようにお願いいたします」


 奴隷商は頭を下げてそういった。


「すまんな。頭を下げるのはこっちの方だ。……セラはこれでいいか?」


 セラの方を見るとないていた。


「っ、っ、ありがとうございます! 本当にありがとうございます!」


「おう。最後にクレア。お前もよく頑張ってくれた。報酬は200万ゴールドでいいか?」


 俺がそう言うとクレアは首を横に振った。


「んー。それはいいや」


「ならいくら欲しいんだ?」


 俺がそう聞くとクレアの顔から笑顔が消えた。


「いや、金はいらない。そのかわり……学校へ来い」


 俺は驚きで言葉を失う。口調が変わったのもそうだが学校へ来い? どう言うことだ?

 母さんや父さんも驚いている。というかこの部屋にいる人全員が驚いている。


「く、クレア?」


「……クレアというのは仮の名前だ。私の名前はクレム・フォーリナーだ」


 そう言いながら髪の毛を外した。すると長い黒髪が降りてきた。カツラだったのか。


「クレム様!?」


 俺以外の全員が驚いている。


『クレム・フォーリナー!? だと!?』


 タクヤも驚いているようだ。だから誰なんだよ。


(知ってるのか?)


『知ってるも何も忘れたのか! クレムは主人公アレクの担任で7英雄の1人だぞ!』


(へー、7英雄ねー。は? 7英雄!?)


 俺は驚く。7英雄と言えば第一次世界大戦で最も活躍としたされる7人の英雄のことだ。


「冒険者のクレアとしてお前を手伝ったがなかなか面白かったぞ。世間ではどら息子や恥晒しと言っていたがお前はイニアエスエル家の長男として恥ずかしくない存在だろう」


「でもなんでクレアとして俺を手伝ったんだ?」


 それが気になる。最初からクレムとして手伝ってくれればよかったものを……


「なに。お前を無理矢理にでも出席させようと思っていたんだが面白そうなことをしていたからな。偽名を出して手伝うことにした」


 でもようやく理解できた。何故クレアがあんなに余裕綽々でいられたのか。ただのB級冒険者じゃないと思っていたが7英雄だったとはな。


「なら最後に質問いいか? クレアの時と今は随分雰囲気が違うがどっちが素なんだ?」


 いくらなんでも人が変わりすぎだ。二重人格を疑うレベルだ。


「? こっちだが? クレアの性格の方が親しみやすいだろ?」


 当然だと言わんばかりに彼女はそういった。って事はこんなお堅い感じの人があんな元気っ子を演じていたのか。

 歳は30超えてそうだし……


「きっつぅぅ」


 俺はつい本音を漏らしてしまった。

 それと同時に俺の意識は刈り取られるのだった。

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