第19話
商業ギルドの職員さんが帰った後、私は暇を持て余していた。お客さんは来ない。予想以上にアロエ軟膏が売れ、現在品切れ中だということが周りに知れ渡っているため怪我をしないとお客さんは来ない。そして、薬を作ろうにも材料がないので作ることはできないし、作れる物は販売の許可が降りていない。仕方がないので私は裏庭で魔法の特訓でもすることにした。
「ドゥニさん。私、裏庭に行きますね」
「ああ、分かった」
ドゥニさんの了解も得られたので私は裏庭に向かう。そんな私の足音を聞きつけたのかウルフェンがお腹を出して服従のポーズをとっていた。朝洗ったばかりの身体は土まみれになってしまった。私はある程度ウルフェンのお腹をなでた。
「ウルフェン。お座り」
すると、ウルフェンはポーズを変えて座る。私はそれを確認した後、温度を常温にした水球を発動した。するとウルフェンはジャンプして水球へ飛び込んだ。私はウルフェンが泳いでいるのを見て、水球を長方形に変化させる。一時遊ばせていると満足したのかウルフェンが私を見つめてきた。それを合図に水球からウルフェンを外に出し、排水は裏庭の隅に流した。
排水を流すと同時に私は結界を自分とウルフェンの間に貼る。何故ならウルフェンが身体をブルブルさせて水を飛ばしてくるからだ。これまでの経験でそうなることが分かっている。予想通りの行動をして周りに水を飛ばしていた。
水を飛ばし終えたウルフェンは一鳴きして終わったことをアピールすると私は温風を出してウルフェンの毛を乾燥させる。結界で作った櫛でふさふさに仕上げるのがポイントだ。乾燥させ終わったウルフェンを抱いて、私は薬屋に向かう。魔法の特訓をしようかと思ったがふさふさのウルフェンを抱きかかえるとそんな気力はなくなってしまった。
お店にウルフェンを入れることはペルリタさんに止められているためお店の前でウルフェンと遊ぶことにした。ここに来てから一か月半程度しか経っていないが娯楽のないこの世界ではウルフェンは人気者だ。通りがかった子供連れの主婦やお爺さんまでウルフェンを見つけてはそのモフモフを堪能していく。
いつの間にか時刻は夕方になっており、ペルリタさんが目の前に立っていた。ペルリタさんもモフモフ成分には勝てずにウルフェンを堪能した後。
「お店を閉めるから手伝ってちょうだい」
と言った。私は裏庭の方を指さし。
「行け」
と言うとウルフェンは小走りで裏庭へ駆けて行った。そしてお店を閉めるのを手伝う。中にいたドゥニさんも手伝ってくれたためお店を閉めるのに時間はかからなかった。いつもドゥニさんを夕飯に誘うのだが。
「すまないな。妻が食事を作って待っているんだ」
と言って断られてしまう。これがいつもの光景でドゥニさんはいつも帰ってしまう。そんなことにも慣れ始め、家で夕飯を食べている時にペルリタさんにお願いをする。
「ペルリタさん。私、研究をするために魔石が欲しいのだけれど買ってもいい?」
「それは急ぐの?」
「急ぎはしないけれどあればこの前ブラスコさんに取ってきてもらった薬草の効果が分かるかもしれない」
「どれくらい必要なの?」
「あればあるだけいいかな」
「なら明日も冒険者ギルドに行く予定があるからその時に買ってこようかね。配達してもらうように頼むから明日は倉庫を掃除しておいてね」
「分かった。あと商業ギルドの職員さんが来て、圧搾機と遠心分離機のレシピを公開するって。アロエクリームと乳液はあと二週間待って欲しいだって」
「分かったわ」
そう話している間に私たちは夕食を終えた。その後は鏡写しの儀を行い、退屈なけれど大切な一日を終えたのであった。
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