第155話

 もう何度ここに来たか分からないぐらい来ているのに。



 ドッドッドッドッドッ………



 今日がもしかしたら、過去一の心拍数かもしれない。



 いつも通り政さんから預かっている鍵で政さんの部屋に入って、電気と暖房をつけて荷物を置いて、ボクは一旦大きく息を吐いた。落ち着きたくて。



 ドッドッドッドッドッ………



 何回か深呼吸をしてみたものの、そんなことでは落ち着いてくれなかった。ボクの心臓は。



 だって………ね?



 でもないくせに、こんなにも緊張するのは、相手が他でもない政さんだからだ。



 つまりその………ボクの、初めてちゃんと好きになった人、で………ボクの、



 ………ダメだ。ダメだよダメダメ。考えたらダメ。考えたら負ける。………って、何に。誰に?



 だからダメだって、ボクは頭をぶんぶん振って、いつもなら邪魔にならないところに適当に置く上着を、今日はもっと邪魔にならないところに置きたくて、ハンガーを借りるべく政さんの服が置いてあるクローゼットを目指して寝室のドアを開けた。



 ………のを、ボクは激しく、激っっっっっしく後悔した。



 ベッド。



 何度も一緒に寝たことがある、大の大人の男ふたりがわりと余裕で寝られる政さんのベッド。

 いつもなら起きてそのまま、乱れたままのことが多いそこが、今日に限って何故か。



 ………政さん。シーツが交換されているような気がするのは気のせいですか。



 なかなかキレイにベッドメイクされている。



 こっ………これは。

 これはもう、今日致すってことで間違いない………?



 ドッドッドッドッドッ………

 ドッドッドッドッドッ………



 心臓が、壊れそうなぐらいの勢いで跳ねている。

 ちょっとは落ち着いてくれないと、政さんが帰って来る前に疲れ果ててしまう。



 わざわざ早起きしてシーツをかえてくれたってことは、実際にできるかどうかは置いといても、政さん曰くな政さんにが………ボクをがあるっていうこと。



 もし今日できなくても、できなかったとしても、それだけで今日は。



「ーーーーーっっっっっ‼︎」



 何気なく………というか。



 ここにしっかりと抜かりなく持ってきたを仕込んでおいたら、政さん引くかなって、何気なくぺろっとめくった政さんの枕。その下に。



「………もうっ」



 すでにしっかり置いてあった、



 ボクは政さんの枕を持ったまま、へなへなと床に座り込んだ。



 ………政さん。



 政さんは本気だ。今日、本気でボクを。



 たろちゃん。



 期待と不安、心配でぐちゃぐちゃになりそうな気持ちを落ち着かせようと、ボクは胸元のネックレスを握った。



 勝負前はこれを握るに限る。………今回は、勝負ではないけど。



 たろちゃん。



 今日ボクは、政さんの………運命の人の、最愛の人の奥さんに………なるね。



 大きく吐いた息と共に、ボクはそんな報告をたろちゃんにした。


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