無人の一言

三毛猫

第1話

 ベージュの紙の箱が規則正しく等しい間隔を空けてたくさん並んでくる。彼は始まったと思った。デカいコンクリート造の建屋の中に、広々とした空間がある。壁と天井は真っ白に塗装されているが、床はまるで作られたような緑だ。光沢があるせいで床の歪みが水の流れのようにして光っている。その中にブリキ色の骨組みで15のレーンが作られ、その先は一つのコンベアに集約されている。コンベアが沿わされている後ろの壁のど真ん中に丸い大きな時計がぶら下がっている。そして、その時計の真ん中にある温度計は5℃を指している。

「はい、小野さんは冷食の仕分けね」

 面接を受けて、すぐに所長が彼を冷食の仕分け作業に配属させたのは、別段その仕事に学や素養が必要ないためにある。

 倉庫な西側にあるその食堂は食堂と呼ばれているが、厨房はなく、あるのは自販機と長机と椅子である。その事務的なデザインに似合わずにあるのは食品系の自販機くらいで、中身は菓子パンやらスナック菓子程度である。

 倉庫は複数の企業が利用しているが、彼とは別の企業でパートで雇われているのは女性ばかりだった。人妻ばかりなのであろうが、熟女ばかりというわけではなく、中にはその群れから外れた若い女の人がいる。彼はその人に気づかれない程度にしかしはっきり彼女を見ていた。

 まず彼は彼女の裸を想像した。身長は高めで細身なので足や手も棒のようなイメージであった。しかしその所々に少しばかり女性的な膨らみを感じられるような柔らかさをイメージし、陰部を触ると体はどのように波打つのだろうかと想像した。胸は平均的だ。股の匂いを想像する。イジるとなにか感じ取るだろうか、それともマグロだろうか。髪は赤茶けている乾燥して不摂生な感じを思わせる。しかしながらその見た目から少しばかり不幸を感じ取ることのできる場合、彼の妄想にはとても都合が良かった。乳臭さを感じられない夏の干し草のような匂いがその女の人のイメージとともに湧いて出た。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る