第22話 流れる時間

 防具ができるまで一ヶ月。

 その間は軽めのクエストや鍛錬に充てることを僕は提案した。


「みんなの身体能力の高さや武器の扱い方の上手さは分かった。だけどそれ以外は並の新米冒険者だ」

「なんだよ。強さを測るのにそれ以外のことあるのか?」


 不満そうにニールが口ごたえする。

 が、一応話を聞く気はありそうだ。


「個人の強さとパーティとしての強さは必ずしも一致しない。そりゃあ強い人が集まってるパーティは強力だけど、それなりの面子しかいなくても強力なパーティは存在する。そういうパーティはメンバーの役割と特性がハッキリしていて、それを動かすブレーンが存在するんだ。こないだのゴブリンの巣穴狩りとダンジョンの捜索ではやりやすさが違ったろ」


 みんなは無言でうなづいた。


「アレはあらかじめ僕が全員の役割を決めていたからだ。もちろん、即席だしみんなの実力が分からなかったからシンプルで可変性のない作戦だったけれど。アレをもっと洗練していけばこないだのダンジョンでだって戦えるようになる」


 僕の言葉にみんなが聞き入っている…………気持ちいいな。

 やっぱり僕は教職とかの方が向いているのかもしれない――と、悦に浸っているとグラニアが水を差す。


「なんでソロだったのにそういうことに詳しいの?」

「本で読んだ! 実践はしてない!」


 なーんだ、という呆れ声と笑いが起こりパッと場が賑わった。

 もう開き直るしかないな。




 それから三週間の間に僕たちは五件のクエストを消化した。

 食料や素材用であまり強くないモンスター狩りを狙って受注し、そのすべてを三日以内で完了した。

 余力を残しながらのクエストだったので街に戻ってからも体力を持て余していたのでギルドへの報告を終えるとすぐ、みんなで酒盛りをして過ごした。


「ギャハハハハハハ‼︎ ウィンってやっぱドーテイなんだ‼︎ そりゃあソロじゃできないもんな‼︎」

「魔術師はプラトニックの方が良いって昔から言われてるんだよ! リビドーと魔力の錬成には近しい関係があって、生涯貞潔を貫く術師だっている!」

「俺、女の魔術師五人くらい喰ったことあるけど」

「やっぱウィンがモテねえのが悪いんじゃねえか!」

「ハハ、クイントはモテすぎなのが悪いんだけどねー」

「気にすることないし! そもそもニールやクイントがおかしいだけだから! ほら、ドンちゃんは仲間だよ」

「いや……オラは村にいた時、仲の良かったお姉さんと……」

「ブッッッ! ドンちゃんっ⁉︎ 嘘でしょう‼︎」

「おー、珍しくグラニアが取り乱してるぅ。ククク、いっそウィンと初心者同士仲良く卒業してきたらどうだ?」

「や、やめなさいよ! そういう下品な物言いは!」

「……アレ? グラニアってレオとそういう関係なんじゃ?」

「はぁ! ちょっ、誰がそんなことをぉーーーーっ⁉︎」

「イテテテ! だってグラニアとアリサ両方抱えてベッドに連れてったじゃないか!」

「そんなの普通――――でもないか……いやいやいやいや、そういうのじゃないし! オレもし……したことないからっ!」

「えっ――――そうかぁ……」

「なんで嬉しそうなんだ?」



 なんてことをしていたらろくに依頼達成の報酬など残りはしない。

 もっとも、先のダンジョン発見報酬の前借りがあるから当面の心配はしなくていい。

 気楽で、心地良い時間だった。

 連中のやかましさにも慣れてきたし、それに僕自身の修練も調子が良かったから。


 そんな珍しく上機嫌だった僕の心を曇らせたのはやはりというべきか、ジュードとトーダイ学院に通っていた過去にまつわるものだった。



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