第3話

(3)


 ――ハリーちゃんと外に出る時は戸締りをすること!!分かったわね


 寝室へ行く少女の子が鼓膜奥に残響として響くのが消えぬうちに老人の声が聞こえた。

「なぁ、ハリー。都の遺跡調査団といっても、古き世界から残った遺跡や墳墓を調べてこの世界に散らばる奇石――つまり『奇蹟(ミラクル)』を集めるのだから、そこら辺の盗賊風情と何もかわりやしねぇ。唯、依頼元がちゃんとした都の大僧正会(クレリック)か、そうじゃないの違いだけさ」

 客人も夜半の寝静まったホテルの小さなロビーで老人は目の前に腰掛けるハリーに呟くように言う。

 ハリーはと言うと呟きながら人が口に運ぶスコッチを見ているのかみていなのか、瞼を半分閉じた様子で外の様子を伺うように肩に剣を置いて聞いている。

 その剣を老人はちらりと見て、スコッチを口に入れた。

「精神刀剣(ストライダー)…俺も元はそいつを背負いながら荒野を彷徨う『造魔(ゾーマ)』達を狩る狩人(レンジャー)だった。やがて俺の腕を見込んだ風見鶏ホテルのオーナーがホテルの壁人として俺を雇い、やがてこの小さな風見鶏邸を任されることになった」

 ハリーは静かに半眼のまま瞼に落ちる室内の夜光を受けたまま、黙している。

「ハリー、ホテルというのは今この世界で旅人の安全を絶対に守らなければならない使命がある。ホテルは世界中至る所で旅人の安全を守り、それが出来ることで信頼が成り立ち、商売ができる。それは言い換えればこのホテルを襲撃するかも知れぬあらゆるあらゆる『造魔』から旅人を、いやこの風見鶏邸でいえば客人と儂とマリーを守ることになることになるが…」

 そこで思わずハリーが含み笑いを漏らして呟くように言った。それは尊敬の意味を込めた敬意のある声音だった。

「――辺境一の竜殺しの(ドラゴンスレイヤー)ダンを守る必要があるとも思えんが」

 ハリーの声を聞いた老人はぐぃと一気にスコッチを喉奥に押し込んだ。押し込んで酒混じりの息を吐くと言った。

「…歳だ、悪く思わんでくれよ。人間は歳追えば後は力無く朽ちるだけさ。まぁお前さんのように若く常に精力溢れている奴にこの思いは分からんだろうがな。しかし儂の歳のお陰で今度はお前が此処の壁人になった。それは恩に感じてもらわなければならないぜ、なんせ突然夜半に夜風に吹かれて現れたどこの奴かもわからぬ余所者に仕事と眠る場所を与えてやったんだからな」

 言ってから老人は立ち上がった。立ち上がるとカウンター越しの電子モニターが光るのが見えた。老人が側によりモニターを見た。

「…発信は此処より北西1.5キロ先。峡谷の入り口あたりから緊急コールだ。何だ?これは?ハリー電文を読むぞ。――こちら、風見鶏邸のキャラバン隊長グレース、至急応援を請う。『人狼(ワーロン)』達の襲撃を受けている。近辺の荒野警備隊、ホテルグループに至急要請を請う!!――-おい、どうだ、ハリー?!」

 そう言って老人がハリーを見た時、既にそこに彼はおらず、ホテルのドアの鍵の掛かる音が老人の鼓膜奥に聞こえた。ハリーは急ぎ出て行こうともマリーの言いつけは守って精神刀剣(スタライダー)を手にして鍵を掛け出て行ったのだ。

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