第10話 三月書房の思い出

 京都の本屋さんといえば、丸善みたいに大きなお店ではありませんが、三月書房というお店が寺町二条上ルにありました(二〇二〇年閉店)。


 一見、普通の、町によくある本屋さんです。それどころか、道行く観光客に古本屋さんと間違われるような佇まいでした。


 でも、品揃えがすごかった!


 思想、文学(特に短歌)、歴史など、これは私が関心のあるジャンルだから余計にそう思うのかも知れませんが、厳選された品揃えといった感じでした。一般的な本屋さんと違い、実用書や学習参考書の類は置いてありません。戦後の思想家、吉本隆明さんらが通った逸話もあるお店であり、営業終了の報は新聞記事にもなりました。


 三月書房の店内には、カラフルなポップも、ビジネス本や自己啓発本も、当然ながらオリジナルトートバッグや雑貨の類もありませんでした。ただ、選ばれた本が、だいたいの種類別に並んでいるのみ。


 この店を知らない若い友人を連れて行ったこともありました。文学部卒くらいの子なら、このお店の品揃えの素晴らしさに気づいてくれたことと思います。


 ついでに言うと、近くには梶井基次郎『檸檬』の主人公がレモンを買った『八百卯』もあり(ここも閉店)、聖地巡り(?)としてはなかなか良いシチュエーションでした。


 残念ながら、時代の流れで一昨年に閉店されたのですが、大学の多い京都ならああいった品揃えの店が他にあっても良いのではないかと思います。

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