第245話 Licht~光(5)

「ほんと。 おっきい赤ちゃんねえ。 でもすっごくあなたに似ているわね、」



翌日やってきた絵梨沙の母・真理子は病院に来てから、ずうっと赤ちゃんを抱きっぱなしだった。



「まだ40半ばなのにおばあちゃんになっちゃったわ、」



と、いいながらもうとろけそうな顔で『孫』を見つめる。




「真尋くんは、どうしているの?」



全く姿を見せない彼のことが気になっていた。



「うん・・、」



絵梨沙はそのことになると、うつむいてしまった。



シェーンベルグが入院をしてしまって、ひとりで練習に没頭している。



本当はすぐにでもスタジオに様子を見に行きたいのだが、南に任せるしかなかった。




「な~~、ちょっとは休まないと。 手えだいじょぶなん??」



南は絵梨沙から真尋がオーバーワークになったり、その辺で寝転がったりしないように見張っていて欲しいと頼まれていた。



真尋は無視するようにピアノを引き続ける。



とにかく集中力がハンパないので、こんな時に声をかけてもムダだと南もわかっているのだが。




エリちゃん



こんなんにいつもつきあってたんかなあ。



妊娠して身体がつらかっただろうに。



南は絵梨沙の真尋への尽くしぶりを思い知る。




出産後3日ほどで退院することになり、南は赤ちゃんの部屋を嬉しそうに準備をしていた。



「ほんとにすみません。 南さんにいろいろしていただいて、」



真理子は恐縮したが



「いえいえ。 もう・・真尋とエリちゃんの子なら自分の子供みたいで。 ほんまに嬉しいんです。 今、二人は本当に大変な時をここで過ごしているんだってことわかりましたから。 あたしでできることならなんでもしてあげたい。 真太郎も同じ気持ちですから、」



南はベビーベッドの上のぬいぐるみの頭を撫でた。



「・・先生のお加減はよくないの?」



真理子は気になることを聞いてみた。



「・・あまり。 今入院してて。 真尋は一人で練習中です。 10月に入ったらオケとの練習があるみたいで、それまで納得いくまで仕上げたいって。 前にも先生は入院してたんですけど、抜けてレッスンをしに来たりしてたみたいなんです。 ほんま無理してるってエリちゃんも言うてました、」



「・・そう、」



「真尋の一世一代の大舞台ですから。 志藤さんも真太郎も来るって言ってます。 それまであたしは何とか真尋とエリちゃんを支えていきます。 沢藤先生の分までお世話させていただきますから、」



南の熱い思いに真理子は心打たれた。




「ありがとう。 絵梨沙は大変だろうけど本当に幸せだと思います。 こうしてみんなに支えてもらって、かわいい赤ちゃんも授かって。 親としてあたしは何もできないけれど・・」



「みんな。 家族ですから。 誰かが頑張っているときは全力で支えたいですから。」



いつもの人懐っこい笑顔でそう言った。





絵梨沙はとにかく赤ん坊がかわいくて、片時も離れたくないようだった。



「抱き癖がつくわよ、」



真理子が苦笑いをするほどだった。



「もう・・ほんっとにかわいくて・・」



愛しそうに寝顔を見つめる。



「そうそう。 名前は?」



思い出したように聞くと



「・・うん。 考えてるのがあるから。 真尋に相談してって思ったんだけど、」



真尋は相変わらず家にはほとんど戻らなかった。



絵梨沙はさびしそうに笑った。



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