プリンセス・コンプレックス

たかすみ

クイーン

 ギラギラなアイシャドウに、何重にも重ねた付け睫。ワインレッドのリップを引いて、ヌーディな色味のチークを入れる。


「まあ、良いんじゃねぇの」


 鏡で色々な方向から自分の顔を眺める。数か月前までは化粧下地の意味さえ分かってなかったような男が、今では手順を調べなくともカットクリースを仕上げられるようにまでなった。

 その辺で買ってきた安い女性ものの服をアレンジした衣装を身に纏い、フィルターをゴリゴリにかけて自撮りをSNSへとアップする。


『今回は某映画のプリンセスを意識してメイクをしたの。似合うかしら?』


 なんて一言を沿えて。


「何になるんだか……」


 増えていく『いいね』を眺めながらぽつりと呟く。

 何気なしに始めたメイクと女装。化粧をしている最中は満たされていく感覚があるというのに、いざ完成すとさながら賢者タイム同様の虚無感。

 大袈裟なまでな溜息をついてから、付け睫を剥がす。そして、近場に置いてあった化粧落としとコットンに手をかける。海外製の発色がかなり強いアイシャドウを使っている為、化粧落としは3段階に分けて行っている。アイメイクを粗方落とし終わったら、スマホを抱えて浴室へと向かう。


『今回もお綺麗ですね』


 湯船につかってスマホを確認すれば、見慣れたアイコンからのメッセージが届いていた。今まで一度も返信や反応をしたことはないが、それでも2年前から律儀にメッセージを送ってくるのだ。

 アカウント名は『僕』で、アイコンはずっと真黒。ヘッダーも同じで、プロフィール欄に何を書いているわけでもないし、何か投稿もしていない。要は何もわからない。ただ、害はなかったため放っておいている。


(っとに、物好きな奴……)


 ただのドラァグクイーンの真似事をしているだけの男に、それに毎度コメントを送ってくる男。


「なんつー関係性なんだか」


 二度目の大きなため息をついた。

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