孤児だけどガチャのおかげでなんとか生きてます

兎屋亀吉

1.ひろしだった記憶とガチャスキル

 寒くて目を覚ます。

 歯の根が合わないほどに自分が震えていることに気が付いた。

 早く暖を取らなければ死んでしまうかもしれないのだけれど、頭の中がごちゃごちゃしていて動けない。

 俺はひろし?それとも私はアリア?

 自分の中に2人の自分がいるような気持ちの悪さに、胃の中にたっぷり詰まった川の水を吐き出した。

 少しは楽になったようだ。

 落ち着いてくると自分というものを客観視できるようになってくる。

 私はひろしではなくアリア。

 今年10歳になったばかりの幼女で、孤児。

 私のいた孤児院は10歳になるとスキル鑑定というものを受ける決まりだ。

 そこで有用なスキルを持っていることがわかった孤児は、裕福な人間によって引き取られていく。

 孤児院はその見返りとして金品やそれに類するものを受け取る。

 体のいい奴隷売買みたいなものだ。

 私はガチャという誰も見たことのないスキルを持っていることがわかり、売られることが決まった。

 私を引き取りたいと言ってきたのは子供好きで知られており、孤児院とも付き合いの深い豚みたいな商人だ。

 十中八九ロリコンのド変態だろう。

 と殺されるべき人種だ。

 私はガチャという使えるかどうかもわからないスキルしか持っていなかったのだが、よほどロリ豚商人の好みの外見をしていたらしく商人は孤児院に足元を見られても気にせず大金を支払い私を引き取った。

 やばすぎる。

 あと数日で自分の貞操が奪われることに恐怖しながら移送されていたのだが、その途中で馬車が魔物に襲われたようで激しく揺れた。

 気が付いたら谷底に向かって馬車ごと落ちていたのだ。

 谷底は流れの速い川で、足から落ちたおかげでなんとか命は助かった。

 だがボロボロになりながら下流まで流されてしまったのだ。

 生死の境で、私はひろしのことを思い出した。

 ひろしはおそらく私の前世というやつだろう。

 一人の男がとある世界のとある国で一生を過ごした記憶を私は生死の境でかいま見た。

 中身の薄いくだらない人生だったが、アリアの10年しかない人生よりは長かったのは確かだ。

 そのせいで今の私はかなりひろし寄りの人格になってしまっている。

 鏡で自分の顔を見てアリアたんペロペロとか言い出しそうで怖い。

 ひろしはと殺されるべき人種だったのだ。

 

「はぁ、まずはなんとか身体を温めないと」


 私は動かない足を引きずって、腕の力だけで川べりに移動する。

 寒いし全身が痛むが、ここで動かなければおそらく私は明日の朝を迎えることができないだろう。

 幸いだったのは、ひろしの記憶を得てガチャスキルというものがどのようなものなのかの見当がついたということだ。

 上手くいけば、この状況を打開することができる可能性もある。

 すべてはガチャ運次第といったところか。

 ガチャっていうのはひろしの世界ではカプセルの中に入ったおもちゃの販売機のことを言う。

 最近ではスマホゲームのランダムでアイテムが出る課金装置のことを指してもいる。

 もし前者のようにおもちゃしか出ないガチャだったらもう私の人生はおしまいだが、後者のアイテムが現実となってランダムで出てくるスキルだったとしたらまだ可能性はある。

 とにかく身体を温めるアイテムか、怪我を癒すアイテムが欲しい。

 怪我は動くのに支障が出るほどだがすぐに死ぬような出血性の傷ではないし、身体を温めるほうが優先順位は高い。

 問題はガチャがどのようなシステムになっているかだ。

 1日1回だったら今は1回しか回せないし、お金がいるようだったら1回も回すことはできない。


「さあ、どっちだ」


 スキルを使うことを意識すると、空中に白いディスプレイが現れる。


ガチャメニュー

 ガチャレベル:1

 ガチャスキル:なし

ガチャポイント:3712ポイント

  単発ガチャ:371回

 11連ガチャ:37回 ※Bランク以上1つ確定

110連ガチャ:3回  ※Aランク以上1つ確定


 ポイント制だった。

 しかも大量のポイントが溜まっている。

 スキルはある日突然生えるようなものではないから、これは生まれてから今までの蓄積ポイントなのかもしれない。

 私が生まれてから10年と2か月ほど。

 1年を365日と考えれば大体生まれてからの日数とガチャポイントの総数が等しくなる。

 1日1ポイントもらえるのか。

 それで単発ガチャが1回10ポイント。

 単純に考えれば10日に1回単発ガチャが回せるということになるので1日1回ガチャよりも少し損だ。

 だが1日1回ガチャだったらこれまで回さなかった10年と2か月が全て無駄になるので、これはこれでよかったと考えるべきだろう。

 さっそくガチャを回すか。

 回せる回数は単発なら371回、11連なら37回、110連なら3回か。

 11連は1回100ポイント、110連は1回1000ポイントということなのだろう。

 おまけに11連にはBランク以上のアイテムが1つ、110連にはAランク以上のアイテムが1つ確定で出てくるらしい。

 アイテムのランクの違いにどのくらいの落差があるかはわからないが、回数的にもお得でアイテムのレアリティも保証されている110連ガチャや11連ガチャを回さないという選択はない。

 私は手始めに110連ガチャを1回回してみた。

 ポイントが1000ポイント減り、ガチャマシンが現れる。

 具現化系能力みたいでかっこいい。

 ガチャマシンにはつまみの横に110の表示。

 この回数だけ回せということか。

 つまみを捻るとガチャンという機械音がして、ブルーのカプセルがコロリと出てきた。

 カプセルは意外と小さい。

 一般的なカプセルトイのカプセルよりも一回り以上小さく、ピンポン玉くらいのサイズだった。

 アイテムってこんなに小さいのかな。

 それともアイテムによってカプセルの大きさが異なるのだろうか。

 つまみの横の表示は109になっていた。

 110連といっても連続で出てくるわけではないようで安心した。

 110個全部一気に出てこられたら受け止めきれずにコロコロあちこちに転がって、何個か無くしてしまっていたかもしれない。

 110連を全部回すよりも先に、この1個を開けてみることにした。

 アドレナリンでなんとかなっているが、傷の痛みと寒気がそろそろ限界だ。

 カプセルはパカリと音を立てて簡単に開いた。

 そして中から、明らかにカプセルに入らないサイズの椅子が出てきた。

 意味わからん。


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