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電車を出ると、外気が襲ってきた。

けれど、足取りが重く感じるのは、外が暑いからではないだろう。俺が電車に慣れていないだけだ。

ホームに降りた後、凪元が先導して、会長の家に向かった。


「どう?能力かなんか感じる?」


「いや、何も感じないな」

感じるとしても、初めて来た場所で感じる未知の匂いだけだ。

駅だし、こういう匂いもするだろう。


「まぁ、駅なんかにはないよね」


「ここからどれくらいかかるんだ?」


「歩いて20分くらいみたいだよ。タクシー使う?」


「いや、いい」


「じゃあバス?」


「歩くという選択肢は」

「あまり歩きたくはないね」


タクシーかぁ……と少しだけ気分が重くなった。

以前、古今泉百々華を送った時に使ったから慣れてないとかそういうわけでもないが、真昼間から使うのは少し抵抗があった。


「そんな乗り物乗りたくないの?」

凪元が笑いながらツッコミを入れてきた。

どうやら電車で強がっていたことがバレていたか。


「どうも公共交通機関が苦手らしい」


「え、じゃあ、電車とか苦手だった?」


気づかれてなかった。


「いや、そういうわけではないんだが」


つかなくてもいい嘘をついてしまった。

一言前の発言と矛盾した。


「はぁ、仕方ないね。じゃあ歩いていく?」

凪元はやれやれ、といった感じで、徒歩の案を承諾した。


「いや、タクシーは公共交通機関じゃないからな。タクシーにしよう」


「何それ。タクシーは公共交通機関でしょ」


と凪元の提案に対して賛成しないという天邪鬼な対応をしながらも、凪元は、まぁいいや、と言ってタクシーに乗ることになった。


……乗せられたか?



タクシーに乗ると程なくして着いた。

会長の家の近くのところで降ろしてもらい、そこからは歩いて行く。

タクシーに乗っている間から嫌な予感がしていた。

一様に嫌な感覚が漂っていた。


駅で感じた未知の匂い。

駅付近だからと思い込んでいたが。



「ここが会長の家らしいけど、どう?」


岩石動という表札があった。

見た目はなんてことはない、普通の一軒家。

今はとまってはいないが、車の駐車場もある。


今は車はとまっていなかった。


「どう?木々村くん?」


「凪元、悪かった」


「ん?何?」

まるで何も心当たりがないかのような言葉を述べた後、俺の表情を見て


「何か感じたのを黙ってたって事?」


察しがいい。


「わざと黙ってたってわけじゃないんだ。ただ、わかってなかっただけなんだ」


「ということは、能力の使用の感覚があったってことでいいんだね?」


「駅からずっと嫌な感覚はしていた。

実は電車に乗るの慣れてなくて、それのせいだと思ってたんだ」


「あぁ、なるほど」


凪元は納得したようだった。やっぱり電車に乗ってる最中の俺は少しおかしかったことに気づいていたな、こいつ。

さっき気づいてなかったフリしたのは、とぼけただけのようだった。


いや、今は別にそんなことはいい。


「タクシーに乗ってる最中もずっと嫌な感覚が続いていた。……でも、ここが発生源というわけではなさそうだ。この辺り一様に…。それこそ、駅からずっとこの感覚があった。電車に乗ってる最中からあったかは、判断できないが」


「なるほど……。もしかしたら会長関係ないかもしれないけど、能力関係のことをここ辺りでずっと感じていたってことか」


凪元が何か考え込んでいた。

数秒だった。


「広い範囲で能力を感じる時って超強力な能力だったりする?」


「いや、広範囲だからと言って強い能力とは限らない」


「そっか。今の瞬間能力が使われてるとかわかる?」


「いや、時と場合による。今は…残り香の可能性が高い……気もする」

「それもわからないか……」


「木々村くん自身はどう思う?会長が関わってると思う?」


「会長自身の能力を知らないから、確信は持てないが……関係ないとは考えにくい。会長自身の能力ではないとしても、何らかの形で関わってはいると思う」


「なるほど。そうだね。僕もそう思う」


そして、凪元は端末を取り出し、サラサラと何か操作したかと思うと


「よし」


と外門を開けて何も問題ないかのように敷地内に入っていった。


「おいおい、ちょっと待て」


急に何の断りもなく、人の家の敷地に入っていいのか?


「大丈夫だよ。今誰もいないみたいだし」


「そういう問題か?」


何の躊躇もなく入って行く凪元に俺はついていく。


「まずは家の周りね」

と小さい声で俺にささやいた。


凪元は敷地内を回り、調べ始めた。



これ、側から見たらどう映るんだろうか。

不審者だろう。

制服着てるから、もしかしたら知り合い、とぐらいに思われてくれるだろうか。


「木々村くんも何か気になるところがあったら言ってね」



「あぁ」

俺も探る気持ちはあったとは言え、内心、穏やかではなかった。



隣家との距離はほぼない。家の両側にある裏に回るための通路は細い。人1人は通るのは余裕だが、ここで作業するのは骨が折れそうだ。

裏には少し小さめではあるが、庭がある。

洗濯物を干したりするのは、ここでできそうだ。

家庭菜園をプランターでするくらいはできるかもしれない。

プランターはなかったが。


2階建の家屋なので、ベランダで干すことも可能だろうが。


庭には穴が掘られたような跡はない。

何かを隠すような場所ではない。


今感じてる能力とは違うものがあれば、感じられるはずではあるので、嫌な感覚が周りに充満している中、感覚を頼りに探ってみたが、特に気になるものはなかった。


まぎれてる可能性もなくはないが。



ここから何かの手がかりを見つけるのはかなりの骨だろうと思った。


凪元の様子を見ると、地面を調べたり、家の壁を眺めたりと、俺よりも深く調べているようだった。


俺とは着眼点が違うから、調べることも違うんだろう。



「俺が見た限りでは他に気になるところはなかった。凪元の方はどうだ?」


俺はまた自然と小声になっていた。

そりゃそうだ。


「木々村くん、こそこそしすぎて逆に怪しいよ」


「うるさい。どう考えても」


「能力に関係するかはわからないけど、多分会長、色々と呼び出してるみたいね」


どう考えてもお前が堂々としすぎだろ、と言いたかったが、言い終わらない内にぶった斬られた。

というか

「呼び出してる?」


「うん。残滓が沢山。この辺にあるよ」


「残滓って」


「何をやったかはわからないけど、普通では見えないやつが沢山」


「幽霊とか?」


「幽霊……ものの幽霊って言えるかも。ここにあるのは、見えないダンベルとか。小さいキノコにカビが生えたようなものとか、生物錬成に失敗したときにできるような腐肉とか」


「何だそれ?とりあえず、腐ってる系のものか?」


「無機物もあるけどね。残滓のくせにこんなハッキリとしたダンベルとか。どういう理屈で僕に見えてるんだろう?」


「お前にもわからないものは、俺にもわからないぞ」


「うん。カビとか腐肉系はまだわかるけど」


「じゃあ、それがある理由はなんだ?」


「怪異が出てきた時に、たまにくっついてくるんだよ。怪異が出てくる時って、それだけが出てくるわけじゃなくて、それにまつわる何かも一緒に出てくることが多くて。死んだ人が蘇る系の怪異なら、腐肉がついてくることがある」


「なるほど」

俺としては半信半疑でそんなこともあるのか、くらいの気持ちだった。


「だから、そういう系のものと関わりがあったんだろうなって思って調べてた。家の中調べられたらもっとわかるのかもしれないけど」


「流石にそれはできないだろ」


「そうだね。窓割るとかしないと無理かな。流石にそういったヤバいことはしたくないかな」


凪元にもブレーキはあったようだ。凪元の中では敷地内に入ることくらいはセーフなのだろう。


会話が物騒になってきたな。


「そろそろ切り上げた方がよくないか?俺に何か出来ることはあるか?


「じゃあ、僕が今言ったことを踏まえてまた周りを見てみて。僕が見えているせいで気づかないこととかあるかもしれないし」


「わかった。見てみよう」


凪元に言われた通り、もう一度気になるところがないか調べてみたが、凪元が言っていたような腐肉だとか鉄アレイだとかは見ることはなかったし、臭いだって感じることはなかった。


俺が感じることができたのは、駅からずっと漂っていた能力の感覚と夏の暑さのせいで身体から吹き出てくる汗くらいだった。


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