コア集め
さて、そうと決まれば早速ダンジョンに出発しよう。みんなで出発の準備を始めると、ノエルはマユ達に向かって指示をする。
「私はカイトとレイナとで、アルパリス王国の神域のダンジョンを最下層までパパッと潜ってくるから、あなた達は四人でティバンの森のダンジョンを最下層まで潜って、エイビスドラゴンのコアでも取ってきて」
すると、アイリは目を吊り上げて不満を訴える。
「ノエルだけカイトと二人きりなんてずるい!」
「二人きりじゃないよ、レイナもいるし。それにあなた達では今から神域のダンジョンまで移動しようとしたら時間が掛かるでしょ? それとも、私とカイトの全力の速さについてこれるのかしら?」
若干嫌味っぽくノエルが言うとマユ、クレア、フィリス、アイリの四人は悔しそうな顔をしながらも反論できずにいる。
ノエル、言い方……。でもコアを集める効率で言うと、確かに二手に分かれた方が良さそうではあるか……。俺は不満そうな彼女たちに両手を合わせて頭を下げる。
「帰ってきてから埋め合わせするからさ……ねっ! お願い!」
「わかったわ……」
「カイト様がそう言うのなら……」
「仕方ないなぁ……」
「早く帰ってきてよ……」
四人は渋い顔をしながらも、了承してくれた。彼女たちはアーリキタの街の上級ギルドのポータルで、ティバンの森のダンジョンの40階層に行くようだ。
みんなのことだからきっと大丈夫だとは思いつつも、少し心配なので「無理しないでね」と声を掛けた。
「平気だよ。カイトこそ気をつけて行って来てね」
マユはそう微笑んでキスしてくれた。クレア、フィリス、アイリも同様に俺にキスをした後で、手を振って屋敷を出発していった。
何とも心苦しいが、ここは頑張って欲しいところだ。俺もなるべく早く戻ってこよう。
四人の後ろ姿が見えなくなると、ノエルは魔装術を発動する。
「さ、私たちも行くよ」
ノエルに続いて俺も魔装術を発動し、空に飛びあがる。アルパリス王国の方角を確認してスピードを上げていくと、レイナは瞬間移動を連続して使用し付いてきている。
しばらく行ったところでノエルは地上に降りたので、それに続いて俺も地上に降りた。「どうかした?」と俺が問うと、ノエルが近寄り俺の手を握る。
「ここからは二人で魔力を合わせて飛びましょ。その方が速い」
魔力を合わせると速く飛べるもんな。でもそれなら……。
「前にやったみたいにみんなで魔力を合わせて飛べば、神域のダンジョンに全員で行けたのでは?」
「それはそうだけど、たまにはカイトと二人きりになりたかったし」
上目で甘えた声を出すノエル。なんてデレッぷりだ。俺はついついノエルの可愛い仕草に見惚れてしまう。
「それにカイトとか私が一緒にいると、あの子たちのレベルが上がりにくいし」
「ん?」
「基本的には魂のエネルギーはレベルが低い人の方に流れやすいけど、チートスキル持ちがいると、スキルの持つ成長補正のせいで、どうしてもそっちに多く流れてしまう。だからあの子たちのレベルを少しでも上げる為にも別行動にしたんだよ」
「へー、そうだったのか」
「神域のダンジョンも、私たちだけの方が速く攻略できるし」
「それならさっさと攻略して、ボスのコアを持って帰ろうか」
このままでは、ノエルの色香でその気になってしまいそうだ。俺はノエルから目を背けると、魔力を合わせて神域のダンジョンを目指し飛ぶ。
ノエルと手をつなぎ二人の魔力を合わせて飛ぶと、一時間も掛からずに神域のダンジョンに到着した。多分リニアモーターカーの速度を超えてるよな? レイナも瞬間移動を駆使してしっかりついてきていた。
「レイナの瞬間移動って、一回で10mくらいしか移動できないんだろ? いくら連続で使えるって言っても、よくついて来れたな」
「カイト様のお役に立てるように練習したので、スキルレベルが上がり、今では一度で500m程移動できるようになりました」
レイナも影で努力しているんだなぁ。「さすがレイナ! 頼もしい」と俺がレイナに声を掛けると、彼女は真顔で「いえ」と一礼する。うーん、クールだ。あれ、よく見るとちょっと頬が緩んでいるような……?
「カイトー、早く行くよー」
ノエルに急かされて、俺はダンジョンの入口に小走りで入って行った。
階段を下りてダンジョンの一階層の床を踏みしめる。ここは二回目だし、さほど緊張はしない。この前来た時より、俺もレイナもレベルが上がっているしノエルもいる。手早くクリアしてみんなの元に帰らないと。
「一気に行くよ!」
ノエルの号令で、俺たちはそれぞれ武器を手にして走り出す。
次々と現れるモンスターどもを、三人で切り伏せながら突き進む。やはりノエルの強さは桁違いだ。彼女の行く手を阻むモンスターは、瞬く間にラングザードで細切れにされてコアに変わる。凄まじいまでの剣技だ。
コアが大量に散らばるが、足を止めずにレイナがサイコキネシスで回収してくれる。大きいコアのみマジックバックにしまい、小さいものはレイナに吸収してもらいながら進んだ。
あっという間に50階層まで到達してしまった。
50階層の最奥で待ち受ける双子の悪魔、アーヴィルとイーヴィルすらも秒殺しコアを回収後、ダンジョンの外に出る。外は夕日が落ちかけていて薄暗くなっていた。
マユたちはうまくやっているだろうか?
冒険者ギルドにあるポータル施設を利用すれば、ティバンの森のダンジョン40階層に直接移動できる。最深部の51階層はすぐに到達できるだろう。今の彼女たちの実力なら、エイビスドラゴンも討伐できるとは思うが……。
少々心配だが、今の俺に出来ることは、早く家に帰ることくらいか。ノエルと手をつないで魔装術を使用し、自宅に向かって飛びたった。
帰りながら、俺は普段感じている疑問をノエルに聞いてみた。
「そういえばさ、ダンジョンって大体50階層くらいだよね?」
「ほとんどのダンジョンは50階層前後だよ。以前ラプラスの記録で調べたことがあるんだけど、ダンジョンマスターが女神から与えてられているリソースを使い切ると、50階層程度が限度なんだって」
「ダンジョンマスターって、なんなの?」
「女神の配下の下級神だよ。一つのダンジョンにつき一人いるんだけど、女神の趣味を強制的に手伝わされている苦労人ってところかな。元はチートスキルと極悪デバフを貰ってこの世界に転生してきた人々だよ」
「転生者が神になったの?」
「彼らは凶悪デバフのせいで死んでしまった後、女神に魂を回収され、神として再構成されて、女神に隷属させられているみたい。ラプラスの記録にはそうあったわ」
「救われないな……」
「そうだね。あの女神がいる限り、被害者は増え続ける。私たちで止めるわよ」
「ああ……」
俺達の屋敷が見えてきた。マユ達の波動を感じるから、みんなの方が速かったみたいだな。全員無事のようなのでホッとしつつ、俺達三人は屋敷に降り立った。
* * *
みんなは屋敷の玄関前で待ってくれていた。俺の波動が近づいてくるのを感じて、外に出てきてくれたんだな。
俺が「ただいまー」と手を振ると「おかえりー」と返事しながら一斉に跳びついてきた。
マユは一番乗りで俺の腕に抱き着く。
「思ったより早かったねー」
「そうかな? もう外は暗くなってるけど」
「てっきりノエル様と、散々イチャついてから帰ってくるんだと思っていました」
クレアが疑いの目を向けるので、俺はアーヴィルとイーヴィルを倒して手に入れたコアを取り出し、みんなに見せる。
「いやいや、言うほどイチャついてないって! ちゃんと全速力で神域のダンジョンを攻略してきたから!」
フィリスはコアに手を乗せて、撫でるような仕草をする。
「この大きな二つのコア……。本当に神域のダンジョンの最奥のボスを倒してきたんだね……」
アイリもコアに近寄ってまじまじと見つめる。
「初めてみんなで行ったときは何時間もかかったのに、たった三人で日帰りだなんて……」
「超越者三人で行ったんだもの、この程度のことはなんともないわ」
ノエルは腕を組んで鼻をならし少し得意げだ。クレア、フィリス、アイリが曇った表情になるが、マユは普段と変わらない様子で口を開いた。
「私たちでご飯作っておいたから、食べながら話しましょう」
ダイニングに移動すると、テーブルには料理が並べられている。
美味しそうな匂いに、つい俺のお腹がなってしまう。みんなに軽く笑われながら席に着き「いただきます」と声を揃えてから食べ始めた。
最近はずっとレイナが食事を用意してくれていたけど、マユ達四人が作ってくれた料理もそれに負けないほど美味しい。
食事しながらみんなの話を聞く。エイビスドラゴンには少々苦戦したみたいだけど、四人で力を合わせて倒せたとのことだ。
「エイビスドラゴンを倒せたなんて凄いね! 俺も初めてアイツと戦った時、アイギスの盾が無かったら勝てたかわからない。みんな本当にお疲れ様」
俺がみんなの頑張りを労うと、フィリスは微笑み胸を張る。
「少しでもカイト達の強さに追いつけるように頑張ったんだよ」
アイリも両手を腰に当てて胸を張っている。
「女神に比べれば、エイビスドラゴンなんて大きいだけのトカゲだよ!」
マユはため息交じりに薄く笑う。
「これくらいやって見せないと、カイトに愛想尽かされちゃうかもしれないでしょ?」
クレアは両手を握り締めて力強く声を出す。
「そうです! カイト様に捨てられないように頑張りました!」
愛想を尽かすとか、捨てるとか、本気で言っていないとは思うけど、ここはきちんと否定しておかねば。
「愛想尽かすなんてありえないよ。俺はここにいるみんなのこと大好きだし、ずっと一緒にいたいと思ってる。その為に、女神フォルトゥナを倒すんだから」
そして俺は「みんなの力を貸して欲しい」と、ここにいる全員の顔を順に見回した。
「何を今さら」「カイト様の御心のままに」「当然でしょ」「何があってもカイトについて行くよ」
俺はそんな彼女たちの力強い言葉に、胸が熱くなるのだった。
* * *
食事の後は、みんな一緒に楽しくお風呂に入る。俺は恋人たちの背中を流し、今日の疲れが軽くなるように、指先に治癒魔法を込めて体の隅々までマッサージをした。彼女たちは全身を身震いさせて喜んでくれたようだった。
風呂から出て、さっぱりしたところでノエルが言う。
「さ、寝室に行く前に、レイナの部屋に行って今日取ってきたコアを置いておこう」
レイナの部屋に行って、とってきたコアを全部取り出すと、部屋の中はコアが山積みになった。
「一晩で肉体を創っておきます」と一礼するレイナに、俺は「無理しないでねー、おやすみー」と手を振ってから、恋人たちと寝室に向かったのだった。
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