剣完成
「ヒナタ・ユリゾノ、ここの機材なんでも使ってもらってかまわないのだ。そして最高の一振を作り、我の剣と勝負してほしいのだ。」
真剣な眼差しで私を見る。
「つ、作って戦うの!? あなたと、私で!?」
「もちろんただとは言わないのだ。我に勝てたあかつきには我が作った武器と、我が家に代々伝わる神器ウルカヌスを用いてお前専用の武器を作成してやるのだ。」
「……一応聞きますけど、もし私が負けたら……?」
「逆になるだけなのだ。」
「ひぇぇ……」
これ、勝てる気しない。
鍛治の実力には自信があるけれど、それはあくまで人間の中でであって、人外であるドラゴンに通用するとは限らないのである。
しかし──。
「…………わかりましたよ、やるだけやってみるよ」
もちろん拒否権なんてものは無いわけで、私は渋々了承する。
「完成したら伝えて欲しいのだ。そこの部屋でこの小娘の看病を引き受けておいてやる」
そう言うと、グラノアはフィリナを抱えて奥の部屋に行ってしまった。
残された私は、とりあえず辺りを見渡してみる。
どれも性能が良さそうな道具や機材ばかりで、置かれてある鉱石類も同様に価値が高いものばかりだ。
「なんでも使っていいって言われてもなあ……」
こういう時、なんでもいいと言われるのが困るのである。
そもそも特定の道具しか使ったことのない私が、いきなりこんな種類の道具を用意されても難しい。
まず、ハンマーってこんな沢山の種類があったのか!?
大中小に加えて変な突起の付いた物や、打撃面だけがむちゃくちゃ大きいものであったり、柄が異様に長い物など多種多様だ。
……ま、使い慣れたハンマーと似たやつでいっか。
形によって用途があるんだろうけど、そんなの使わなくても作れるんだから使う必要ないよね。
「よーっし!」
数多ある鉱石を10種類選別し、そのまま溶鉱炉に突っ込む。
昔からやってみたかったのだ。
もし異なった特性を持つ鉱石をまとめて精錬して剣を作ったらどうなるのか、と。
普通は100バーセント重すぎて持てないだろうけれ
ど、私には超絶身体能力がある。
グラノアに勝つための糸口はそこだ。
絶対、グラノアには戦闘技術は負けているけれど、そこは剣の性能で覆せばいい。
それこそ鉄壁の盾とか、何でも斬れる剣とか。
グラノアの作ったであろう剣を見た感じ、特別凄いスキルとかは付いてないし、そもそも2つしか付いてないので、鍛治技術は私の方が勝っている。
だから私は武器制作に全てを掛けよう。
溶けきった鉱石をインゴットの型に流し込み、形の整った金属をハンマーで叩きまくる。
10回、20回……、50回、60回……、そして90回、100回を超える。
鍛冶師の中には適当に叩けばいいと、カンカンカンカンと雑に叩く人もいる。
だが生憎にも私はそーゆー人間では無いので、1回1回全力で、心を込めてハンマーを振るう。
カーン……カーンと、一定のリズムで叩いていく。
最初は「良い剣になれよー」とか「勝てるかなー」とか考えながら叩いていたが、だんだんそれも別の方向に流れていく。
そういえば上に残った2人はどうなったんだろうか? ホノカとエルリアは今頃ダンジョンの中を彷徨っているのだろう。
でも、グラノアの意思がなければこの空間に入ってこれないだろうし、助けも見込めない。
というか、さすがにあの2人でもグラノアと戦って勝つことは難しいだろう。
いよいよ私がどうにかしなければいけない。
上の2人と、フィリナの為にもいち早くグラノアと戦って勝たなければ……!
カーン……カーン……カーン……カーン……カーン……。
「…………いくらなんでも長くない!?」
もう数えるのもやめてしまったが、恐らく300……いや400を超えているんじゃないか!?
剣は叩けば叩くほど強くなるため、この剣はいったいどれだけ強いんだろうか……。
本来、剣作成で失敗することはないけれど、ここまで叩く回数が多いと不安になってくる。
もしかして手順とか間違ったかな……それとも10種類も金属混ぜるのはマズかった?
しかしそんな心配は無用だったらしく、カーンとインゴットを叩くと黒色に発光し、徐々に剣の形になっていく。
「おぉ……!!」
私は完成した剣を手に取る。
ずっしりとした重みが伝わってくるものの、毎日ハンマーを握り続けていたからか、扱いにくい程ではなく、どちらかというと扱いやすい感じだ。
それとなく振ってみると、ビュンという風切り音。グリップにはまだ何もしていないが、それでもよく手に馴染む。
次にスキルを確認してみる。
「……あれ、読めないんだけど……」
スキル欄には日本でもこの世界でも見たことがないような文字が綴られていた。
日本語をテキトーに繋げて書きまくったらなるような、ぐじゃぐじゃで黒い光を放っている。
……なんかヤバそうなんだけども。
どうしよう、こんな剣作って大丈夫なのだろうか。
あからさまに「闇の剣」とか「呪いの剣」みたいな雰囲気あるの作っちゃった……。
刀身は黒く、いや漆黒か、とにかく黒い。
それにほのかに黒い瘴気みたいなのを出している。
最初は、いろんな色の鉱石を混ぜすぎたせいでこうなったのだろうと思っていたが、どうやらそれだけではないらしい。
……いっそ作り直してしまおうか。
こんないかにも怪しげな剣を作ってしまったら、せっかくの性能差による不意打ちも不可能だろう。
こんなヤバそうな剣、誰がどう見ても警戒する。
「ということで……」
私は沢山剣が並べられた所に体を向けると言った。
「この剣は元々あった、ということで──」
「どうだ、そろそろ出来たのだ?」
「えべるびぶべびゃ!?」
「…………は?」
突然後ろからグラノアの声が聞こえて、驚きのあまり変な声を発してしまった。
「なっななななな、なんでもないです……」
顔を真っ青にしながら、作り笑顔を浮かべて答える。
「そうか。っと、もう完成していたようだ……な……」
「……?」
グラノアの視線が私の顔から胸元へ、そこから足元まで下がっていく。
「あー……」
そこには黒い瘴気を放つ、いかにもヤバそうな剣があった。
「あの、そ、そのぉこれは……」
「…………なにをどうしたらそうなるのだ……」
畏怖するような顔を向けられる。
たしかに、鍛冶の技術でどうにかしようとか、ビビらせてやろうとかは考えていたが、こうあからさまにでは無いし、過大評価されて最初から本気でこられたら負けてしまう。
「……なんか、ごめん」
焦る私。
一歩足を引くグラノア。
そんな張り詰めた空気の中、なんとか捻り出した言葉がそれであった。
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