第52話 名は体を表す
怪訝な顔をした猫が振り返り言葉を吐き捨てた―――
「ウシがしゃべってるれす…… 」
「ぷッ あはははは。この子はアンタの事分からないみたいだネ? 仕方ないョ。だって今のアンタ牛だもんッ。家畜生活が長過ぎたのかもネ、妖気すら感じないし。あはははッ 」
「ウシがなんのようなのれすか? オレはイマいそがしいのれすっ」
身体を横たえながら目が点になってしまった牛は、余りの悲しさにポロポロ涕を溢す。
奈落との戦いである魔人戦争勃発当時、冥界のヴァヴェルと呼ばれた理の塔の守護を任されていた主要たる冥界の武人達は、戦力を削ぐ目的で次々に狙われ、
アステリオスもまた、その被害者の一人であり、力の及ばない人界へと飛ばされていたのであった。
「俺だよぉ 坊ぉ――― 」
「ダレ? え? わかんないキモイれすっ」
ギュボアァァァァ―――
「おっとォ、運命の再会に胸を熱くしてる場合じゃ無いわネ。さてとッ アタシは空に逃げれるから問題無いけどッ、
「まだ俺は…… 終わっては居ない…… 坊の前で恥は曝せない」
「あっそッ、その
アステリオスと呼ばれた牛は、ブルブルと震える四足に力を込め前足を軸に立ち上がる。次の瞬間、この機を逃さずに討ち取ろうと迫り寄った化け物が、一刀両断の
その直後ドガンと重量物同士がぶつかり合うと、激しく乾いた轟音が響き渡る。めくれた石畳はその質量衝突により高く吹き飛ばされ、空から落下する隕石のように辺り一面に降り注いだ。
角を器用に絡め、勢いを
しかし更に目前に叩き落とされた鉄槌の威力により体勢を崩されると、視界を遮り横方向から突如として現れた
「グハッ――― 」
鮮血を吐き出し、満身創痍のアステリオスは、最早気力だけではどうにもならない圧倒的な力の差を前に、唯一、必死に己の意識を繋ぐ事しか出来なかった。
「坊――― 逃げるんだ…… 」
そんな状況の最中、アステリオスの心配を他所に、なんと黒い毛玉がテチテチと化け物の前に立ち塞がる。
「よわいモノいぢめするなれすっ‼ マジンサマがいってたのれすょ。言い付けてやるのれす。オマエなんかぺちゃんこのパンなのれす」
何の
「うにゃぁ」
小さな身体に備わった機動力は、最早、視界で追う事すら叶わぬ程に俊敏であり、攻撃さえも困難に思える程だった。
黒い毛玉を見失った化け物は、クルクルと身体を回転させ
「にゃにゃぱんっち」
目玉はギアラにとって猫じゃらしと為り変わり、止むことを知らないギアラの最弱の猫パンチは、鳴き声と共に回転を上げて行く。いつしか化け物の目玉にダメージが蓄積されてゆくと、無惨にもポロリと目玉が
「んにゃあ? ナニかとれちったのれすっ」
ギィャァァァァァ―――
片目を破壊された化け物は怒りを露わにし、腹を出した
「ざまぁみろなのれすっ パンはぺちゃんこれす」
そんな一連の流れを見ていた小さな光が、アステリオスに呟いた。
「全く、情けないわね。人族に飼い慣らされて牙を抜かれたようネ。あの子の方がまだ強いんじゃないッ? 真っ向勝負だけが闘いじゃないって言う証拠よネ。まぁ本人は遊んでるだけの様だけどッ。でもそうねッやっぱりあの子だけじゃあ決定打に欠けるわネ。このままじゃジリ貧…… 」
「ッ――― 」
「さぁてッ あの子が時間を稼いでくれているこの間に、早速、本題に入りましょうか。まぁ行方不明だって聞いてたアンタがこんな所に居たのは予想外だけどッ。それはさて置き、アンタは他国の者だけどッ、今後の戦いを
「何が言いたい? 」
「一瞬だけ手助けしてやるって言ってるのョ。元の姿に戻してあげる。但し、この人界では制限が掛かるし、お互い天界の
「感付かれれば、グランドベルヘイムは黙っていない。一瞬で奴等は地表に降り立つだろう」
「だから短時間で決着をつけなさいよって事ッ。約束出来るなら力を分けてあげるッ。自分の国が今、どんな現状なのか自分の眼で確かめたいでしょう? 」
「
「そんな事言うわけないでしょ。んーそうねッ…… はっきり言えないけど姫様の力を貸してあげるってだけ教えてあげるわッ。それで察して頂戴」
「姫? 確か娘が居たとされるのは、まっまさか……
「それ以上は言葉にしたら危険ョ。我々は常に監視されてるかもしれない…… 忘れたのッ? 常識ョ? 」
「ぬ…… 」
小さな光は高く飛び立つと、その光はより一層輝きを増し、一柱の細い光源となりアステリオスを照らし導く―――
「冥界審判官の一人ミウノス王の后・パシエの子
小さな光がフワフワと
黄金に輝く
今此の時を得て
―――
その言葉を受け、球体に稲妻の様な亀裂が走り眩い光が暗闇に漏れる。異常な妖力を感知した化け物は、攻撃の手を休めると暫し茫然と佇んだ。
「さぁッ 生れて来なさい。アンタに許された時間は二分ってとこネ。それ以上は力がもたないわョ」
突如球体が硝子の様に弾け飛び、粒子が夜空を翔け巡る。新たな肉体を手に入れたアステリオスは、ゆっくりと
人界に伝わる神話において
「二分もあれば十分だ――― 」
邪心に
神をも畏れぬ愚行なる
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