第36話 猫を殺せば七代祟る
砦内部の執務室にビリビリと地響きが鼓膜を襲う。机のインク差しが振動で床に叩きつけられ、血の塊のような不吉な
「何だ⁉ 」
女将軍は、頑丈な
「何だ? 何があった? 」
掛けられたランタンはその振動に左右に揺れ動き壁を削った。不穏な風が
「わっ、分かりません。確認を急ぎます」
そこへグランドが慌てて将軍の安否を確認しに飛び込んで来た。
「ご無事ですか? 閣下」
「あぁ問題ない。直ぐに詳細を確認させろ、天災であれば被害状況の確認と住民の安否、それ以外であれば…… 」
「奇襲の可能性も…… 」
「そうだ。両方対応出来るよう兵士には武装させ、情報を収集を急げ。遠慮する事は無い。私より命を受けたと伝え兵士達を動かしてみろ」
「はっ‼ 」
カシューは一人の少女を背負い路地を急ぐ。途中すれ違う住人達に危険を知らせ進む中、少女の鼓動が感情に同調し、石畳の大きな坂通りを全力で駆け上がらせた。特段体力に自信がある訳では無い。何度も足元がフラつき顔から地面へと倒れ込む。
「だっ! 大丈夫ですか⁉ 」
今にも不安で泣き出しそうな少女が心配そうに覗き込む。額からは血が
「大丈夫だよ、この位、何ともないよ。しっかり
「遅かった――― 」
兵舎の門前に血まみれで
「しっかりして! ねえ⁉ 」
「援…… 援軍な…… の…… か? 」
「そうだよ助けに来た! しっかりして、敵の数は? 」
「わ…… から無い…… ゴフッ…… 早く……
兵士は顔を上げる事無くそのまま息絶えた。兵舎の周りには地下の食糧庫と武器庫など関連施設が集中している。攻撃対象とするならば兵舎だけに留まらず、これらの関連施設も狙うはずだ、そうなれば敵の人数は多いであろうと予想がつく。
カシューは急いで兵士の
「あなた何を⁉ 」
「武器が必要なんだ、悪いが彼から借りて行くよ」
ナディラはその行為に唇を噛みしめ目を伏せる。
「今の僕達じゃ到底太刀打ち出来ない。僕は軍人では無いし、君も脚を痛めている。当初の目的通り、これから僕等は
「分かりました」
「君の名前は? 」
「ナディラです」
「いいかいナディラ、僕にこれから何が有ったとしても此処から出ない事。いいね? 」
「そっ、それって⁉ 」
「いいね? 」
少女は静かに顔を伏せると頷いた。カシューは走り出そうと踵を返すと震える手で腕を掴まれた……
「僕はカシュー、カシュー・エルデンバーグ。大丈夫。直ぐに戻るから此処で待っていて、いいね? 」
身を隠しながら近づき
矢蔵は薄い戸板で囲まれ強度を増し、その中心に
「ねえ! しっかり! ねえ⁉ 」
最上階で倒れている二人の兵士に声を掛けるが返事が無い。四方に目を配らせると恐ろしい状況がカシューの眼前に広がった。黒い影が屋根で慌ただしく踊っている。その数は10人や20人では無い、1部隊を10人編成と見るならば四方に広がる部隊は視界に入るだけで4部隊……
「何て事だ…… 早く知らせなきゃ‼ 」
襲撃を知らせる
テケテケと走り込み、ぴょんぴょんと屋根に飛び乗ると、クンクンと鼻を鳴らし
「のぉっ⁉ 」
闇夜に鋭く冷たい眼光が浮かび上がり、行く手を
「おいおいおい‼ 冗談じゃないぞ、何で
「ぶっ‼ 部隊長、きっと大丈夫です。この子は先行部隊の俺達がもう
「ナンカしゃべってるれす…… 」
「ほら
フーンとぺたんと尻を着き興味無さげに毛繕いを始める……
「本当もう病気よソレ。誰に教わったのヨ? 」
先を急がなければ成らない男達は状況を理解しようと苦しむ。何せ相手は猛獣と区分される生き物。しかもその行動は気分次第で何をするか分からない。意思疎通が出来ない相手程、恐ろしい物は無い。
「おい! 何とかして早くご機嫌を取れ、
「おっ、お菓子さえあれば、誰か持ってませんか? 」
男達は急いで懐を探り出す……
「そんな事してる場合か、先に行くぞ‼ 」
「捕まえてみろだってサ! 捕まえたらお菓子くれるかもよヨ? 」
「ヒトゾクのことばわかるれすか? 」
「アタシは賢いのよ。鬼ごっこはいい訓練になるわヨ、アンタ強くなりたいんでしョ? 」
「つよくなるれす‼ おかしホシイのれす」
咄嗟に飛び出した男は、この状況から容易く抜け出せると確信していた。
ぴょんぴょんとたったの2歩で間合いを制され、ペチリと横腹に衝撃が津波の様に
「なっ―――――⁉ 」
「散開だ、散開しろ‼ 距離を保ち各自戦闘態勢‼ 」
艶やかな
一瞬にして空気が狂気を
「ぶ‼ 部隊長、このままでは…… 」
全員同時に全滅の文字が頭に浮かぶ。逃げれば優れた機動力を
闇に牙を剥く野獣―――
―――愛らしい姿とは裏腹に……
―――その脅威度は大熊に匹敵する―――
「
「はっ‼ 」
「少しの間だけでいい。時間を稼げ‼
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