第24話 好事、魔多し
ムルニの事件ではもう既に各国が公式発表し、情報戦略を繰り広げていた。心理戦はやがて過熱し民衆運動を引き起こす火種となる。戦争は剣と弓だけではない。民衆の心を掴み情報を旨く操った方が時に優位に立てる。
イスラール側の発表は、十字軍が自らの信仰に逆らった自民を異端とし虐殺する最中、一人のイスラールの戦士が
その時、イスラールの神、アーラの
そしてこれは
逆にご都合主義のカルマ側の発表はと云うと……。
ムルニ村がイスラールの暗部の手に落ち、侵略地となっているとの情報を掴み、村を奪還する為、十字軍が介入を試みたが、惜しくも
繰り広げられたイスラールの暗部による凄惨な残虐行為は神の怒りに触れ、審判の一撃がカルマ神の
「まぁ此処までは予想していた事だからな。各国の言い分も分かるが、問題なのは神の存在そのものが此処に来て具現化してしまい、急いでその存在を取り合って争奪戦を繰り広げているという点だ」
「グランド、俺ぁ剣を振るう以外能がねぇからよ、良く分かんねぇんだが、存在を取り合うってなんだ? 」
「あぁ、分かり易く言えば現れた龍は一体どちらの神か?って言う話なんだ」
「そっか、悪魔じゃなくって、どうしても神の裁きって事にしたいのね。でも不思議だよね、本当に神なのかも疑わしいのにね? だってそうでしょ? 僕らが見た物は只の化け物で人殺しだった訳だし」
「ちげぇねぇや、カシューの言う通り、ありゃあ神なんてもんじゃねぇぜ、悪魔だった。いや、悪魔の方がまだ可愛いってもんだぜ」
「確かにな、到底、偉大な神と呼ばれる物には思えなかった」
「結局一体何だよありゃ、何であんなのがいやがんだよ」
ヴェインはもぐもぐと硬く味気ないパンを強引に噛み切ると、納得の行かない水っぽいワインで流し込む。
「どうでもいいけどさぁ、昼間っからお酒ばかり飲んでていいのヴェイン? 幾らこの国の人間じゃ無いっ言っても飲み過ぎだよ、確かこの国ってお酒禁止なんだよねグランド? 」
「基本酒は禁止だと聞いているが、信仰の薄いイスラー教徒や異国人、傭兵達の飲酒の規制は緩和されている。
「何だよカシュー、じゃあ異国人の俺ぁいいんじゃねーかよ」
「それにしても
「それに関しちゃ、あの
陶器で出来たワインボトルを高く上げ、まるでガブガブと
「何それ、錬金酒? エールの事じゃなくて? グランド知ってる? 」
カシューはゴブゴブと喉を鳴らすヴェインをまるで汚い物でも見るかのように呆れ顔で尋ねる。
「多分それは蒸留酒アラックの事だな。別名、汗の雫。アランビアの
アランビアとは西アジア南西の巨大な半島であり、イスラール帝国発祥の地とされている。アランビア半島はその面積の大部分が砂漠に覆われており、半島の中央から北部にかけてはダフラ砂漠およびフド砂漠、南東にはルバハリ砂漠が広がっている。
一方で半島南部から南東部にかけての沿岸地域は季節風の影響により農耕に適した
幾つもの都市が形成された海に囲まれた半島は、その地形から
此処では精力的に
錬金術が
故に錬金術師は初期では魔術師と呼ばれ、時代と
「高純度のお酒ね~、それはヴェインが飲みたがる訳だね」
「あぁ、俺達の傷の手当に使っていたのもそうらしい。治療用は
「おほっ、そりゃ益々楽しみってもんじゃねぇか。そろそろ俺達も外出許可くんねぇかな、此処に来てもう
「そっか、もうそんな
「三ヶ月か、ヴェイン、墓守達にまた報酬は先に渡すから、継続して監視を続けるように頼んでおいてくれるか? 」
「あいよ、でもよぉ三ヶ月も経てばいい加減大丈夫なんじゃねぇのか? 後どれ位監視するつもりなんだ?
「
時折冷たい風が建付けの悪い木枠の窓を撫でると、笛の音に似た耳障りな不協和音を奏でる。
「カシュー、それは言わない約束だぞ。此処でもう一度約束してくれ、いいな? 」
グランドはゆっくりとカシューを見据えると改めて同意を求めた。
「わ、分かったよグランド…… ごめん」
「悪いな、ヴェイン、カシュー、もう少しなんだ、もう少し我慢してくれ。これが上手く行けば良い手土産になる」
「へいへい隊長様には従いますよっとぉ、だけどよぉ俺ぁもう外出許可を貰う気満々だからよぉ、服買ってくれよ服、お出かけ用の服を買ってくれよぉグランド~ 酒場に行きてぇんだよ~ 」
「本当にヴェインは只のでかい子供だよね」
「悪かったなぁ泣き虫カシューさんよぉ」
「なっ―――――⁉ 」
「俺様を、でかい子猫と一緒にすんじゃねぇよ」
グランドは相変わらずの二人のやり取りにやれやれと溜息をつくと、
「では二人共、先ずは俺達の今後について話そうか」
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