第8話 断じて行えば鬼神も之を避く
絶えず命を捨てる覚悟をしてきた。いや、死に場所を探していたのかもしれない。生に執着する程、誰かを愛し、誰かに愛され、誰かに必要とされた事は無かった。
そんな生きた屍に「その命を俺に預けてくれないか」と頭を垂れた
孤独の戦士 ヴェイン・ミルドルド
生きる理由を無くさぬ為に……
四つに構え黒い毛皮を被った悪魔が
研ぎ澄まされた集中力は相手の動きを
領域を侵犯する者に鋼の
バキンと牙を粉砕し
側頭部からドガンと衝撃音が響き、間髪入れず顔面を無慈悲に薙ぎ払う。
グアアアアと絶叫と共に
無骨なまでの剛剣は、切る為にあらず、己の力で
大熊は
(時を得た――――― )
ゴアアア‼ 両腕を天に仰ぎ痛みに悶える。
大剣はその腹にめり込み血を滴らせるが、踏み込みに焦りが生じ致命傷には至らない。
(ちっ‼ 浅いか――――― )
更に踏み込み、大剣を深く突き刺そうとした
ドガンガガンと身体が
手負いの獣の一振りは、大柄なヴェインでさえも
「ごふっ…… そうか…… てめーも必死か、俺も必死だ、俺を殺りたきゃ覚悟しろ、腕一本はもらって
すると、グランドの悲痛な叫びが飛び込んで来る。
―――――⁉
「シルヴァ―――――‼」
ヴェインが視線を投げると、シルヴァの身体が大熊の鋭い爪に
片目の大熊は勝利を確信し、ゆっくりとグランドに迫り寄る。
「くそっ」とヴェインは呟き、短期で仕留めきれなかった後悔を恨むと同時に、グランドを守る為の最善策を
(どうする―――――⁉ どうすりゃいい―――――⁉ )
目の前の大熊が耳を
シュバッと大気を斬り裂き
今度はなんだ―――――⁉
ヴェインとグランドは同時に目を凝らす。
大熊達は飛び上がり、後ろを振り向き
音も立てずに着地をすると、
画竜点睛―――――
受け継がれるべき血脈は今この男の中に宿り始める。
二人の瞳に飛び込んで来た映像は、たった一人の者によって一瞬で地に沈む大熊の姿だった……
新しい
老人は、
【銘】妖刀
「まぁあれだけ木剣を振れるんじゃから真剣でも問題ないじゃろ」
老人は
(相変わらず…… 呑気なお人だ、後で苦労するのは俺なんだぞ、それよりも
鍛錬は通常、木剣で行っており、
「それと、お主には外に出る前に言って置く事がある」
老人はゆっくりと落ち着いた
「鞍馬流は人に使うな。いや、正しくは人に見せるなと言えば分かり易いじゃろ、見せたら最後、見た者は必ず
鞍馬流は一刀二剣術。【
鬼法眼刀術=剣刀術。剣術や
天狗殺法術=幻刀術。幻術、呪術、妖術、神通力を用いた妖剣術。
「良いな?使うなとは言っておらん、使い
老人は何故か不敵な笑みを浮かべ続ける。
「最後に心得じゃ、先手必勝名乗る必要無し。まぁ名を持たぬお主には丁度良いじゃろうて、お主はな、この国の騎士では無い。
そう
「さてと、
老人は黒い盃をゆっくりと俺に差し出した。
「……⁉ 」
「これは師弟の
「はい老師殿…… 承っております」
「そうか、しかしお主には
「し、しかしそれは…… 」
俺は
「して、どうする? 止めるなら今じゃぞ、儂からの与件を達成する覚悟が未だ出来ぬか? 」
「…… 」
俺はじっと一点を見詰め
「ふむ、ならば一日
柔らかな表情でそう云うと老人は離れに去って行った……
俺はため息を付き、木枠で出来た窓を開け、
―――思えば此処に来て何年経った?……
(どれだけの月日を老師は惜しみなく俺に与えてくれた?)
―――お前は老師に何を返せる?……
鷹の山別れ、いよいよと飛び立つ決心をする―――
≪あんたの只の
―――老人の頭の中で女が語る……
「言うなアナベル……
老人は椅子に深く腰掛け天を仰いだ。
許可され手渡たされた物は、
「老師殿、やはりこれらを禁ずるにも意味が有ると? 」
不安を
「なんじゃ不服か? 」
老人は
「いえ、そんな事は…… 」
風が悪戯に木枠の窓を少し開け、柔らかな風が頬を撫でる。
「お主は何じゃ? 」
老人は不機嫌そうにお茶を差し出し、椅子に背を預ける。
「―――――⁉ 」
(どうやら老師の
「お主は儂の何じゃと聞いておる」
老人はじっと俺を
「で、弟子です、老師殿」
襟を正し慌てて答える……
「ならば師のいう事なれば黙って聞いておれば良い」
老人は目を閉じ両手で
「……はぁ、」
(
「なに、そのうち解る」
「…… 」
月明りの
この八日間そればかり考えて居た……
老人は「いづれ解る、いつかわかる」その言葉の繰り返しだった。
(本当にそれでいいのか? 本当に強く成れるのか? )
頭の中の自分が取り
答えに飢えていた、結果が欲しかった、身体で感じ得るものを。
(何故こんな俺を老師は弟子にした?何故だ…… )
エマにも未だ勝てた事は無かった。いい所引き分けしかない……
(情けない…… )
「くそっ‼ 」
一閃‼ 溢れ出る感情に任せ、闇夜に向け刃を振るう。何度も何度も無心で振るう。汗が肌を伝い刀は妖艶に月明りを返し、機を
憂鬱な夜の
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