第6話 外法様の剣
「お主達、まさかとは思うが既に
「睦み合い? 」
エマは昨夜の事など
「そうじゃ、ピンとこぬか?
語尾に力を入れ
「ちょ⁉―――― ちょっと待ってくれ兵衛…… いや老師殿、俺は断じてそんな
額に汗が滲み言葉が口籠る。
「どうした⁉ 歯切れが悪いようじゃが、
「じょ、情交には…… 及んでいない、それだけは信じて頂きたい」
俺は昨夜の記憶を一つ一つ慎重に思い出しながら、確かめるように答え、同時にエマのあられもない姿が脳裏に浮かび、ごくりと喉を鳴らす。
「はぁ」と深いため息を付き呆れた表情で老人は続ける。
「よいか? 予め申しておったつもりじゃったが、お主、理解はしていたのか? 」
「…… 」
俺は言われていた事をもう一度思い浮かべる。
1つ、幻覚に対する耐性作りと毒への抗体作り。
1つ、覚醒を
1つ、
それは、やましい目的でエマを連れ込んだ訳ではなく全てこの鍛錬の一環であった。
「忌々しき事態とはな、仮にどちらかが
老人のお説教が長かったのか、エマはぷいっと猫のぬいぐるみを抱き、自分の部屋に入っていった。老人はエマのその姿を見送ると、少し小声で問いかけてきた。
「まぁ良いわ、それでエマの身体には何か特異な点は在ったか? 」
「特異な点とは? 」
俺には何が特異な点なのかが理解出来なかった。
「そうか…… ならば、まだ良い」
「―――――⁉ 」
「まぁ気にするな、
老人は小さなテーブルに着くよう俺に目で促す。
「さて、指南もそろそろ大詰めじゃ、次に駒を進めるぞい、二十一在る剣術と槍術の型は覚えたか? 」
俺は
「ご教授頂いた通りに、木剣と長槍にて型の鍛錬は毎朝、欠かさずに」
「良い答えじゃ、では、
「上段、中段、下段、
「ふむ、良く学んでおる。では、まだ日も高い、ちいとばかり見せて貰おうかの、ついて参れ」
そう言うと老人は木剣を握り、母屋近くの河川敷に俺を連れ出した。
「何故に此処なのかと言う顔をしておるの、まぁ聞け、お主がいつも鍛錬している場所は土の上で足場も良い、しかし此処はどうじゃ?子砂利や大きな石がごろごろしておって
確かにこれでは足元が
「どうじゃ?準備は必要か? 」
老師は背を向けたまま問い掛ける。
「いや、老師殿さえ良ければ」
俺は木剣の持ち手を袖口で拭い襟を正す……
「そうか、では、ぼちぼち参るぞ」
ヒュンと木剣を横に薙ぎ払うと、ゆっくりと振り返り俺と向かい合う。
辺りの空気が張り詰め凍り付く―――――
肌に伝わる殺気が
【
居合抜刀術を含む、総合剣武術。その技は十三人を一瞬で抹殺したとされ剣術の祖とされた流派。また創始者は僧であり
俺は正眼の構えからじりじりと歩み寄り、間合いを詰めようと試みるが、小石が多く不安定な足場でふらつき眼球を僅かに足元に流した。
―――――⁉
ヒュンっと風切り音と共に握り拳より
「―――――くっ!! 」
どうやら下段の構えで向き合って居たのは、剣先で小石を弾き相手に隙を作らせる為で
恐ろしい程の剣速が、瞬きさえも許さずに、木剣を唸らせ上段から振り掛かる。防御の要である霞の構えの陣形でさえ簡単に崩される。
ガガンと衝撃が伝わり握り手が痺れる‼
「ぐっくぅ」
片手で繰り出して来た一刀で有る事を忘れてしまう程の剣圧。
(体躯は俺と変わらない、いや
「ふむ、良く太刀筋を見ておるのう」
俺はこの重い剣撃を受け切れず、交差した木剣を滑らせ、体軸を少しばかり流し、右に回り込み勢いを
「ほほ!そこはいかんの、お主はそこに
老師の言葉の意味を理解するのに時間は掛からなかった。
メキッと俺の右わき腹に老師の
「がはっ‼ 」
蹴られたのか? 全く捉えられなかった……
「ほれ、はようせんと、もう終わるぞ? 」
だらしなく横たえた身体を起こし奮起する。
(敵うと思うな!敵を知り、敵を討て!)
【
突然の出来事に心が乱れて正常な判断ができない状態。
恐怖心が起き、攻めようにも退こうにも、体が動かない状態。
相手が何をするのか疑心暗鬼になり、敏速な判断、動作ができない状態。
精神が混乱して、敏速な判断、軽快な動作ができない状態。
(全ての雑念を捨て乗り越えろ‼ )
―――呼吸を整え力を抜き半身開きで構える……
「ほう……
ゆっくりと細く息を吐き、吐き切ったと同時に斬り込み、
左上段の流し打太刀――――
――――⁉
カンッと、途端に受け流される。
(剣を留めるな、相手が老師ならば去なされて至極当然‼ 振り抜け‼ )
ピリッと空気が騒ぐ――――
《鞍馬流
体勢を入れ替え、身体を反転させ遠心力を以って頭、胴、腰、脚と四連撃を雷鳴の如き神速で叩き込む‼
ガガガガン―――――‼
「ほほぅ、雷鳴をも操るか、儂じゃなければ危うかったぞ」
老師は全ての斬撃をも受け切る。
(くっ!これでも届かないのか――――)
「ならばみせようぞ‼ 良く学ぶがよい」
老師が語り掛けると同時にドンッと地場が揺れ小石が一面に舞い、
浮きだった小石が一瞬、空中に止まる‼
「なっ―――――⁉ 」
《轟け‼ 絶斬り―――― 雷鳴‼ 》
電光石火の剣速が小さな竜巻を生み老師の周囲が吹き
俺はその風圧だけで巻き上げられた小石と共に弾き飛ばされ、一撃目を偶然に受けた木剣が粉々に砕け散り俺の頬に傷を刻んだ……
「がはっ」
大きな岩に背中を打ち付けられその場で崩れ落ちる―――
(これまでか…… )
老師は心折れた俺を見透かしたように続ける。
「何じゃ? 剣が無ければ立ち上がれぬか? 儂はお主に総合剣武術を仕込んだつもりであったが感違いじゃったかのう? 」
俺はぎりっと歯を鳴らし、ふらふらと立ち上がる。腰を落とし上段下段と左右の腕を伸ばし無手の構えを取り対峙する。はぁはぁと肩で息をしながら強勢を張った。
「これからです老師殿」
「そうか」
と、老師は呟き、ぽいっと木剣を投げ捨て、脚を半身ずらし構えに入る。
「では儂を早速、殺しに来い‼ 」
昼下がりの日差しは
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます