獲物



《チュートリアル・罠設置Ⅰを開始します》

《地面に触れて、『罠設置』と唱えて下さい》


「『罠設置』……おっ」


体勢を下に、地面を右手でタッチ。そして唱える。

見れば、ロード画面の様なリングが右手の甲に表示されていた。


《落とし穴を設置しました》


《現在使用出来る罠は落とし穴のみの為、自動で落とし穴が設置されました》

《地面以外には落とし穴は設置できません》

《それ以外の場所ですと、そもそも『罠設置』が発動出来ませんのでご注意下さい》


「なるほど」


《次は設置した落とし穴を解除してみましょう》

《設置した落とし穴は他のプレイヤーからは見えませんが、貴方、もしくはパーティメンバーからは見えます》


《地面にある円形のアイコンが分かりますか?》


「見えるな」


そこには、半径15㎝ぐらいの円が書かれていた。


《落とし穴》


視線を合わせると、しっかり罠の名前も出てくれる。



《そのアイコンに視線を合わせ、『解除』と唱えて下さい》


「『解除』――消えた」


《落とし穴が解除されました》


《間違って設置した場合はこのように解除して下さい》

《チュートリアル・罠設置Ⅰを終了します》



「どうもどうも。全部知ってたけど」



一応受けとくのに越したことは無いからな。






「……楽しすぎるぞ」


アレから、ひたすら落とし穴でスライムと戦う事一時間ほど。

色々試したい事が多すぎて困る。


ちなみにアレから色々買い足した。

雑貨商人ではライフポーション、マジックポーション……後は。


『旅の記録』、まんまノートだ。

スケッチブック大のそれに、ご丁寧にペンもそれにくっついている。



「『同時設置数は三つまで』、と……」



そこへ得た情報を書き込んでいく。

ちなみにこのゲームはメニューからのブラウザーで動画サイトなり掲示板なり何でも見れるんだが、罠士の攻略情報がゼロだった。

こんな神職が人気無しなんてとんでもない!


「えっと、次は何を――」

「――おいお前!」


《アギト LEVEL10 戦士》


次はスライム以外で落とし穴を……なんて思ってたら声が掛かる。

何気に初めて会話するな、プレイヤーとは。


「何だ?」

「さっきから近くでちょこちょこ動き回ってうぜーんだよ、どっか行け」


「……ああ」

「この範囲は俺の狩り場だから。な」

「分かった分かった」


俺はこのアギトが来る前からこの場所に居た。

つまりコイツは、後から来た挙げ句自分の狩り場と主張しているのだ。


「なあ知ってんの? 罠士とかいうクソ職使ってるのお前だけだぞ」

「そうなのか」


「しかも一人じゃん、フレンドゼロかよ当然だな」

「確かに」


「ははっビビってんの? 可哀想、その罠だけじゃ何も出来ないもんな! 喧嘩なら買うぜ? なあ?」

「今忙しいんで……」


「チっ、雑魚が」

「魚に謝れ」


まるで『自分に手を出せ』と言わんばかりの安い挑発。


恐らく構ったら負けなので流しながら返答。意味不明過ぎて脳が理解を拒んでいた。

恐ら地球以外の言語を使っていたんだろう。

そういえば英語とか、相手が分からない可能性の言語を話すとどうなるんだ? 自動翻訳されるんだろうか。


検証しよう。

コレは紛れもない有意義な検証だ。


「ユーアー、アンイディオット」

「は……? 何だよ気持ちわりぃ……」


不思議そうな顔をしながらどこかへ行く彼。

どうやら通じないみたいだな。ノートに書いておこう。

書いててアレだが悪寒がしてきた。ギアセット壊れる。



「――覚えとけよ、アギト」



呟く。

その声だけは、彼へ聞こえない様に。





《ノーマルビット LEVEL6》


『キュィ』


アレから場所を変えず、そのモンスターに挑む。

コイツはちょっとデカめのウサギで、角が生えておりソレで突進攻撃を繰り出してくるんだが。


『キュイー!?』


落ちていくノーマルビット。

……つまり、落とし穴の格好の餌食。


《落とし穴が発動しました》


いつ見ても、モンスターが自分の罠で落ちる瞬間が最高だ。日々のストレスが溶けていく。


『キュイ……』


一秒後、ノーマルビットは地面に戻り唸る。

突進の予備動作だ。


さて。

悲しい事に、罠士は『武器』を持てない。

武器屋に行った時、全ての装備が『職業による装備制限』の表示で装着出来なかった。

正直とんでもない職特性だ。


この落とし穴が、紛れもないダメージソース。

街中で見かけない理由は分かる。

でも当然転職なんてする気は無いぞ。


『キュイッ!』


突進を身体を捻って避ける。

数熟して慣れたら意外といけるな(10敗)。


レベル上がったらAGIに振ろう。そう決めた。もしかしたら罠設置のスピード上がるかもしれないし。


「『罠設置』」

『キュイ……キュイ!』


《落とし穴を設置しました》

《落とし穴が発動しました》


『キュイ!?』


目の前、ギリギリで落ちていくノーマルビット。

スライムと違い、突進を避ければ再攻撃に結構時間が掛かるから戦いやすい。


さあ、後8回。



『キュイ!』

「っ……『罠設置』」


攻撃を避けて、地面に手を。


《落とし穴を設置しました》

《落とし穴が発動しました》


『キュイ!?』


《経験値を取得しました》


「……ふう」


合計十回の落とし穴発動。

疲れるが、パターン化すればノーダメージで討伐成功。


問題は時間が掛かりすぎる事。

もっと効率が欲しいが、贅沢は言ってられない。

レベルを上げなければ。

とりあえず今日はこのノーマルビットで――



《アギト LEVEL10 戦士》


「なあおい! さっき言っ――おああっ!?」



《落とし穴が発動しました》

《罪ポイントが加算されます》


《PKペナルティが発生します》

《PKペナルティ第一段階》



大量の機械音声。

見れば、ちょっと前に突っかかってきたアギトが仕掛けた穴にハマっていた。



「――うあっ!? 何だよこれ!」

「……マジで引っかかるとは。って何だこのアナウンス」



落とし穴の同時発動数は3つまで。

あの男がこっちに来た時に備えて、アイツが居る方向に作って置いたのだ。


こんな綺麗に踏むとは思ってなかったけどね。天罰かな。



「テメェ……終わったぞ」

「何でだ?」

「ハハハ! お前はプレイヤーに攻撃を仕掛けた、『レッドネーム』だ」

「ステータス……確かに」



そう言う彼。

確かに、見れば俺の名前がほんのり赤い。


……なるほど、適当に仕掛けた罠でもそこら辺のプレイヤーが踏んだらアウトなんだな。

それとも、俺の脳から“悪意”でもAIが察知したか?


分からないが――どっちにしたって構わない。



「お前を倒せば経験値ゲット、ちょっとしたボーナスってわけよ!」

「そんなシステムあるんだな」

「ハハハっ今日は調子良いぜ。てめぇで今日3人目だ」



剣を肩に担いで、こちらへ来る男。


……聞く限り、俺を攻撃してもアイツはレッドネームにならないんだろう。

先に攻撃した方が悪で、喧嘩を買う方は損が無い『正義』と。

分かりやすいな。酷いシステムだ。


「死ぬのはお前だが」

「……あ?」


身体が震える。

人と闘うなんて事、現実じゃあり得ない。


『非現実』だ。

俺がゲームをする理由の1つがそこにある。

だからこそ――楽しくて仕方が無いんだ。



「――『罠設置』」



さあ闘おう。

俺は、いつもの様にそう呟いた。




【転職機能】

メニューに存在。

使用すると、再度職業を選択出来る。

ただしレベルは10下がり、かつ職業専用スキルはリセットされる為注意。


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