第3話 山羊人間に認定されたらしい
「無事で良かった、安達くん!」
『ぬ』を埋葬して遅い朝食をとっていたら新美芽衣子の伯父が帰って来た。
「はあ、殺されかけましたが…新美さんも元気で良かったです」
昨夜襲われて『ぬ』が僕の代わりに殺された事、彼を埋めた事を話した。
「安達くんの安全を頼んでおいたんだけど、あいつには悪いことをしたよ…」
新美は『
「15世紀末にヤギと山羊人間は日本にやってきた。のんびりと暮らしていたのだが、明治初期に新政府が持ち込んだ欧州産の黒ヤギをキリシタンたちが奪い、断崖絶壁の隠れ洞窟に連れて行った。神道を国教としたい明治政府がキリスト教を邪宗教としたことへの抗議だった。彼らは徳川幕府が終わりこれからは自分たちの宗教が認められると期待していたからね、新政府への憎しみと絶望から悪魔を降霊する黒ミサを行った。しかしヤギを焼く煙を発見され、彼らは捕縛され流刑になっそうだ。それからというもの、世相が乱れると五島列島に黒いヤギの悪魔たちが現れるようになった。心が弱い人間に乗り移って殺人をしたり人間を喰い殺したりするものだから、困った役場は秘密裏に山羊人間に救いを求めてきたんだ。山羊人間にはパーン神がついているから、心が弱ったり悪魔を怖がることはないからね。悪魔は私達山羊人間を目の敵にしている。元々は私達と同じヤギなのにね…」
新美が指指した海岸には岩場に刺さったように見える真白な十字架があった。
「あの場所には山羊人間の神様アイギパーン様がいて、悪魔に対抗する者に力を与えてくれる。バフォメットの力が強まるとき、アイギパーン様の力も強くなるんだ。それが今さ」
(へっ…その今って?まさか僕にも協力せいってこと…?)
「に、新美さん…昨夜ので僕の出番は終わったと思ったのですが、バフォメットなんてヤバそうな悪魔がまだいるんですか?昨夜のよりもっと強いんですよね?僕カンケーないんで!」
僕は逃げ腰になって今にも走り出しそうだったが、新美の言葉でフリーズしてしまった。
「何を言ってるのだ、安達くん。私達は同士だよ、君も山羊人間だ!」
(……)
「な、僕はそんなんじゃ…」
僕はやっとのことで返事した。おとぎ話でありがちな『実は君は王様の息子』くらいありえない。
「君の名字が動かぬ証拠だ。安達の『達』に羊が入ってるだろ?新美の『美』にもある。苗字に『羊』の字が入っている、それが山羊人間の証拠だ!」
僕はたまげた。そんなの誰からも聞いたことがない。
「偶然です!さよならっ」
これ以上危険な目にあいたくない僕は彼に背を向けた。昨夜は『ぬ』を殺された怒りでぶっ飛んでいたが、考えてみたらとても危ないことをしたのだ。死んだら終わり、あの世なんてない。
「ふーん、芽衣子はいいのかい?もし安達くんが黒い悪魔の首領、バフォメットを退治なんてしちゃったら、芽衣子だけでなく日本中の山羊人間女子が君に大フィーバーすること間違いないんだよ」
「えっ…」
(僕がモテるチャンスが目前にゴロリと横たわっている、だと?)
地味で理系の僕はすぐさま飛びついた。
(モテてなんぼじゃ!)
「や、やりますっ!そのなんとかパンに会わせて下さい!」
「やはり君は見所がある…神様をジャムパンみたいに言うなんてね、めめ」
新美はニヒルにヤギ笑いをした。
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