ウケザラ施設67号

マツムシ サトシ

ぼく

 アクリルだろうか、ガラスだろうか。

 霜の付いた透明なものの前でぼくは目覚めた。

 見渡すと筒状のものの中にぼくはいるようだ。

 ふいに自分の手に目をやる。ゴツゴツとした手に鋭い爪が生えていた。


「Ughh……」

声を出そうとする。声は出るが、言葉にならない。


──寒い……

──痛い……

――苦しい……


 この筒の中はかなり居心地が悪い。死ぬほどつらい。体がうまく動かない……


 アラーム音がうっすらと鳴り響く。少し経つと霜の付いた板越しに、ゴスロリ衣装に身を包んだ金髪長髪の少女と黒基調のロングコートを羽織った黒髪長髪の細身の大男が現れ、こちらを見やるのが見えた。


「このままやと、あかんなイヴ」

 大男は首を傾げた。


「よくないわね。フィッツジェラルド」

 声をかけられたゴスロリ金髪少女が応える。


 少女が筒の外で何か操作している様子だ。少しすると筒の透明な部分が動き出す。これが蓋なのか。

 ぼくは筒の中から転げ落ちる。力が入らずそのまま横たわる。


「とりま、すまんな新人」

 大男に蹴り飛ばされ、肩を足で踏まれ銃を突きつけられる。大男のつけているゴーグルがしきりにキュイキュイ音を鳴らしながらこちらを見ている。抵抗しようにも体は動かない。


「言葉ァ。分かるか?……まあなんにしても簡単な英語ならわかるやろ。わからんかったらそれまでや」

 大男のつけているゴーグルが赤く光った。その瞬間ゴスロリ金髪少女が口を開く。


「あんたほんとバカね。分からない可能性の方が高いでしょう。あんた同じ立場でドイツ語で聞かれたらアウトだったわよ」

 金髪少女が国旗が並んだ表をぼくの前に差し出す。


「ねえ。あんたの出身はどこなの?指をさしてごらん。絵は分かるでしょう?わからなかったらそれまでよ?」


「お前もたいがいやでイヴ」


「ええか?俺らが知りたいんは言葉が通じるかどうかや。意思疎通が図れるかどうかや」

 大男のつけているゴーグルがひとしきり赤く光った。


 ぼくは日本国旗を差し、親指を立て「Ughh……」と声を上げ気を失った。

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