エピローグ 其の1

 ――翌日


 全部が漸く終わった……と思いたい。昨日、アレだけ沢山いたオブシディアン達のうち、生き残っていた全員はやはり原因不明の死を遂げた。結局彼は何者で、何がしたくて、そもそもどんな理由を経て状態になったのか分からず仕舞いになった。


 だからこそ誰もが終わったとは考えていなかった。どんな技術か、あるいは魔術か分からないけど、自分と同じ個体を増やせるというならばアレで最後だとは考え辛いからだ。とは言え誰もそんな事を口に出さなかった、一旦でもいいから区切りを付けなければ心身が疲弊してしまう。何処から、いつ来るか分からない敵を相手だから常に気を張り続けろなんて今のリブラにも、世界にも不可能だった。


 そんな少々口に出すには情けない理由で皇帝の口から人類統一連合の根絶が宣言された。勿論、主犯の中にジェットがいる事も含めて、だ。やはり彼は体よく利用されていただけだった。プレナイトの口車に乗り、途中から記憶を操作された。


 だけどそれで許される筈も無く、また当人も許されると思っておらず、双方の意見をすり合わせた結果、ジェットはリブラ家から除籍の上アインワース大陸から追放、同大陸への再上陸を永久禁止とされた。


 甘い。世間ではそう言う声も確かにあった。実際、俺を含めそうなんじゃないかと言う声もある。が、ソコにはもう1つ言い辛い事情もあった。プレナイトが全ての罪を被った。直前に皇帝陛下と話す機会があったそうだが、その時の一幕が余りにも表に出すには異常過ぎて、結局ジェットへの対応を甘んじて受け入れようという話になったのが本当の原因だ。


『獣人、及びハーフのカスター大陸への渡航自由化、及びその補助を確約する。それから、申し訳なかった。』


 そう言った直後、寄りにも寄って犯罪者に頭を下げる皇帝を見た俺達は一体どんな気持ちだっただろうか。余りにも鮮烈で、今この瞬間でもあの時の俺が何を考えていたのかまったく思い出せない。


『それで俺の同情を引いて、奴の罪を被れとでも……』


『違うッ!!』


 プレナイトの邪推は最もだ。誰だってそう考える。愛する息子の罪を軽減するならば大抵の親は何だってするし、ソレが頭を下げるだけならば大抵は躊躇いなく行う。が、実情は違う。皇帝陛下はジェットの早期死刑を決断していたからであり、プレナイトはその事実を知らない。だからその背後に立つ俺達からその事実を告げられると愕然とした。


『なら、なんでテメェは俺に頭下げてんだ!!それで何が救われ……』


『次が救われる!!』


 皇帝陛下は淀みなくそう言い切った。その余りにも堂々とした言動にプレナイトは威圧され、それ以上を語らなくなったが、斬首刑場に立つや全部の罪を被る発言をぶち上げた。曰く、俺が全部主導した、理想に耽溺するジェットは利用しやすかったが逆らったから記憶を操作した、と。

 

 そして、誰もが殺意混じりの怒号を向ける中で刑は実行された。最後、アイツの顔を見た。何処か満足そうだった。


 そんなやり取りを知ったジェットは淡々と処置を受け入れた。本人は拘束魔術で無理やり拘束しなければ今にも自害しそうな位だったのに、だ。プレナイトの最期を知った彼は何も言わなかった。今生の別れとなる父親にも、姉にも2人の兄にも何も語らず、ただ無言でカスター大陸行きの船に乗り込んだ。


 何が贖罪になるか分からない、どうすれば許されるのか分からない、だけどそれでも償い続ける人生を彼は死ぬまで歩む。それはある意味では死刑よりも辛いだろう。だが何より、彼はその人生から逃げない。誰もがそう信頼しているから、だから"甘い"という世間の評価を受け入れてまで彼を追放した。

 

 ※※※


 ――約2週間後


 テミス広場にはやけに大勢の人だかりが出来ている。今この場には皇帝陛下を始めそうそうたる面々が集まっているのだから仕方ない。


『では先ずパール=ファウスト。君は両親の汚名を知り、義憤から今回の戦いに参じ、その中で見事敵の首魁たる預言者の1人を討ち取った。また、ファウスト家の所有財産全てを此度の補填に回すとの英断も加えれば、君の気高い精神と高い実力を疑う事など出来ない。よって、大公の爵位を贈呈するものとする。異論はあるか?』


『ありません。』


 なんかよく分からんモノが贈呈されパールがソレを受け取ると周囲から歓声が上がった。よく分からんが凄いらしい。


『同じくグランディ=フォーライツ、続いてブルー=ジェード。君達もまた義憤から今回の戦いに参じ、その中で見事敵の首魁たる預言者の1人を討ち取った。君達の気高い精神と高い実力を疑う事など出来ない。よって、侯爵の爵位を贈呈するものとする。異論はあるか?』


『ありません。』


『おおお同じく、あありません。』


 またもやなんかよく分からんモノが贈呈され、グランディとブルーがソレを受け取ると周囲から歓声が上がった。なんかよく分からんが凄いらしい。が、ブルー君なんでそんなに緊張してるの。


『それからブルー=ジェード。君個人には別の報奨を用意している。今回の件、魔術界隈からも相当の逮捕者が出たために有能な人材が著しく減ってしまった。よって君を魔術学舎の学長、兼魔術師会上級会員に推薦する。異論は?』


『フアアアアアッ!!』

『クエー?』


 あーあ。限界を超えちゃった。


『オイオイ。そんなに強張らなくていいぞ。君達もな。コレ、半ば形式的なヤツだから。』 


『いいいいい、いやしかしですねねねね。』


『コイツ、表に出るとホントに駄目ね。』


『まぁ仕方ないですよ。』


『いあ……いや、その前に腐敗を。腐敗を取り除かないと……』


『あぁ、済まんなそう言えばそんな事を言っていたな。その魔術界の改革な。私とスピネルでパパっと済ませといたぞ。』


『フアアアアアッ!!』

『クエー?』


 また限界超えやがったよアイツ。


『あの、俺の長年の夢とか積年の恨みを一言で片づけないでもらえますかね?』


『あれぇ、なんで不満なのぉ?』


『あれぇ、なんで満足してもらえるってぇ?』

『クェー?』

 

 こいつ等、相変わらずだな。だけど漸く日常に戻ったんだからコレくらい適当でも良いか。皇帝陛下も操られた負い目があるって理由で今回の件に関してのみやけにフランクだし。


『で、丁度いい。野郎共メインイベントだコルァ!!』


 相変わらず皇帝陛下オッサンノリノリだ……って、なんで俺見てるの?ホラ、全員の視線が一気に集まったじゃない?

 

『ソコにいる伊佐凪竜一。君には依頼の件も含めて個人的に色々と世話になった。』


 そうですね。


『で、だ。報酬ね。』


 アンタさぁ。ホントに皇帝陛下?そんなフランクでええんか……


『な・ン・と・我が娘です!!』


 うわぁ……ドン引きだよ。


『ンンンンンンッ!!ちちちちちtっちっちち上ぇぇえ!!』


『親父さぁ。こういうのはもっとこう、外堀を埋めてだなァ。逃げられなくしてからだなぁ……』


『そうだよ。これから披露宴とか色々出費があるのにこの財政状況でしょ?節約できるところはしないといけないじゃないか。』


 エンジェラの反応は久々で懐かしいけど、ちょっとそこの脳筋兄弟ちょっと待てや。なんで俺がオーケーする前提だよオイ……なんでそんな驚いた眼で見てるの?君達、節穴?目におっきな穴開いてるの?


『私は6番でもいいわよ。できる女はどんな場所でも活躍するものでしょう?』


 おいコラやめろ喧嘩売るな。ほら、後ろの怖いお姉さん達のやる気スイッチがオンになっちゃたじゃないか。あぁ、背筋が寒い。

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