第46話 襲撃
ヒューゴの予想外の発言にシンは唖然とした。
「俺が剣士に? どうしてヒューゴはそう思うんだ?」
「剣の無い状態で、お前は俺に勝った」
「えっと……、それだけ?」
「いや、それより驚いたのは……お前の見切りの早さと正確さだ」
シンはあまりピンときていない様子。ヒューゴが何故そう考えたのか、シンにはよくわからなかった。
「見切り?」
「あぁそうだ。相手の動きを見極める力」
「それが、俺にあると?」
「そうだ。お前はオレが剣を振るう前に、太刀筋を読んでいた。そして的確に回避してみせた。これこそ剣士に最も求められる力だ」
ここまで話聞いたところで、シンがやっとヒューゴの思考に追いついてきた。
回避は大まかに三つの行動に分けられる。まずは相手がどう動くかを観察し、次にその動き合わせてどう対処するかを思考、最後に実際に行動に移す。
ヒューゴはこの中で特に、一つ目の観察する力にシンは優れてる事に着目した。
「なるほどねぇ……」
「お前と戦って、オレは確信した。お前には剣士としての才がある。剣を手にすれば、お前はこの先もっと強くなれる。だからシン、今すぐ剣をとれ」
ヒューゴは模擬刀を取り出して、シンに差し出す。シンは模擬刀をすんなりと受け取った。
「悪いが、剣士になるつもりはない。けど……剣技ってのには興味がある」
シンはそう言って不適な笑みを浮かべる。
「そうか……。まぁ、今はそれでいい。シン、お前にひとつ教えておく」
「あぁ、何だ?」
「才ある剣士は剣を選ばない。だが、一流の剣は持ち主を選ぶ。シン、お前が剣を取ろうが取らまいが関係ない。強者の手に名剣は巡る」
「俺が剣を取る時が来るってことか?」
「そういうことだ。その時のためにお前を鍛える」
ヒューゴは剣を構えた。
「魔法の使用は一切禁ずる。それと、剣からは絶対に手を離すな。いいな?」
「わかった」
シンはヒューゴに向かって走り出した。ヒューゴの目の前に来たところで、シンは立ち止まって様子を見る。ヒューゴは上から剣を振り下ろした。シンはそれを避けて、ヒューゴの胴めがけて横から剣を振る。ヒューゴはすぐに剣を上げてそれを防ぎ、シンの剣を自分の剣に絡めて地面に捩じ伏せる。そしてヒューゴは自分の剣だけを素早く抜いて、シンの首元に突き立てた。
「やはり、そうか……」
ヒューゴは何かに納得したようにそう呟いた。
「ん? どういうこと?」
「シン、今自分がなぜ負けたかわかるか?」
「そうだな。距離を詰めすぎたせいじゃないか?」
「違う。どうやら気づいていないみたいだな。シン、今のでお前の戦いに於ける欠点がわかった」
シンは先程の模擬戦を思い返してみたが、特に思い当たる節がない。
「ヒューゴ、俺の欠点って何なんだ?」
「いくつかあるが、ひとつは相手の攻撃を避けようとするところだ」
「それは、駄目な事なのか?」
「避けることそのものは悪いことじゃない。むしろ相手の意表を突くにはかなり有効だ。そんな戦い方をする人間なんて、滅多にいないからな。でもそれしか選択肢が無いというのは、時に致命的な状況を生み出す」
ヒューゴはシンの目を真っ直ぐ見ながら、諭すように言う。
「行動パターンが一つしかないから、動きを読むのが簡単ってことか」
「まぁ、そういうことだ。そしてもうひとつ。シン、お前は先手を打たない。初手で相手の様子を見る癖がある。慎重なのは良いが、それ故に一瞬でカタが着く勝負をいたずらに長引かせてしまうこともある」
ヒューゴに指摘された内容が的確すぎて、シンには返す言葉がなかった。
確かにヒューゴの言う通りだ。あの時、ヒューゴに勝てたのは偶然に過ぎない。あまりヒューゴが見たことのない突飛な戦法をとったからこそ、得ることのできた勝利。そう何度も使える手ではないし、誰にでも通用する訳じゃない。
「確かに、そうだな……」
「別に責めているわけではない。まだ高みへ行ける余地があるという意味で言っている」
ヒューゴは柔らかい笑顔でそう言った。
「ヒューゴは優しいんだな」
「何だ、急に」
シンは最初にヒューゴと出会った時、なぜあんなに険しい雰囲気だったのかをここで理解した。
「最初、俺を追い出そうとしただろ?」
「そうだな」
「あれは俺を守ろうとしてたんだな」
「違う! 足手まといなら必要ないと思っただけだ」
ヒューゴは必死に否定するが、どうやら図星のようだ。
あの館には、バーツ本人の許可が無いと踏み入ることは絶対に許されない。ガレオ達はそこに無理矢理進入しようとしている。そうなれば戦闘は避けられない。同行するには、それなりに戦闘経験のあるものでないと生存はかなり厳しいものとなる。だからこそヒューゴはあの時、実力のわからないシンの同行を拒んだ。
「ま、そういうことにしておくよ」
「休憩はこのくらいにして、さっさと続きだ。やるぞ、シン」
ヒューゴはまた剣を構える。シンも剣を構えて、ヒューゴに向かってまた走り出した。
それから数日後、ガレオとヒューゴの二人と交互に鍛錬をするのがすっかり日課となっていた。
そんなある日、突然、事件は起こる。
その日はヒューゴと剣の修練をしていた。区切りの良いところまできたので、休憩をしていた時だった。
「シン! ヒューゴ!」
ガレオが血相を変えて走ってきた。
「ガレオ、どうしたんだ?」
「何かあったのか?」
シンとヒューゴはほぼ同時に身構えながらガレオの返事を待つ。
「拠点が襲われているらしい。今シャロンから連絡があった。すぐに戻るぞ」
三人は一斉に拠点のある方向へ走った。
「あの場所は安全じゃなかったのか?」
「何故ここがバレた?」
シンとヒューゴが口々に言う。
「それは俺にもわからない」
冷静に見えるが、ガレオも内心かなり焦っているようだ。
「拠点に居るのはシャロンだけか?」
ヒューゴがガレオに聞く。
「恐らくそうだ。ルイスとグレッグは今日は新都市に行っている。ヴァレリアは連絡したが返答がない」
「ヴァレリアはともかく、拠点にシャロン一人だけだとまずいな」
あまりの状況とタイミングの悪さに、ヒューゴの顔が凍りついた。
「今は無事を祈るしかない。とにかく急ごう」
三人はそこから無言で拠点までの道のりを、ただ走り続けた。
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