第10話 正しさからの解放
まず神坂の目に映ったのは、一本の木だった。木そのものになんらおかしなところはない。ただ妙なことに、木に生えている葉っぱの一枚一枚が発光している。まるで蛍のように、葉っぱ全体が規則的なリズムで点滅を繰り返していた。
さらに他に目をやると、土が剥き出しになってできた道の両脇にさっきの木がいくつも並んでいる。どうやら雑木林の真ん中に道が作られているらしかった。神坂はその道のちょうど真ん中で倒れていたようだ。
さらにこの雑木林は小高い丘の上に位置していて、辺りを一望することができた。道の先を確認してみると、見渡す限りの草原が広がっている。先程の木と同様に草原に生えた草の一つひとつが光を帯びている。
あれは……、何だろう?
神坂は草原の中に何かいるのが見えた。目を凝らしてみると、そこには全身灰色でゾウのような身体にトカゲのような顔をした謎の生物が草を食べていた。
もしかして恐竜……なのか?
神坂がそう思うのも無理はなかった。草原から神坂までの距離は低く見積もっても数百メートルはある。その状況でどんな姿と特徴をしているかわかるということは、生物の体長が相当大きなことを意味していた。
次に神坂は空に目を向けた。綺麗な青色がどこまでも続いている。しかしよく見ると、はるか上空が僅かに翠がかっている。エメラルドグリーンを少し薄めた色と濃いスカイブルーの二層構造になっているようだ。
鳥、じゃないよな?
そのまま空をしばらく見ていると、羽の生えた四本足の生物が飛んでいるのが目に入った。あいにく距離が遠く、それ以上のことはわからない。しかし、それが未知の生物であることは確かだった。
神坂の見るものほぼ全てが未知のものだった。無論、それは神坂の見聞が狭かったとか、そういう話ではない。誰もが見たことのない光景がそこにはあった。
神坂の辿り着いた場所は紛れもない、〝異世界〟だった。
「なんか、綺麗だな」
神坂から最初に出た言葉はそれだった。
それから神坂は大きく深呼吸をした。
「それに、空気も美味い」
そうか。俺は今までずっと……、息苦しかったんだ。
世間体や価値観に縛られて、正しい生き方をしなければならないと思っていた。でもどうすればいいのか、どうしたいのかわからなくて。不安と劣等感だけが積もっていった。
でももうそんなこと、考えなくていいんだな。
上手く言葉にはできないが、どこか肩の荷が下りた気がした。
しかし、まさか本当に来てしまうとは。自分で望んでおいて何だが、これからどうするべきか……。神坂は頭を悩ませる。
「どうしたもんかな」
美しくも異質な世界を前に、神坂は途方に暮れていた。
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