《SSTG》『セハザ《no1》-(3)-』
AP
第1話
――――――んだとこのやろうがあぁあっっ・・・!!」
路地裏、明かりの届かない建物の狭間で響く声。
人影が人を殴り倒す。
水に濡れ妖しく光る固い地面は、遠くのネオンの鮮烈な原色の灯りを
数人に囲まれていた、殴られた人間は路地に倒れ込んだが、・・・起き上がってくる気配が無い。
「おい、やっちまったのか?」
「やりすぎだってのっ、ぎゃはは!」
「なんなんだこいつ?」
囲む彼らの中でもひと際体格の良い彼は、目深にパーカーのフードを被った彼は、周りのはやし立てる声にまた何度も蹴りを入れる。
「おい、立てよ!」
そして、そいつの頭を掴み、大きく拳を振りかぶる。
「もうやめなってっ・・・!」
今まさに殴ろうとしている彼を強く止めようとする青年は、彼がこの上なくイラついているのはわかっているが、それでも止めないわけにはいかなかった。
これ以上やれば、その倒れ込んだ人が死ぬかもしれないからだ。
後ろから羽交い絞めに・・はできないが、抱き着くようにした体格も劣るその青年を、邪魔そうに身体を振って振り払おうとするが。
大きな舌打ちをその青年は間近で聞いた、相手を放り出した彼が歩き出した。
囲んでいた数人の彼らも顔を見合わせながら、彼を追って歩き出した。
「殺すんじゃなかったのか?」
「うるせぇ、」
苛立ちは収まっちゃいないようだが。
彼らはそう、肩越しに振り返るその路地裏の事後にはすでに興味を失ったようだった。
そこには、彼らを見送るように立っていた青年が1人残っていた。
ケンカを身体を張って止めた青年だ。
と言っても、その青年の力は彼に敵わなかったし、倒れているそいつもケンカではなく一方的に殴られたり蹴られたりしていただけだが。
・・その見も知らない余所者か、この辺りの路地裏じゃ見かけない人間、迷い込んだ浮浪者か・・・ボロボロの衣服を着た、暗がりで顔も良く見えないが・・・このまま路地裏に置いておくのも気が引けるが、そうするしか―――――
――――君か』
声、耳元から・・
彼は、体格が細く、女にも見える・・フードを目深に被った・・・溜まっていた水たまりに濡れた路地裏の汚物のように・・そいつは・・・―――――彼は、目を見開いた・・戦慄した・・・――――フードの奥が闇に覆われていて、そいつの顔が無いからだ。
「な、っ・・・」
―――――ああ、なるほど・・・君だったのか・・道理で、おかしいと思ったんだ・・・。』
フードの奥の闇が・・・表情を変化させるのが、わかる。
『あいつじゃない、君だ・・・』
わからないのに、わかる・・・。
『・・君だ・・・』
・・・・闇の奥が歪んでいく・・・。
『君の行く先に・・・幸せがあるように・・』
闇の奥に浮かび上がっていた・・2つの眼が確かに、自分を見ていた・・・その眼球の中に・・
―――――っはっ・・・?!・・・はぁっ・・――――――彼は、荒い呼吸に気が付いた、自分の・・・息をするのも忘れていたのか、荒い呼吸を繰り返して。
『そいつ』が、いなくなっていたのに気が付く。
顔を上げて、周囲を見回しても、姿が消えた・・・?
まぼろし・・・?
・・・今まで・・・見ていたのは・・・?
いや、確かにあいつはいた・・・ウルクに蹴られ、ドブネズミの死骸のように蹲っていた・・・。
いったい・・なんだったんだ・・・そうだ・・気のせいか・・夢みたいなものを見ていたのか。
その間に、あいつはどこかへ逃げ出したのだ、路地裏とその悪い自分たちのチームを恐れて。
そうだ、そうに違いない・・・――――――でなければ、人間が消えるはずがない。
「おい、チャイロっ、どうしたっ来いよっ?」
「・・・、あ、ああ、」
向こうへ振り返ろうとしたとき、足元に、僅かな灯りに反射する路地の水たまりになにかが、目に入った。
ネオンの反射する光だと思った・・・。
けど、気になって・・それがなんなのか、覗き込んだ・・・。
――――――それは、水たまりに反射した、自分の顔の辺りだった・・僅かに緑色の光が、漂った一瞬の。
目の辺りに、緑色の光が一瞬だけ、光が重なったのか・・・残り火のように灯っていた気がしたのも、夢の続きなのだろうか――――――――
――――――おい、どうした?大丈夫か?チャイロ、」
力強く肩を掴まれて、仲間が声を掛けてきたのだと気が付いた。
「あ、ああ、大丈夫。ウルク、」
ウルク、俺らの仲間で一番強いウルクだ、彼に心配された・・・。
「ここで寝てると殺される」
力強く肩を離すウルクに、チャイロは少し足をもつれさせながらも頷いて彼に付いて行く。
頭が少しぼうっとするチャイロは、暗がりの路地の汚物が散らかる地面を蹴って追う。
暗闇の街、僅かな明かりはネオンの強烈な光とそれに反射する路地が開ける光景の中で。
遠くから誰か女の叫び声が聞こえ、怒鳴り声が別の方向から聞こえてくる。
派手な色と攻撃的な何かを描いて自己主張する落書きだらけの壁を駆け抜けて。
それら全てから逃げるようにチャイロは、ウルクを追って仲間たちの元へ小走りに戻って行く。
――――――焦燥を感じ、地面を、段々と強く、蹴って。
駆けて・・・走って、辿り着いた先は、人通りの多い道路。
市内のぼやけたような外の夜の明るさ、暖色の灯りが街頭にかろうじて灯る。
その底から見上げる高層ビルの群れは暗闇の中で、僅かな明かりを見せて自分たちを見下ろしてきている。
――――入り組んだ建物をすり抜けて、遠くで強いサイレンが鳴り響く。
チャイロは・・懐のポケット深くにいつも入れているイヤホンを取り出し、耳に挿す。
それは力強くも優しい彼女の歌声、《エン・キコ》の歌声が街を染め上げ始める。
流れていく音楽に耳を澄ませながら、フードを深く被り・・・それでも、その目で――――奥から覗くように見上げる。
こんな底辺の些末な出来事が無数に起こる。
この場所を知るはずもない、最も中央にそびえたつ――――――白く孤高のリリー・スピアーズがそこには常にそびえ立つ。
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