第359話 忍者 対 啜血鬼公

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「「舞台登場ぶたいとうじょう役名変化チェーンジ――〝忍者にんじゃ〟っ。ヒアウィゴー!」」


 西暦二〇X二年八月一二日。

 戦いの始まりと共に昇り始めた太陽も遂に西山の稜線にかかり、空も黄金色に染まっていた。いよいよ決着が近い。

 額に十字傷を刻まれた少年、出雲いずも桃太とうたの瞳が青く輝くや、金髪ストレートの長身少年、五馬いつまがいが黄金の蛇に変わり、ついで蛇を模したお面となって、桃太の顔右半分に張り付いた。

 同時に、桃太の衣服が黒装束くろしょうぞくへと変化して、彼の体を拘束しようと伸びる〝影の使役術シャドーサーバント〟を吹き飛ばす。

 同時に、空中に飛んでいた三毛猫こと三縞みしま凛音りんねが、ふわりと彼の肩に着地した。


「変身で影の形を変えて、影の拘束を解いた? 貴様ら最初からそのつもりだったか!?」

「当たり前だ。七罪ななつみ業夢ぎょうむ、お前の野望もここまでだっ。我流・直刀ちょくとう!」


 業夢は遠方から何十本もの影の剣を繰り出すも、桃太は一二本ダース単位で蹴り砕き、間合いを詰める。


「七罪業夢。葉桜はざくら隊を騙して利用し、呪いの鈴の音に、呪いの霜で力を削ぐ。何重にも重ねた弱体化デバフの策はたいしたものだが、相棒と真っ正直に戦ったら勝てないって、お前自身がわかってるんじゃないのか?」


 乂が仮面のままあおるも――。


「黙れ! ヤコブの手紙に曰く、〝人の怒りは神の義を全うするものではない〟! そうとも、これはわしの怒りだ。わしの力だ。〝憤怒ふんどの大剣〟をくらえい!」


 業夢はなお足を止めたまま、両手に五メートル近い黒い大剣を生み出して叩きつけた。


「我流・長巻!」


 桃太は右腕に巻きつけた衝撃と風の刃で迎撃するが、業夢が振るう影の大剣と激突した結果――。バラバラと渦を巻く落ち葉や、メキメキと折れた木を巻き込んで吹っ飛ばされた。


「見たかっ。わしこそが、最も古く、最も強い冒険者なのだ」

「いいや、今の貴方は勇者ではなく、テロリスト。それも詐欺師の類だ。こんなの、単に相手を離すだけの臆病おくびょうな技じゃないかっ!」


 されど桃太は後方に宙返りして衝撃を殺し、すぐさま業夢の大剣と打ち合うべく突っ込んだ。


「ユーアー・プアーガイ(あわれなやつめ)! 他人の言葉、聖書の言葉をじ曲げていいように解釈するが、今の大剣と同じだよ。肝心の中身がないぜっ」

「ニャンっ。七罪業夢、貴方は光の射し方次第でころころと姿を変える影法師よ。見かけばかりがどんなに派手でも恐れるに足りない」


 桃太と乂が生み出す風と衝撃波は、業夢の影の武器を払いつつ、異界迷宮カクリヨの第九階層〝木の子の谷〟を揺るがし、大地を切り裂いてゆく。


「き、貴様、無駄に戦場を荒らすな」


 桃太も、仮面となった乂も、三毛猫姿の凛音も、長い舌を振り回し、唾を飛ばしてくってかかる業夢に対し、悪戯っぽく微笑んだ。


「無駄なんかじゃないさ。業夢さん、アナタと戦っていて疑問があった。こんなにもたくさんの影を操って、どうして力が尽きないのか……」

「なあ吸血鬼爺さん、オレ達との交戦に終始しているのに、ずっと同じ場所にいるよなあ。〝鬼神具・死を呼ぶ鐘ストリゴイ・ベル〟の呪いを解いたサメ子を脅威きょういと認めた時さえもそうだった。なぜ〝この場所〟に張り付いて、積極的に動き回らなかったんだ?」


――――――――――

あとがき

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