第361話  七罪業夢の野心

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 仮面となった少年、五馬いつまがいは、額に十字傷を刻まれた少年、出雲いずも桃太とうたから身体コントロールを借りて、〝啜血鬼公せつけつきこうナハツェーラー〟を自称する七罪ななつみ業夢ぎょうむが影の鋏で切る前に彼の腰をつかみとり、後方へとぶん投げた。


「ジャーマンスープレックスじゃとお!? そうかお前達は二人で一人!?」

「にゃんっ。もう一人いるわよ」


 三毛猫に化けた少女、三縞みしま凛音りんねが、赤い猫目の義眼から炎のレーザーを生み出して追撃し、地面に転がった業夢の肉体を焼き焦がした。


「若造どもがああっ。〝憤怒ふんどの大剣〟で真っ二つにしてやる」

「冷静さを失ったか。そんな大ぶりが通じるものかっ。我流・鎧徹よろいとおし!」


 桃太は再び肉体のコントロールを取り戻し、業夢が振り下ろす影の大剣をかわし、右二の腕を掴んで内部に衝撃波を送り込んだ。


「ぐひゅ、ぐがあああっ」


 業夢は血しぶきをあげる右腕を鬼の力で再生しつつも、痛みでたたらを踏んだ。


「よし、これまでと違ってちゃんと通じてる」

「輸血パックを使った無限補給はんそくわざがなければこんなものか!」

「乂、桃太君、このまま倒しましょう」


 勢いに乗る三人に対し、業夢は長い舌を噛み切らんばかりに激昂した。


「なぜだ、出雲桃太。三縞凛音。五馬乂。なぜ貴様達は、わしの切り札が、血の補給だとわかった? そもそも、なぜヨシノの里長とすり替わったことを見抜けた?」

「貴方がっ、業を積み重ねたからだっ」

「そんなもの、仇だからに決まっている!」

「ワタシは、カムロさんがコピー能力者を警戒していたから、能力が不明な、最後の〝鬼勇者ヒーロー〟、八闇はちくら越斗えつとを疑ったの。でも、乂は途中から貴方と見抜いたわよ」


 桃太は目を伏せ、乂が仮面を怒りに歪め、凛音は毛を逆立てる。


「なにせヨシノの里長に成り代わってやったことが、相棒のスキャンダルをでっちあげての権力奪取だからな。七罪業夢、お前が得意としたやり方だ。一〇年前に殺された親父と五馬家のみんな、瑠衣るい姉さんの仇を討たせてもらう」

「ぐひゅひゅっ、鷹舟たかふね如きに騙される奴らが悪いのだ!」

「勝手なことを言わないで、嘘つきっ」


 業夢はうそぶくも、凛音はすぐさま否定した。


「勇者パーティ〝C・H・Oサイバー・ヒーロー・オーガニゼーション〟が潰れた後、ワタシは乂と一緒に過去を調べたわ。だから、鷹舟が二河と五馬の武装放棄を見て襲おうと決める前に、誰が話を持ちかけたのかを突き止めた」


 およそ一〇年前。

 今は亡き英雄、獅子央ししおうほむらの死後――。彼が作りあげた冒険者組合を、ひいては日本国を揺るがした数々の政変には、複数の原因が複雑に絡み合っている。

 故に、その原因や責任を一つに求めるべきではないだろう。だとしても、〝そうあれかし〟と悪意で誘導した策謀家は確かにいたのだ。


「七罪業夢。

 人面獣心じんめんじゅうしんの官僚、黒山くろやま犬斗けんとを引き立てたのも――、

 冒険者組合と日本国を傾けた弘農こうのう楊駿たけはやを焚き付けたのも――、

 武功に逸った鷹舟たかふね俊忠としただを利用したのも――、

 すべて貴方だった」


 桃太の肩に乗った凛音の弾劾に対し、業夢は勝ち誇るように笑った。


「ぐひゅひゅ。敗者の泣き言は心地よいものだなあ。そうだ、わしが糸を引いた。この世に生まれ落ちた以上、野望に生きて何が悪い。忌々しい獅子央ししおうほむらがいた頃から、わしはずっと天下を取りたかったっ!」

――――――――――

あとがき

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