第332話 幕引きの一撃

332


「そろそろ幕引きと致しましょう。カムロ様よりたまわりし、我が秘術をご覧あれ。八雷神やくさのいかずちがひとつ、〝若雷神わかいかずちのかみ〟。これが大蛇を断つ雷の御柱です!」


 額に十字傷を刻まれた少年、出雲いずも桃太とうたと、彼のかぶる仮面となった銀髪碧眼ぎんぱつへきがんの少女、建速たけはや紗雨さあめは、あと一歩というところまで迫ったものの、敵手たる細身の鴉天狗からすてんぐ葉桜はざくら千隼ちはやが左手を突き出すや、天まで届く雷光の柱が立って、ドーン! という爆音がとどろいた。


「カムロ様。やりましたっ!」


 巨大な木が何本も衝撃で裂けて倒れ、大気と大地が音を悲鳴をあげるかのように振動する。


「そうはいかんサメ。憑依解除リムーブマスクサメー……」


 されど、桃太と空飛ぶサメに変身した紗雨は、雷光が直撃する瞬間に分離することで間一髪、回避していた。


「なるほど、出雲桃太。紗雨姫を巻き込まないよう、合体を解いたのですね。ならば、その高潔な覚悟に報いて、全力で討ち果たしましょう。蛇切丸よ、戻れ!」


 千隼が呼びかけるや、桜色の雷を発する刃が空になった柄へと戻り始める。

 その勢いは凄まじく、戦場の一角が雷で埋め尽くされるほどだ。


「葉桜さん、貴方は強い」


 桃太は雷の爆発に追われながらも、折れた木々の枝や幹を蹴って、千隼との間合いを詰める。


「はい。私はクマ国の防諜部隊ぼうちょうぶたいヤタガラスの小隊長ですから。貴方達の取り調べには、私も同席します。安心して、捕まってください。〝若雷神わかいかずちのかみ〟!」


 千隼の手元で、長さこそ半分ながら蛇腹剣じゃばらけんとして再構成された〝鬼神具きしんぐ蛇切丸へびきりまる〟が、桜色の雷光を発しながら桃太に向かって振り下ろされた。


「気遣いはありがたいけど、勝つのは俺だ。届いたぞっ。〝生太刀いくたち草薙くさなぎ〟!」


 対する桃太は右手をかざし、自らに迫る柱のごとき雷刃を断ち割るように、横薙ぎに振った。


「は?」


 千隼は、惚けたように口をポカンとあけた。長く伸ばした前髪が揺れて、黒い目が信じがたい光景を映す。

 桃太の手刀は、蛇切丸の刀身を雷光もろともバラバラに砕き、後方に迫っていた……、雲のように広がった桜色の刃すらも、あたかもミキサーにかけたように散り散りに吹き飛ばしたからだ。


「私は、死ぬ、のか?」

「殺さないよ。カムロさんが教えてくれた草薙は、そういう技だよ」


 桃太の放った〝標的指定の必殺技〟は、千隼が握る蛇切丸へびきりまると、羽織った黒い法衣を半壊させたものの、〝彼女〟の肉体には傷一つつけることはなかった。


「……まさか、カムロ様の象徴的な技である〝生太刀・草薙〟までも習得されていたなんて」

「千隼さんは強かったよ。勝てたのは、紗雨ちゃんや冒険者パーティ〝W・Aワイルド・アドベンチャラーズ〟の皆がいてくれたからだ」


 桃太は、千隼の翼を敢えて攻撃しなかったのだが、草薙を受けた衝撃は大きかったようで、半裸となった鴉天狗の隊長はゆっくりと落下しはじめた。


「危ないっ。捕まって」


 桃太は倒した相手といえ、墜落死されてはいけないと、右腕で近くにあった木につかまり、左手で千隼の右手を掴んだ。

 しかしながら、千隼がもう一方の手で不自然に胸を隠しているのを見て、はてと首を傾げた。

 よくよく見れば破けた法衣から、女の子らしいまるみを帯びた白い太ももと、鞠のような胸の膨らみがまろびででいる。


「……葉桜さんって、まさか女の子?」


――――――――――

あとがき

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