第184話 悪意の操り人形

184


りんぴょうとうしゃかいじんれつざいぜん――九字封印! リウちゃん、手を掴んで!」


 額に十字傷を刻まれた上半身裸の少年、出雲いずも桃太とうたは、両手の人差し指を立てて印を結び、亡き親友、くれ陸喜りくきの妹を救出すべく手を伸ばした。


「トータ、さん?」


 蛇髪鬼へびかみおにゴルゴーンに囚われていた、山吹色やまぶきいろ髪の三つ編み少女、くれ陸羽りうもまた、内心でもう一人の兄の如く慕っていた少年に向かって手を伸ばす。

 しかし、手と手が触れ合う寸前。

 蒸気バイクが異音を発し、軋みをあげながらバラバラと壊れ始めた。


「相棒、まずいぞ。機体が壊れる」

「にゃにゃ!?(……計算より技の反動が大きい。ひょっとして出雲君の力って、〝鬼の力を使う機械〟と相性が悪い?)」


 黄金色の蛇になったがいが手も足も出ないとばかりに天を仰ぎ、三毛猫姿の凛音りんねも頭を抱えて体を丸めた。


「オウモさんもそんなことを言っていたなあ。ごめん、リウちゃん。ちょっと待って」

「は、ハイ」


 桃太は陸羽りうを事故に巻きこむまいと、手を引っ込め、ハンドルを切ってバイクの進行方向を変えた。


「桃太おにーさん、こっちへ来るサメエ。湖の水を集めて受け止めるサメエ」

「ありがと、紗雨ちゃん。って、まずい。乂と凛音さんは俺に捕まって」


 銀髪碧眼ぎんぱつへきがんの少女、建速たけはや紗雨さあめがバイクの進行方向に駆け寄って、清水砦の跡地に空いたクレーターに湖の水を注いでプールを作り――。

 桃太達が飛び込むと同時に、幾度にも亘る無茶に耐えきれなかったか、バイクは爆発四散した。

 その一方。


「戦闘機能選択、モード〝一目鬼キュクロプス〟!」

「あに、さま?」


 その間に、逆方向から接近していた黒騎士が、素裸になった呉陸羽を回収。

 肩部から電撃網を放って、妹を閉じ込めていた四鳴しめい啓介けいすけの悪意、蛇髪鬼へびかみおにゴルゴーンというおりを破壊した。


「……救出成功!」


 かくして、救出作戦は成功した。

 山吹色髪の少女は意識を失い、黒騎士がバイクシートの収納ボックスから取り出した毛布に包まれて、安らかな寝息を立てた。


「やったああ」

「救えたぞおお」


 桃太をはじめ、焔学園二年一組、勇者パーティ〝N・A・G・Aニュー・アカデミック・グローリー・エイジ〟だけでなく、、〝S・E・I セイクリッド・エターナル・インフィニティ〟までもが歓喜の声を上げる。

 しかし、その喜びに水をさすように、ガシャンという大きく鈍い音が響いた。


「まだ、だ。まだ終わらない。終わらせない」

四鳴しめい啓介けいすけ


 陸羽と同じように、湖の浅瀬に打ち上げられたオレンジ髪の青年が、ボロボロに焼けた蛇と壊れた鋼の残骸を、光輝く糸で引いていた。

 己が欲望のために多くの人々を操り、その命を食らった悪鬼、四鳴しめい啓介けいすけは、神鳴鬼ケラウノスが崩壊するほどの一撃をその身に浴びながら……、千切れた肉体を糸で繋ぐことで、しぶとく生きていたのだ。

 あるいは戦闘服に編み込まれた〝鬼神具きしんぐ鰐鮫わにざめ皮衣かわごろも〟が、かつて桃太の同期生を生首だけで生かしたように、啓介の肉体をもヒトナラザルモノへと変えていたのかも知れない。


「そう、私こそが真の勇者。世界皇帝、新たなる鬼神、四鳴啓介だ!」


 されど、もはや啓介に肉体を動かす力は残っていないようだ。

 オレンジ髪の青年は、〝鬼神具きしんぐ〟である〝百腕鬼ヘカトンケイルの縄〟で自らの肉体をマリオネットのように操ることで、蛇の死体や日緋色金ひひいろかねのかけらを喰らい始めた。


百腕鬼ヘカトンケイルの縄よ。ケラウノスとゴルゴーン、そして地上で最も尊い私の肉体を捧げる」


 啓介は、自らの憎しみという糸で雁字搦がんじがらめになり、幼虫が羽化するかのように、光を発しながら巨大化し、更なる悪鬼へと進化を果たす。


舞台蹂躙ぶたいじゅうりん役名変生やくめいへんじょう――〝大蛇おろち〟! キシシシ、今度こそ私は至高の存在となった!」

 

――――――

あとがき

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