第170話 英雄の帰還

170


 西暦二〇X二年六月三〇日午後。


「皆、助けに来たぞ!」

 

 額に十字傷を刻まれた少年、出雲いずも桃太とうたは、薄ピンク色の鎧下よろいしたと、洋服のジャケットに似せた青い鱗鎧スケイルアーマーを身につけ、鎖を編み込んだ同色のズボンを穿いて、黒騎士くろきしが操縦する蒸気二輪車バイクの荷台に立っていた。

 そうして〝緋色の手袋〟をつけた両手から五メートルを超える長い衝撃の刃を振るうや、〝鋼騎士ギガース〟と〝式鬼しきおに〟の軍勢を薙ぎ払うことに成功する。


「衝撃に反射というアクセントを加えることで射程が伸びて、威力もあがっている。実戦でも充分に使えるぞ!」

「AAA!?」


 全長一〇メートルに達する巨大な鋼鉄の怪物、神鳴鬼かみなりのおにケラウノスから伸びる操り糸が断たれ、テロリスト団体〝S・E・I セイクリッド・エターナル・インフィニティ〟がようする軍勢の一部、灰色鎧の冒険者と赤い八足虎の小隊が沈黙する。


「ふざけるな、ふざけるなああっ」


 一方、奸計かんけいほうむったはずの桃太が生きていたという事実は、〝S・E・I セイクリッド・エターナル・インフィニティ〟の代表、真犯人である四鳴しめい啓介けいすけにとって受け容れがたいものだった。

 元勇者でありながら、いまやテロリストの首魁に堕ちた青年は、心臓部にあたるコックピットでケラウノスを操りながら、ツーブロックにまとめたオレンジ色の髪を両手でかきむしり、殺意のこもった雄叫びをあげる。


「一度死んだ男がさまよい出てくるんじゃない。出雲いずも桃太とうたああああっ」

四鳴しめい啓介けいすけ、バカボンボンは知らないだろうが、雑草ってヤツはしぶといんだよ。俺は、アンタをぶっ飛ばすまで、なんどだって生き返ってやる」


 桃太がそう啓介を一喝いっかつしたことで、幻覚や幽霊の類いでは無いと確信したらしい。

 新月の夜がごとくに真っ暗だった焔学園二年一組と、勇者パーティ〝N・A・G・Aニュー・アカデミック・グローリー・エイジ〟の団員達の顔に希望の火が灯る。


「桃太おにーさん、必ず戻ってくるって信じていたサメエ」


 銀髪碧眼ぎんぱつへきがんの少女、建速たけはや紗雨さあめは、傷ついた体を仲間達に支えられながら、嬉し涙を流し――。


「ええ、それでこそ桃太君。わたしの大切な、自慢の男の子です!」


 栗色の髪を赤いリボンで結んだ担任教師、矢上やがみ遥花はるかは紗雨の背を治療しながら、柔らかに微笑み――。


「アハッ、アハハ。知らないぞ、妾は。この感情、この胸の高鳴り、実に楽しい!」


 昆布のように艶のない黒髪の少女、伊吹いぶき賈南かなんが頬を林檎りんごのように赤く染め――。


「出雲の野郎、心配させやがって」

「やっぱり生きていたんだっ」

「遅いぞ。だが及第点だ」


 リーゼントが雄々しい、林魚はやしうお旋斧せんぶをはじめ、関中せきなか利雄としお羅生らしょう正之まさゆきら、焔学園二年一組のクラスメイトが腕を大きくあげて生還を喜び――。


「あれが、新たな英雄か!」

勇者ヒーローがやってきたぞ!」


 勇者パーティ〝N・A・G・Aニュー・アカデミック・グローリー・エイジ〟の団員達も、歓声をあげる。


「黙れ! 英雄も勇者も、私の為の称号だあ。」


 啓介は狂乱のあまり、神鳴鬼ケラウノスの巨体で清水砦の城郭跡じょうかくあとを踏み潰し、部下や式鬼すら蹴飛ばしながら、吠え猛った。


「戦闘機能選択、モード〝狩猟鬼バルバトス〟。状況開始!」


 黒騎士はバイクを止めて、巨大な鬼に向かって銃弾を三発放ち、狙い違わずコックピットのある胸部に直撃させた。


「あ、あいつ、銃を使ったぞ!?」

「ひょっとして奴も、勇者パーティ〝C・H・Oサイバー・ヒーロー・オーガニゼーション〟の生き残りか!?」

「ケラウノスを倒せる!?」


 焔学園二年一組の生徒と、冒険者達は期待に目を輝かせたが……。


「キシシシ。無駄無駄あ。三縞家に伝わる〝勇者の秘奥〟、サイボーグ? それがどうしたああ? ケラウノスの装甲は、衝撃に干渉する日緋色金を電磁装甲でんじそうこう化させたもの。そんな豆鉄砲なぞ、通じるものか!」


 さしもの銃弾も、電気と重装甲に守られたケラウノスには歯が立たなかったようだ。


「エセ勇者と、〝C・H・Oサイバー・ヒーロー・オーガニゼーション〟の死に損ないめ、なぶり殺しにしてやるぞ」

「黒騎士。大丈夫だ、俺たちは負けない!」

「!!」

――――――

あとがき

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