第128話 神鳴鬼ケラウノス

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「私、四鳴しめい啓介けいすけは日本国を、いや地球を統べる世界皇帝となる!」


 オレンジ色髪の青年が、白スーツの胸に挿した赤い薔薇ばらに手を当てて自己陶酔じことうすいする光景は、焔学園二年一組の研修生達にとっても衝撃だったらしい。


「あのひと、おかしいんじゃない?」

「失礼なことを言うな。四鳴啓介と言えば〝鬼勇者ヒーロー〟の称号を持つ冒険者で、勇者パーティ〝S・E・I セイクリッド・エターナル・インフィニティ〟のトップだぞ」

「夏から冒険者組合の代表になるって、言ってたよね? 世界皇帝なんて言っちゃう人が代表で大丈夫なの?」


 催眠ガスによる睡眠から目覚めたばかりの研修生達は、起き抜けにイカれた言動を目の当たりにして、不安の声がガヤガヤとあがった。


「啓介さんは冗談が上手いなあ。ケラウノスって、週刊誌の記事で読んだような気がする。確か異界迷宮カクリヨの第七階層に建てられた新型工業プラントだっけ?」


 桃太がくれ陸羽リウとの出会いや、パワードスーツ関連の記事を思い出していると、啓介は急に早口で語り始めた。


「キシシシ、情報が古いぞ。確かに最初は、日本政府が試作した新型蒸気発電による工業プラント――正しくは〝神鳴鬼かみなりのおに〟と名付けられた、〝人工的に作られた発電目的の鬼〟――だった」

「神鳴鬼? ……発電所が鬼だって?」


 桃太をはじめ研修生達が首をかしげる様子がよほどに愉快だったのか、啓介は夜明けの空を仰ぎながら、ペラペラと自慢話を続けた。


「しかし、我々四鳴家が接収した後は、北の軍事国家が残した技術を利用し、軍事拠点として更なる改造を施したのだ。今や軍事プラントとなった〝神の雷塔ケラウノス〟が生み出すパワードスーツは、一機で一般冒険者一〇人に匹敵する働きが可能だ。いずれは異界迷宮カクリヨ内でも戦闘可能な戦車や戦闘機すらも製造してみせよう」

「日本国の施設を、勝手に接収するのはどうかと思うよ」


 桃太は冷静にツッコミを入れたものの、内心では、人が生み出す発電の鬼という、啓介の語るケラウノスに憧れをいだいた。

 地球人類の叡智えいちは異界すらも解析し、その力を我が物にしようとしている。

 ただし、技術は技術。使用者の良心まで保証するわけではない。

 ましてや悪党であれば、一線を越えることを躊躇ためらわない。


「出雲桃太、ロバに過ぎない貴様には、わかるまい? 我が遠大な計画の真打しんうちはここからだ。一国をまかなう電力をもつ神鳴鬼ケラウノスそのものを〝式鬼〟として使役すれば、自衛隊や米軍すら打ち破ることが叶うだろう!」

「「うそだろっ!?」」


 桃太をはじめとする、二年一組生徒達の顔色が変わったのは、まさしくこの瞬間だろう。


「そして日本国中の発電所を破壊すれば、愚かな国民も頭を垂れるだろう!」

「啓介さん、何を言っているんだ? そんな真似をすれば、先の戦い以上の犠牲がでるぞ!」

「エリートならざる寒門かんもんが何人死のうと知ったことか。民主主義などという愚民におもねる政治など不要! 偉大なる四鳴家の長たる私と〝S・E・I セイクリッド・エターナル・インフィニティ〟という、選ばれし究極のサラブレッドが日本国を導こう!」


 啓介は酔っ払ったかのように、白ずみゆく空に胸の薔薇ばらをかかげ、赤い花弁を引き裂いて散らした。


「ちまちまとダンスを広めて八岐大蛇やまたのおろちに対抗するなど馬鹿馬鹿しいのだ。我々、選ばれしサラブレッドが、〝神鳴鬼かみなりのおにケラウノス〟という、最強の〝式鬼〟であらゆる障害を討伐しよう。日本国を皮切りに地球のすべてを革命し、クマ国なる異世界も植民地化する。我が名は一千年先まで轟くだろう!」


――――――――

あとがき

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