第92話 夕食は何にする?
92
額に十字傷を刻まれた少年、
「凛音ちゃん。よく頑張ったサメエ」
ちゃぶ台近くの座布団に正座して見守っていた二人のうち、
「あー、もう泣くんじゃねーよ」
「ありがとう」
金髪ストレートの美青年、
「ガイの馬鹿。もうちょっと優しく拭くサメッ」
「うるせー。こういうのは慣れてないんだよ。相棒、わかったか?
「わ、わかった。気をつける」
桃太は乂の忠告こそありがたく受け止めたものの、彼の紗雨との距離感の近さに胸がズキリと痛み、気分を変えようと立ち上がった。
「ちょっと外の風に当たってくる。ついでにコンビニで夕食のパンやおにぎりを買ってくるよ。
そう買い出しを申し出ると、まず
「桃太おにーさん、紗雨は甘くてしゅわしゅわした飲み物と、黒いあんこみたいなのが入ったうずまきが欲しいサメエ」
「はーい。炭酸飲料とチョコレートコロネだね。乂はどうする?」
「相棒、オレは適当なおにぎり。それに日本酒! おつまみはイカを干したやつを頼むよ」
乂の悪びれない注文に、桃太のこめかみがぴくりと震える。
「乂、ここは日本だ。クマ国じゃないので炭酸飲料にするぞ。のしいかは買ってくるから我慢してくれ。まったく変なところで不良ぶるんだから」
「
「おっけい、紗雨ちゃんもそうしようか。凛音さんはどうする?」
「……」
桃太の申し出に、凛音は瞳と耳をいそいそと包帯で隠しながら、恥ずかしそうに押し黙ってしまった。
「なんでも買ってくるよ。友達と分け合うのもきっと楽しいよ」
「じゃ、じゃあ、お紅茶と、……家では禁じられていたのだけど、ふらいどぽてとを食べたいわ」
桃太は凛音の申し出に、亡き親友、
「わかった、行ってくる。しばらく歩いてくるからのんびりしていてよ」
「桃太おにーさん、額の傷は見せちゃ駄目サメよ?」
「うん。バンダナで隠すし、紗雨ちゃんに教わった変装術があるから、大丈夫だよ」
桃太はそう言って、普段使いのリュックとショッピングバッグを手に取って飛び出し、紗雨と乂、凛音の三人も手を振って見送った。
――――――――
あとがき
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