カクリヨの鬼退治〜追放された少年が、サメの着ぐるみ少女と共に、勇者パーティに逆襲する冒険譚〜
上野文
カクリヨの鬼退治 0〜77
プロローグ 出雲桃太の鬼退治
―― プロローグ ――
西暦二〇XX年。
地球人類は、滅びの危機に瀕していた。
美しい緑なす大地も、青い海も、太陽と月、星の輝く空も――。
世界異変の中心となったのは、荒れ狂う日本海の海上を飛行する広さ三〇〇平方キロメートルに及ぶ巨大な浮遊島だ。
「GAAAA!」
海上五〇メートルに浮かぶ島に絡みつく、二〇〇メートルを超える長大な八頭の首を持つ
「鬼の王たる
中央の頭に立つ、左目尻に傷の目立つ美しくも恐ろしい風貌の魔女が、黒いドレスから伸びる細い手を掲げ、厳かに人類へ宣戦を布告した――。
「うわあああっ」
「たすけて、たすけてえ」
北米、南米、アフリカ大陸、オーストラリア、ユーラシア大陸……。
地球上のありとあらゆる場所で、神話伝承の鬼や悪魔に似た怪物が暴れ回り、人々を食らいはじめた。
「悪魔め、裁きの鉄槌を受けるが良い!」
「モンスターめ、吹っ飛べ!」
ある国は地上から、ミサイルを撃ち放ち――。
ある国は艦隊を派遣して、砲弾の雨を降らせた――。
しかし、全ての現代兵器は〝赤い霧〟と〝黒い雪〟に包まれるや、分解されて赤黒い水のように溶け消えた。
「無駄な足掻きよ。すでに地球のコトワリは、
「エイメーン!!」
されど沈没する寸前の空母から、戦闘機部隊が飛び立つ。
最後の望みを託されたパイロット達は、半ば特攻じみた軌道で浮遊島に接近。
されど、彼らの放った機関銃やミサイルもまた、鬼ヶ島を覆う〝赤い霧〟と〝黒い雪〟に阻まれ、役目を果たすことなく消え果てる。
「地球人類よ、嘆きと苦しみの中で死んで行け。もはや希望など無いと知れ」
「ハハハ、HAHAHA!!」
「ガガッ、GAAAAAA!!」
魔女が笑い、
「ちょぉっと待ったあ」
しかし、絶望を振り払うように声をあげる者がいた。
額に十字傷を刻まれた小柄な青年が、マフラーのように首に巻き付く黄金の蛇を連れ、白銀の空飛ぶサメに乗って空中要塞〝鬼ヶ島〟へと矢のように向かっていた。
「来たか、我らが
「ああ、来たとも、獅子央賈南。やるぞ
「おうよ、相棒。
桃太の瞳が青く輝き、
ヘビの仮面をつけた桃太は、
「まずは首を落とす」
「まかせな。ひっさつ、
八岐大蛇が吐き出す炎もなんのその。
桃太はヘビの仮面となった乂と力を合わせ、両手から生じた青く輝く暴風で、燃えさかる火柱ごと大蛇の首を消し飛ばした。
首の一本が折れた様子は、観測衛星や無人飛行ドローンで中継されて、地上で歓声があがる。
「まだ首は七つあるぞ。そして、この島に居るのは妾だけではない」
黒衣の魔女が手招きするや、浮遊島からは化鳥やコウモリに似た怪物が青年に向かって殺到した。
「
「AAAAAA!?」
モンスターにもみくちゃにされた青年は、黄金の蛇と共に光の粒子となって魔物の包囲を逃れ、空飛ぶ白銀のサメと合流した。
「
「むふふーっ。舞台登場、
桃太の瞳が再び青く輝き、
空飛ぶサメ、
「行こう。海はこっちの得意分野だ」
「サーメードーリール! からのドォリル、タイフゥゥウン!」
桃太と紗雨は海中を飛び出すや悪魔や鬼の群れをドリルでズタズタに引き裂き、八岐大蛇の首をひとつ落として、鬼ヶ島の中央にある岩山へと着地した。
「
十字傷の青年は白銀のサメと一度離れると、腹一杯に息を吸い込み、両手で印を刻みながら叫んだ。
「唄え、
額に十字傷を刻まれた青年の背後に琴が出現し、アップテンポの音楽を奏でる中。
両手から放たれた不可視の刃と矢が大蛇の首五本を粉砕した。
「さあ、ダンスの時間だ!」
桃太はライトピンクのニットシャツと黒いマウンテンパーカーを羽織った上半身をすっくと伸ばし、同色のストレートパンツを穿いた足を蹴りあげるようにして跳躍。岩山の上で踊り始めた。
「オレのブレイクダンスを魅せてやるよ」
黄金の蛇、
背中に『漢道』と刺繍した革ジャンを素肌の上に羽織り、
「鬼を退治するなら、やっぱり
白銀のサメ、紗雨が姿を変えた――。
丸く大きな
三人が踊るや、魔物の屍体や砕けた大蛇の七本首が、黄金と白銀の光に包まれて消えて行く。
残るは一本の首と、その頭上に立つ魔女だけだ。
「役者は揃ったということか。
嵐神の剣を振るう者
海神の勾玉を抱く者
太陽の鏡を継ぎし者
妾たちに抗えるか見せてみよ。我らはもはや地球を掌握したも同然だ」
「「GAAAA!」」
「いいぜ、勝負は九回裏スリーアウトからだ」
「乂、せめてツーアウトにしろ!」
「最後の戦いくらいちゃんと決めて欲しいサメエ」
これより始まるは――
黄金の蛇に呪われた少年と、白銀のサメに化けた少女。
最弱から最強まで駆け抜けた少年の、〝鬼退治の物語〟である。
@YAKIJiKA様より紗雨ちゃんのファンアートをいただきました。
可愛いサメ子ちゃんを、是非ご覧くださいませ。
https://kakuyomu.jp/users/uenoaya/news/16817330657564745266
――――――――
あとがき
お読みいただきありがとうございました。
桃太君、本編では〝最弱〟からのスタートですが、最終的にはここまで強くなる予定です。
鬼に呪われた世界で足掻く少年の冒険譚を、是非お楽しみください。
もし本作を気に入っていただけたなら、フォローよろしくお願いいたします。
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