若紫
第1話 北山の垣間見1
「北山へ行ってくるよ。」
「あら、何かご用でも?」
「
「いいですわね。治してもらっていらして。」
「ああ。」
北山か。ついに来た。
「北山はどんなところなんでしょうね。元気になられたら、どんなところだったかお聞かせくださいませね。」
「ああ、わかっているよ。姫宮の楽しくなるようなお話を用意しておこう。」
と言って帰って行ったのは、先日の話だ。
「おにいさま、何かいいことございまして?」
「わかるかい?」
「北の方さまとの関係が改善なさいましたの?」
「あの方は私と打ち解ける気などないのだよ。いつも人形のようだ。」
「そうですか。」
「それでは何が?」
「ふふふ」
兄は笑いながら
「それで?」
「先日、北山へ行くと言ったのを覚えているかい?」
「もちろん、覚えていますわ。」
だって、その話を待っていたんだもの。
「ふふふ。順番に話そうか。」
「ええ。そうしてくださいませ。」
「夜明け前に都を出て、僧都訪ねて北山へ行くとね、ここらの花と違って、まだ桜が盛りのころなんだ。」
「まあ。行きたいわ。」
「ふふ。もっと奥に進んでいくとね、霞も立っていて、見たことないような景色だったよ。」
山になんて行かないもんね。私も都から出たことないし・・・
「お寺も趣深く、いいところだった。」
「行くだけでも気分がよくなりそうですわね。」
「うん。そんな気もしたよ。」
ふふふと二人で笑う。今日は明るい話のようだ。楽しい。
「それで、すぐ、僧都にお会いできてね、祈祷してもらえたんだ。」
「すぐにしてもらえて、ようございましたわ。」
「ああ。それでね、そのあと外に出て、下に見える景色を眺めていたんだ。」
「なにが見えましたの?」
「行くもの僧房が見えたよ。でも、その中に一つだけ、
「あら?どなたがお住まいなのかしら?」
興奮する気持ちを表に出さないように必死だ。
「みんな、女人だと騒いでいてね。垣間見に行くものまでいたよ。」
「おにいさまはお行きにならなかったんですの?」
「その時はね。」
ふふふと兄が笑う。
「その時は?」
私も
「それで
「そうですの。」
また、二人で目を合わせて笑った。
「そのあとは、仏前でお祈りなどしていたんだが、僧都が気を紛らわしていた方がいいというので、供人たちと話したよ。こういう山が珍しいという話をしていたら、山や海の話をしてくれたよ。富士の山や
明石の君の話もあったよね!飛ばさないで!どうでもよかったのか?
「わたくしも行ってみたいですわ。」
簡単に行ける身分ではないので、希望だけだ。おにいさま、おにいさまは行けますよ。明るい気分ではないかもしれないが。
「そのあと、供人たちに帰ることを勧められたのだが、僧都の勧めで一晩泊まることになったんだ。」
「あら、素敵。」
「旅なんて初めてだから興味深く感じたよ。」
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