第6話 夕顔の君とのお話4

 女房が気を利かせて新しくお茶を入れてくれた。それを飲んで一息つく。

「朝になり惟光が来た。」

「安心されたでしょう。」

「ああ。惟光の顔を見た途端、涙が止まらなくてね。こんなにも不安で心細かったんだと思ったよ。」

「そうですわね。」

 そうだよね。不安だよね。頼れる人がいない中一人で頑張っていたんだもんね。

阿闍梨あざりも山へ帰ってしまっていて・・・わたしは、惟光の手配で二条院へ帰った。」

「あの女人は・・・」

「彼女は、惟光が世話をすると、惟光の縁のある寺に預けてくれた。回復することを願って。」

「そうですの。」

「その日は、父君や左大臣からの使いの者が来た。夜に、惟光が来て、彼女の様子を伝えてくれた。助からなかったそうだ。」

「まあ・・・。」

「私は、彼女が死んでしまってどうしようもなく悲しいのに、世間の人々に知られれでもしたらと思ってしまったのだ。」

「それは、仕方ありませんわ・・・。」

 だって、人間だもの。そういう生き物だよ。

「最後にどうしても彼女に会いたくて東山の方へ向かったんだ。最後に会った彼女は、生前と変わらずかわいらしい感じだった。」

 何も言えない。どうしたらいいのだろう。何をしてあげられるのかな。

「・・・おつろうございましたわね。」

「ああ。そのあと、何とか二条院へ帰った。惟光がいなかったらたどり着けなかったかもしれない。」

「寝込んだ後は、彼女の四十九日を惟光の兄の阿闍梨に執り行ってもらった。」

「阿闍梨ならば安心ですわね。」

 乳兄弟の兄弟姉妹は身内だ。みんなで支えてくれるのだ。

「かの方の素性はおわかりになったのですの?」

「故三位中将さんみのちゅうじょうの姫君だったよ。ご両親と早く死別なされ、以前は頭中将と三年ほど関係があったそうだ。そして二人の間には女の子もいるそうだ。」

「頭中将のお探しの方ですか?」

「ああ。そうなんだ。でも、姫君は私が引き取って育てようと思っている。」

「そうなんですの。その時は叔母として紹介してくださいませね。」

「ああ、その時は任せなさい。」

 兄が弱弱しく笑った。


 今回のことは、私にも堪えた。源氏物語の筋を変えるつもりはない。私は脇役だ。その気持ちは変わらないし、光源氏はこれからもたくさんの女性と浮名を流すだろう。それでも、夕顔の冥福を祈ろうと思う。私は惟光に手紙を書き、密かに阿闍梨に祈祷を依頼した。

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