第3話 夕顔の君とのお話1
夫が急いで帰ってきた。
「姫宮、気を確かに持って聞くんだよ。兄君がご重体だ。」
「・・・」
なんて言っていいかわからない。未来を知ってても心配する心とは別なのだ。
「おにいさまが・・・」
「今日、
「・・・二条院に。」
「姫宮。駄目だ。
「そんな・・・。」
「殿、姫宮さま、
「通せ。」
「帝よりのご指示で参りました。仲の良い兄妹のため、兄君のもとに駆け付けたいのはわかるが、回復するまで絶対にしてはならない。とのことです。」
「御意に。」
夫が代わりに答えた。
すぐにも兄に会いたいと思い文を書いたが、やつれた顔を見せるわけにはいかないといわれ断られた。そうね。いろいろすることあるものね。
では
それが今日である。
「おにいさま、お久しぶりにございます。」
「久しぶり。なかなか来れなくて悪かったね。」
やはり、今日は元気がない。
「いいえ。わたくしこそお見舞いに参りたかったのですが・・・」
「父君に止められたと聞いている。」
「王命婦まで遣わすのですもの。ひどいわ。」
「物の怪に憑かれているかもしれないところに愛娘を行かせるわけにはいかないだろう。わかっておやり。」
「はい。」
ふふふと二人そろって笑う。
「さて、おにいさま。何がおありになったんですの?あんなに長いことお患いになるなんておかしゅう思いますわ。」
「そうだね。・・・わたしも話を聞いてほしかったんだ。」
「お聞きいたしますわ。」
どうぞといつものように
「先日、大弐乳母の見舞に行ったときのことを覚えているかい?」
「はい。」
「その時の、和歌を送ってきた女人との話になる。」
「
「ああ。あれから、
兄の雰囲気がいつもと違い暗いので、うんうんとうなづくだけにとめておく。
「私は、恋に対しては、取り乱さないようにしてきた。しかし、彼女に対してだけは、なぜか心を奪われてしまったようで、気になって仕方なかった。彼女は若々しく柔和な人で何か特別に優れているとかいうわけでもなかったんだ。」
うんうん。恋しちゃったんだね。
「そうなんですね。」
「彼女に気後れしてほしくないから、粗末な
「気づかいしすぎて古代の神々のようですわ。」
「ふふふ、そうだね。彼女は仮住まいのようだったから、会えない夜があると、姿を消してしまわないか不安で、二条院に引き取ってしまおうかとも思ったんだ。」
「まあ・・・。本気だったんですのね。」
「ああ。本当に素直でかわいい人だったんだ。」
そうだよね。貴公子二人に愛される人だもの。
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