じゅうろく話〜何かを選べてる様な時には気付かない、実は選ぶ事すら出来ない事(海なのにほぼタロァの独り言)

※やくそくとちがう、甘んじて受け入れます…


海に来ている、サラと2人で。

 人生で…と言ってもそんなに生きてないけども、始めて女の子と二人で海に来た。

 何をして良いか、心の置きどころが分からんのです。


「せ、先輩!シートとパラソル出しましょう!せっかくバイクに積んでるから!」


「そ、そだね。着替えは海の家ですりゃ良いのですかな?」


「あっち!あっちに着替えって書いてありますよ!シャワーもあるですって!」


 デートど素人丸出しの男と女、かわいい女の子をエスコート出来ない、つまりサラに引っ張られる俺。

 こういうものに経験値やレベルはあるのだろうか?また、経験値というのは稼げるのだろうか?

 この経験値を稼げば俗に言う陽キャになるのだろうか?

 陽キャであれば対人関係も上手く立ち回れるのだろうか?これから先も…


「また考え事…何をムーっと考えているんですか?とりあえず、わ、私は水着に着替えて来ますからね!?先輩も着替えといてくださいね!」


「そ、そうだな!ごめんごめん!」


 そうだな、とりあえず着替えよう、それからだ!

 勿論、俺は脱ぐだけで海パン、時間なんぞかかるわけもない。

 水着…サラの水着か…胸的にまぁ…ビキニは無理だろうな…違う。ビキニの話じゃない。

 俺、何やってんだろうなぁ…陽キャってスゲェなぁ…



 1人で海を見ているとだんだん冷静に…そして思い出す。

 昨日の夜…多分だけど、シアが来たんだよなぁ。

 おかしな人達を連れて…結局何がしたがったんだろうな…アレは。

 

 ただ、覚えているのは…不思議と頭に出てきた皆が不幸になる悪夢、人生。

 ただ、もし見えたものが真実であれば、俺がのほほんと暮らしている間に…まず既にシアが芸能の世界で大変な思いをしていたという事、しかもそれが過去形である事。


 ただ…昨日シアに会って思った。悪夢を見て、他所から知ったから客観的に視れた。

 自分の感情や、移ろいゆく心持ち。

 結局、俺はシアに何もしてやれず、何かしようにもそれは既に通り過ぎてしまった話だと言う事。

 俺は確かに、シアにまた会いたかった。

 でもそれは恋人としてだろうか?

 多分違う、俺は親しい人間としての寄り添いたい。話を聞いてやりたい、出来る事をしてやりたい。

 悪夢の俺は、シアに本当に恋人なりたいと思うように愛していたのだろうか?

 今の俺からすれば違うと思う。

 …多分4人とも違う感覚で大事に思っている。でも…そこに恋愛は無いんじゃないかなと思った。悪夢の中のシアが独り言を言っていた。

 

『私の好きとタロァの好きは違うかもしれない』


 きっと…そうなんだろうなぁ。

 まだハッキリとは分からないけど、小学生の時の孤独、中学生の時に父が死に、辛い時に依存し信頼し、大好きな、半身のような、家族より近い幼馴染…幸せにはなってほしいけど…もっと知りたいとは思わない、不思議な関係。

 その大事なシアが傷ついているのに気付かず過ごす…でも、それだけじゃ壊れないよな。


 キッカケはサラの事だろうか?しかしまぁ、耳とか指とか切って送り付けるって、どうかしてるな。

 あんな事本当に起こるのだろうか?


 もし本当に悪夢の様な事が起きるなら…動物園でのシアとの事を思い出したのか?

 同様に自分には何もできなかった、自分の都合の良いように考えて、諦めて、全部を捨てて…その過程で悪夢の中の俺は壊れたんだろうか?

 自分がおかしくなった先の話なんて分からないしなぁ…


 自分が壊れる未来の過程や対策を考えるなんでバカみたいだけど…今なら手を伸ばせる気がする。

 

 だからまず近いうち、何とかしてシアに会いに行こう。


 一年間、シアの周りの棘に刺されて慣れた、バイク…かけがえのない趣味を手に入れた、親しい先輩や友達が出来た、サラやメグミもいる。

 だから俺は、今なら俺からシアに会いに行ける。

 シアならなにか知ってる筈だし…


 そして、もし…前は出来なかった自分の身の丈以上の事をするのであれば…

 何かすべきはサラとメグミの事だと思う。

 シアは近すぎて、遠かった。サラとは…まだまっさらなままだ。

 

 最悪の未来…

 ただサラが堕ちていく事を肯定し、メグミを巻き添えに自傷して、シアに自分の過ちの決着をつけさせ、蘭子や鬼頭先輩に傷を残す。


 大事な事は間違えてはいけない。人任せじゃない、自分で決める、後悔の無い様に。



「…んぱい!先輩!おーいっ!聞いてまスか!?お~い!またムッツリ考え事ッスか!?女の子が目の前いるのにマジっスか!?脳がヤバいっ!?」


 腕を組んで海を見ながら考え事をしていると、突然俺の目の前にプンプンしたサラがいた。しまた。


「あ…ビキニ…じゃなくて胸が増え?…じゃなくてよく似合ってるよ!サラ!凄いぞ!可愛い!」


 サラはてっきり競泳水着みたいなのかと思ったら…ビキニだった。褒め言葉が出ないデート童貞の俺。

 色白の肌に白色の水着、ハイネックで胸の所が開いているが、推定Aカップと思われた胸は何故かCマイナスぐらいまで増えていた、胸下で区切れているがそれが余計、パイを強調している。

 ミニスカートがついている、その上から薄手のシャツを羽織りお団子をおろしているサラは、誰でもないサラ、普通の女の子だった。


「先輩!?ジロジロ色々見すぎ!胸見すぎ!増えてないですよっ!普段はほら!スポブラだから!水着はパットありますから!首の所で落ちないようにしてんすよ!って何言わせてんですか!?」


「いや、胸の話なんてしてないし、見てないぞ!?ホントに!ホントにな!?」


 ジト目で唇を尖らし俺を見上げるサラ…

 スマンすまんと言いながら何とか機嫌を直してもらう。


 それから二人でシートに座って…いつものようにサラのとめどない話を聞いていた。

 無論、インドア派の俺達にビーチボールなぞない。


「それであのキャラの心情はですね、カーンと来て…ペラペラペラペラ…」


やってる事があんまり店と変わらんなぁ…何せバイクで穴場に来たから人がいない。

 サラに至ってはスケッチブックを持ってきて、喋りながらイラストを書き始めた。


「おぉ!?筆が進む!?凄い!先輩、凄いですよ!?色々出てくるぅ!?」


「じゃあ俺は肉でも焼こうかな?」


「やったぁ!貰った牛タン焼いてください!」

 

 違いは申し訳程度のミニバーベキューセットのご飯やらアイス、砂浜と海、まぁこれはこれで、楽しいな。

  

「イメージが溢れ出ますよ!フォぉぉぉ!」


 自分の世界に入ったサラを見る…図浦家特有なのかな?この天才肌というか…何というか…

 しかしまぁそうだ…イメージって大事だな…イメージしたよ、最悪の先の俺は、きっと好きになっていたんだ。

 サラの事…この1人の天才、そして俺なんかに興味を持ってくれた少女を、俺はいつ好きになったんだろうな。

 もし好きになっていたとしたら、だとしたら気分最悪だろうな。


「二人の思い出!二人の姿!今日をおとすおとすおとす!先輩、良い感じでっす!」


 シャカシャカシャカシャカ


「今の俺達か…上手いなぁ…しかも片手でって…え?」


 気付けばお互いの片手が繋がっていた。

 そして潮で化粧が落ちたのか…うっすら塗られていた唇紅と……アイシャドウが落ちてきた…確信は無いんだよ、でもな…昔の寝不足とは違うんだよなぁ…目の周りの隈がさ…出てきたよ?サラ…寝不足の時は違う…確かにヒデぇ話だ。

 ただ、確認だけ…したいんだ。


「なぁサラ?最近、変わったことないか?困った事とかないか?」

 

 確証はない、それでも聞く。

 ただおっさんとしてみたかったなんて、言わないでくれよ?

 未来の俺を思うと、今の俺も感傷的になってくるよ。


「困った事は無いですよ?先輩のおかげで色んな願いが叶います…先輩の為と思うと全てがプラスに働きます!今だってほら、多分、自分の中では3本の指に入る傑作です!自分の中の最高作は、更にそれをブラッシュアップしたくなるんですよ!」


 シャカシャカシャカシャカシャカ…


「こんなに描けるのは…きっと先輩と繋がっているから…」


 キュッと握られる手。

 そうかぁ…サラの描く絵を見る…俺とサラ、それとバイクと海、魚。

 それは…きっとサラの願い、夢、希望、愛情、心


 キスをしている2人…手を繋いで…2人以外の全てが祝福しているその形は、まるでハートのようで…それはまるで絵を使った愛の告白のようで…


「あぁ…そうか。これは…確かにな…」


 これは…惚れるなぁ。

 天才の才能を使った愛の告白、ラブレター。

 本物の芸術は心が震えると言うけれど…その才能の全てを向けられた気がした。


 心がざわめく…俺はきっと…今この時にサラを好きにな



『先輩は…アンっ♥知らなくて良いんです…だって知ろうとしないから…知らなくても繋がってるから♥…好きなんです♥』



 る筈だったんだ…知らなければな。


 ハハ、なぁヨータ…お前言ってたな?夏休み前にNTR許すマンとか言ってたけど、何を持って誰を許すのか知らんけど、許すってなんだろな。


 間違いも正解も、光も闇も無い世界で…ただ知らない事を知ろうとしただけの女の子…

 同情が憐れみか、それともただ悲しいのか

 ふいに涙が出た…感情が混ざり合う


「えぇ?先輩、感無量?そんなにこの絵良いですか?」


「そうだね…何かぐっと来た…」


 もし本当に好きになってたら…サラという1人の彼女を大切にしていたら…こんな純粋な普通の女の子を誑かした事務所の社長とやらを俺は殺したい程憎いと思うし、他の誰でもそうじゃないかなぁ?


 んん?ふいに口が塞がれた…気付けば唇が離れていた。

 

「が、我慢出来なくてつい…でも…いつか…ちゃんとしましょうね♥それまでに覚悟を決めますから!私は…先輩を望む私である限り全てを手に入れられそうなんです…」

 

 悪魔か神か、昨日…俺に道標をくれた人達…

 感謝した方が良いのか?それとも憎むべきなのか?

 彼女が手に入れる全てを…俺に壊す権利があるのだろか?


「あぁ…きっと…そうだな…きっといつか…ちゃんとな…」


 俺はサラの描いた『海と、繋ぐ王子と女の子』を握りながら静かに涙を流して…つられてサラも少し泣いていた。


 誰を選ぶかなんて考えちゃいない。ただ指の隙間からこぼれ落ちないように…心ではなく行動で…皆が、幸せになるように…

 

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