幼馴染の彼女をNTRされても僕は絶対許すマン、しかしもう一人の学園一の美少女である幼馴染が「それが許されるのはサバンナだけ、動物園では許されない」と恫喝する。僕は2人の幼馴染とそっと距離を取るが…?
第3寝〜序章の終わり・大空へ羽ばたけるのは極僅か 大多数はその姿に手を振り見送り 見送る者達を睨め上げる俺一人
第3寝〜序章の終わり・大空へ羽ばたけるのは極僅か 大多数はその姿に手を振り見送り 見送る者達を睨め上げる俺一人
バスが発車した、バスに乗っている時間なんて僅かな時間なんだ。昔は歩いて行ってたしな。
その短い時間のバスでも聞こえる疑念のさえずり…凄い綺麗な人…とか、隣は弟さん?…とか…いつも僕は友達にすらなれないんだよな。いつもの事だ、知ってるよ。
今日は良いよ、もう最後だ。存分にさえずれよ。
その声が今日の覚悟を…決心を揺るがないものにするんだ。
そんな事を考えているとシアが話していた事を聞き漏らす。
「…それでね、テレビで放送する、なんか芸能人とかの出るスポーツ大会に出ることになったんだけど…太郎は…どう思う?」
気付けば普通の喋り方でなにか相談を受けていた…
「へぇ、そりゃ凄いな。勝てそうなのか?」
なんかよくわからんが勝負ごとだろうか?
だったらこんな感じの返事?
するとプンプンしながら腕を振り怒るシア。
「そーゆー話しと!違う!全然!聞いてない!おかしいよ!?ちゃんと話したぞ!?」
「うおほ!?ごめんごめん!それでなんだっけか?」
「全く!困った!太郎!困ったヤツ!」
ハハハと言いながら聞き流す…それからテレビの話はしなくなった。口調も原始人に戻ってる、誤魔化したのバレてるんだろうな。
まともな口調の相談なんて決まってるんだ、シアが高く飛ぶ為の…シアだけの物語の話。
僕はそれを聞くのが嫌で、時折こうやって聞き流す。つまり逃げ出すのだ。
それを察知するとシアが話し方を変える…本当に申し訳ない気持ちになってくる。
情けないが返事をするのが…辛いから。
『応援するから頑張ってこいよ』とでも言えば…
僕の心が死ぬ。
いつまでも側で応援すると言うのと同義だ。
敵意の中に、居続けて。僕は発狂するだろう。結果的にシアに迷惑がかかる。
『出ないで欲しい、ずっと近くに…』とでも言えば…
シアの未来が死ぬ。
それに僕に対して凄まじい圧力がかかる。二人で逃げる?好きな人の将来潰して?
出来るわけない、ドラマじゃあるまいし。
そうやって自分だけ逃げてきたツケがコレだ。
シア…本当にごめんな。今日こそケジメ…つけるから。
今日のチケットは僕の奢り。今日ぐらいはね。
この動物公園は最初に人気の動物がドンドン出る…ゾウ、ライオン、キリン…
その都度、シアは懐かしい!と声を上げる。
シアが途端に笑顔になり、昔話に花が咲く。
「アレ!アレも!子供だったヤツ!大きくなった!」
蘭子が動物があまり好きではなく、来ない事が多かった。だから低学年の時はまだ生きていた僕の父とシアと3人で、そして高学年になってから、ここには2人で何度も来たからな。
「なぁ太郎!アレ、子供だったやつ!アイツの子供!?…テングザルの鼻が伸びてる!?」
本当に動物が好きだったシア、そういえば小学生の時、動物の飼育員になりたいって言ってたな。
今もまだ…同じ気持ちなのかな?
「そういえば昔…子供の時は飼育員になりたいって言ってたな」
シアは目を見開いて僕を見る。そして…そっと腕を絡ませてきた。
「嬉しい!太郎が覚えてる!嬉しいな♥」
そんな満面の笑みで見ないでくれよ…僕には夢なんてなかったから、家でできる仕事が良いとか言ってたな…
『それなら!飼育する!太郎を飼育!』
そういや馬鹿な会話してたわ…楽しかったな。
ふと、シャッター音が聞こえた。ザワザワと音がする。
そうそうこの感じ。シアが距離を詰めると一気に始まる好奇と怨嗟。別に付き合ってもいない。
僕とシアは小学生から変わらずいつも通りなんだよ。
時間と成長と周囲が狂わせるんだ、僕とシアの空気を。
こんな場末の動物公園でコレだ…街なんか出たら…
まぁ今日は、写真でも言質でも何でもとれよ、話題にしろよ、吊るし上げてみろよ?
こっちは今日限り、覚悟が出来てんだ。
シア、頑張れよ。もしかしたら飛びたくないかもしれないけど…シアならきっと、とても住み良い場所まで飛んで行けるから。
陸上でもバスケでも、モデルでもアイドルでも
そして疲れたら居心地の良い所に降りて、飛ぶのをやめて生きていけば良い。幸せになって欲しい。
シアなら素晴らしい人に出会える筈だから。
だから、俺の弱さ…最後の我儘。許してくれな。
「太郎…何かおかしいぞ?…楽しくないか?動物…ほら!アイツ!小さかった奴だぞ!?かわいいね…たろう…」
「いや楽しいよ、久しぶりだから色々考えちゃって。あのライオンも大きくなったなぁ」
シアは他人になにか言われたり、カメラで撮られる事にいちいち反応しない。
最早それが当たり前の感覚なのか、それとも乗り越えられる程のメンタルの強さなのだろうか?
どちらも僕には考えられない事だ。
しかし途中、動物を見てる時、歩いている時、トイレに行ってる時、何度もシアが声をかけられ…少しずつ、シアの顔が曇っていく。
いや、耐えてるつもりでも僕の顔が死んでいっているんだろうな…それを見てシアが…気付いていってるんだ。口調もメチャクチャになってきた。
僕がシアの作り出す環境に不快な気分になっている事。
それに気付いているけど、どうしょもないんだ。
そんなシアを見て、僕も大分、擦り減ってきた。
途中の広場でお昼にする。シアがお弁当を作ってきたという。
おにぎりとウインナーと卵焼き。シンプルなお弁当だ。昔と変わらない…いや、昔と、同じにしている。嬉しいな…
「シアのお弁当は久しぶりだな、小学校の時、ここに来て以来か?」
「うん!6年生の時かな?あの時より美味しくなってるぞ!」
「うん、上達したなぁ…嬉しいな、これ食べれたら…もう…良いかなぁ…」
俺が笑顔でおにぎりをパクつく、本当は味なんてしない…胃が酷い事になっているから。
無理矢理喉に押し込み流し込む…きっと…上達したんだろうな。子供の時の卵焼きヤバかったもんな。味わかんねーけど美味しい、うん。涙は出しちゃ駄目だ…美味しいんだから…最後の晩餐じゃないんだからさ…
シアはボソッと言った。
「太郎…今の自分の顔…どんなか…分かるか?今日…わざと…このために…ここに?…こんなのって…まさか…ずっと…今まで…ずっとなのか?」
「俺の気持ちの話か?それとも周りの話か?他の事は何の事かわからないけど…今日はとりあえず、2人で会うのは最後のつもりで来たんだよ。またいつか来るかもしれないけどね…とりあえず高校の間は来る事はないんじゃないかな?」
軽く、なるべく軽く…
シアは眉間に皺を寄せ…唇を噛み締め下を向く…震えているのは怒りなのか悔しさなのか…どっちでもいいか、どちらであっても辛いから。
だから、なるべく軽く言う。
別に死別する訳でも、断絶する訳ではないんだから。
「ずっと…ずっとだったのか?…私が…太郎に…私のせいで…気付かないで…太郎が…苦しんで…」
「はは、馬鹿!勘違いしないでよ?ずっとじゃないよ。分かりやすくなったのはすこしだけ前から、最近だよ。シアも少しは気付いてた…でしょ?でも、完全に理解るわけ無いよ、だってシアとは関係ない所で行われてる事だもん。だからシアは何も悪くないよ。だから今後はどうなるかわからないけど…とりあえず…今日という日が僕の限界なんだ…ごめんな」
シアの顔が真っ青になっていく…ポロポロと涙が零れ落ちる…シアが泣く…インコのピコちゃんが死んだ時から見ていなかった…ナミダだった…
「シア、そんな顔するなよ…今日で一生お別れとかじゃないんだ。な?ほら、美味しいおべんとをたべ…」
ガッと肩を掴んできた…そして揺らす…
「タロァッ!捨てるのかッ!?わだじを!ずでるのかっ!?ダラァ!ごんなにっ!だらぁ!好きなんだぞ!ダロぉのこどがっ!ズギナノニっ!ガンバル!ごどず…ら…ダメ…なの…か?」
周りがザワザワする…そうだろう…妖精の様なシアが泣いて叫んでいる。そうなれば?泣かした俺は極悪人だ。そんな目で見られるのはもう慣れた。
そして聞こえるんだ、言葉の暴力が…
シアがキョロキョロした後、周りに気付いた…世間の仕組みを。印象という格差を。立場の違いを…シアは抵抗する…けどそうじゃないんだ…戦えるものじゃないんだよ…
「ダロは!わるぐないっ!見るなっ!お前等がっ!決めつけるなッ!!何だよ!勝手に決めるなっ!ヴァぁあッ!ギエロッ!ヴァあらぁっ!」
いよいよおかしくなってきた…
最後だし、良いよな。小学校以来だな。
引き寄せて、抱きしめて、頭を撫でた。
これが最後だからな、僕が好きを意識した時と同じ事、そして僕の好きが終わる時だ。丁度いい。
「嫌いになった訳じゃない、永遠に会えない訳じゃない。ピコちゃんが亡くなってしまった時、シアは言ってたろ?僕も同じ気持ちなんだ。シアには羽ばたいて欲しいんだよ」
こういう時、その人の大事な思い出であげあしを取る。卑怯なやり方だ。
そうすると認めざるを得ないんだ。
「それにね、今日は一箇所、どうしても行きたい場所があるんだよ。だからもう少し良いかな?俺の思い出作りみたいになるけどね」
抱きしめていると、シアは腕、いや身体全体で『いやだ!いやだ!』と言いながら抱きしめ返す…僕のほうが身長低いからな…不思議な感じだ。
そして僕は、シアを優しく引き離し、片付けをして歩き出す。シアに手を伸ばして立たせてあげる。
今から向かう場所でやる事に比べれば…周囲のざわめきなんて、なんてことない。
僕らは僕らの思い出の場所へ向かう。
僕は前を向き、シアは俯いている。
…それは何のことは無い。動物公園の折返し地点にあった、動物の糞の化石や模型が無造作に置いてあった場所。
向かいながら思い出すんだ。
小さい時、小学校の遠足で…シアは迷子になり、この動物公園の糞コーナーに、迷い込んだ。
その時、僕は「なんで端っこに糞の模型なんかおいてんだろう」と疑問に思いながら見てた。
すると半泣きになったシアがいた。アレは1年生の時か?すぐ近くに住んでいたけど知らなくて…なんか泣いてる…接点の無かったシアを慰めようと、動物の糞を事細かに説明して、どんな動物の糞が好きか聞いたりするというアクシデントを起こしてしまった。
しかしシアは大笑いしながら言った。
『アハハ!ばかだ!シアは!この動物の糞の化石が好き!だって!動物が不明!意味不明っ凄いっ!化石だって!糞の!』
その後、二人で笑いながら動物の糞コーナー…という程でもない、ただ適当に作ったオブジェを二人で想像や感想を交えながら話してた。
気付けば先生が来ていて怒られた。お別れの時に帰り道についてきた。
『シアだよっ!ねえ!私はシア!タロっ!一緒になろう!帰ろっ!ずっと一緒!』
『そうだね、シア、ずっと一緒だよ、蘭子も一緒だ』
『ちょっと、この子、シアちゃんだよ、あの我儘でおかしな…』
蘭子がジト目で訴える…まぁ小学生の時はよく分かって無かった。この時は…
僕の好きはずっと一緒にいたいという気持ち
シアの好きはきっと愛していると言う気持ち
それからは思い出せばいつも一緒にいた…
ハレノヒも雨の日も風の日も、
春夏秋冬、落ち込んだ時も風邪の日も、
小学6年生で転校すると聞いた時、シアは泣いて騒いだ。
『転校しないっ!』と騒いだ…その時も抱きしめて頭を撫でた。
『また会おうね』って約束した。
高校一年で帰ってきた…同じ学校に。
嬉しかったんだ。そして、怖かった…僕はあの時から変わっていたから。
だからシアが変わっていなかった事に驚いた。
だけど…本当に恐ろしいのは…周囲ごと巻き込んで…シアが変わっていく事だった。
伝えないと…
――化石!糞だって!これ変!変だよ!(笑)――
「中学の時に…父さんが死んで…少し経ってから来たんだ」
――じゃあシア!コレは?このウンチも変だね――
「母さんとは血が繫がってないから…連れ子だった妹の茜がいる限り僕は家族じゃないんだって思った…」
――タローっ!シアと一緒!ずっと!――
「だから父さんと…シアと…思い出の場所に行けば変わらずいられるとおもったけど…」
――じゃあ太郎とシアちゃんは、二人で一匹だな――
「僕が来た時には…もう無くなってたんだよ」
――このウンチの場所は僕とシアだけの場所――
「あぁ…全部無くなったんだ…無くなるんだって思ったら…僕はもう…誰の目にも映らないものや…人が嫌うもの以外…関わるのが怖くなった…」
シアが跡地…動物の糞のコーナーの跡地で…何も無くなった空き地に膝を着いた…そして…そのまま地面にひれ伏して…泣いていた…それこそワンワンと…子供のように泣いていた…
「ごめんな…僕は…愛される人が苦手だ…期待に答えられる人が駄目だ…憧れと関りたくないんだ…何故ならその人が引き連れている人や、引き寄せる人が…その他大勢じゃない俺を排除しようとする奴らが…殺したい程憎いんだよ…その人にとっては大事な人だっているのにな…狂ってるんだ…」
「わだじ!ごべん!わたじが!…どうずれば…どうずればあい!?どうずれはよがっだ!?ダロォっ!おじえでよぉ!…」
「シアは悪くないよ、シアの事は憎くないんだよ?好きだっだよ…だがら…そんな泣くなよ…いづがまた…同じ気ぼちで…思い出の場所で会えると良いな!だから、ぞればで…じゃあな!ジアっ!」
無くなった思い出の場所でお別れして…無くなった場所で待合せの約束…そんな事を自分で言って、勝手に告白して、勝手に泣いて…本当に僕は自分勝手だ。
「いやだっ!いやだっ!タロァっ!ジエッダイやら!にゃんてぇっつもとりぇば!もどぜばいいんだ!」
そっから先は覚えていない。シアと帰った気がするけど…帰ってないような気もする。
劇的な別れをしても時間が変える。
きっと場所や人が、シアを変える。
これで良かったとは言わない…僕にはこれしか無かったんだ。
二人の幼馴染がいた僕は、空気のような存在の一人と付き合っては別れ、そしてとても大切にしていた好きだった一人とは振って告白して別れを告げて…
やっと、俺は独りになった
※緩やかに更新します。暗い話です。明るい話が好きな方は是非NTR耐久狂の宴をご覧頂ければと思います。
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